手と手をとりあえよ
「お前さ、とりすぎだよ、取りすぎっつってだよ。俺がさ、最初に掴み、持ち上げたんだぞ」
お椀を持った右手がしゃべる。
「あらあら言葉がお下手ね。そうねあなたが持ち上げたわ。そして私がお箸ですくう。その通りじゃない」
箸を持った左手がしゃべる。
「いや違う。その通りじゃない。いつもは違う。左手が椀を持ち、オレが箸ですくう。常に右利きだ。こいつは左利きじゃない」
「どっちが持ってもいいじゃない。ヒヒヒ、品性がないお猿。ここ最近はあなたが箸ですくっていたけど。今日は私。今日はあなたじゃない。そのままその通りよ」
どちらでもいい。早く私の口に麺を運んでくれ。その椀に入ったざっくり感もさること、そうめんのようなしなやかさとの同居を実現した。実に新触感だといわれる博多ラーメンを。
「嫌だよ。お前の口に麺を運びたいわけじゃないけど、こいつに運ばせるのはだめだ。それは俺の仕事、役割、生きる意味だ」
「ウキイ!キイ!ナワバリハイルナ!セイイキヨゴスナ!、ヒヒヒ、まあお下品。こいつの口に麺を運ぶことが生きがいですの?どちらでもいいじゃないこんな…、しょうもない」
ズズー、ズズウウウ、ズルズズルズルーーッ、ズズズズズウズズズズズズズッ
「!?」「!?」
「この奥深い塩も素晴らしい!!しっかりとしたフルボディな油のコッテリ感もあって…小麦の香ばしさも感じられます!!100点!!1000点!!10000点!!!!!」
「こいつ手をつかわずに…堕ちたな。外道に落ちたな」
「ラーメンを食べるしか能のない生き物…、ラオタよ、ヒヒヒ、ラオタラオタラオタ!!」
私は比較的アッサリしているなと思いながらラーメンを無心ですすり続けた。両腕を汲みながら。椀の中に顔をつっこみ、幸せをすすり続けた…。
幸せですが、なにか?