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第5話 おでかけクレープ



 ルルちゃんをお父さんの元に返すため、私達は領地内の宿泊施設から情報を集めた。

 しかし、探し求めている人物はなかなか見つからなかった。


「辺りの宿泊施設に連絡を入れたが、獣人族が泊まっている情報はなかった。もしかしたら、正体を偽って泊まってるのかもしれないな。閉鎖的な種族だし、あり得ることだと思う」

「なるほど。ちなみに、宿泊施設側が情報を隠しているという可能性はないですか?」

「なぜ隠すんだ?」

「何か事件や事故が起こらないように、お客様の情報を漏らさないことを徹底しているのかなと」

「? こちらは公爵家だし、事情も説明したのに、その必要性はないんじゃないか?」


 なるほど。この世界には個人情報を保護するという観点があまりないのかもしれない。


「なんでもありません。それなら、宿泊施設側に張り紙でもしてもらいましょうか。公爵家で、こういう子を預かってますって」

「そうだな。それがいいと思う。あとは連絡待ちになるな……」


 私達がうーんと唸っていると、トテトテとルルちゃんが近寄ってきた。そして、私のスカートの裾をそっと引っ張る。


「ルルのことで悩んでる? ルル、迷惑かけてる……?」

「迷惑じゃないよ。絶対にお父さんのこと見つけるからね」


 私が頭を撫でると、ルルちゃんは「うん」と小さく頷いた。アベラルド様はそんなルルちゃんを抱き上げた。


「自分が大変な時に人のことを気にして、ルルはいい子だな」

「そうなの?」

「私もそう思うよ! ルルちゃんは優しいね」

「えへへ」


 ルルちゃんはほっぺを赤くして、はにかむ。可愛い。


「よし。気分転換にお出かけでもするか?」

「おでかけ? いいの?」

「もちろんだ。今日は仕事が休みだからな。一緒にどこかに行こう」

「やった〜」


 その姿を見て、アベラルド様はいいお父さんに(以下略)


 あれ、その場合のお母さんって(以下略)


 でも、まだキスすら(以下略)


 私がこの間と同じことでワタワタしていると、アベラルド様がこちらを振り返って、首を傾げた。


「ジゼル、顔が赤いな? 大丈夫か?」

「だ、大丈夫です……っ」


 変なことを考えて焦っているとは知られたくなくて、咄嗟に首を横に振った。

 その後もアベラルド様は私の様子を気にしているようだったけれど、「すぐに出かけましょう」と彼の背中を押すことで誤魔化したのだった。




 ルルちゃんを真ん中にして、私達は三人で手を繋いで街の中を歩いていく。ルルちゃんは街中を出歩いたことがないと言うので、目的なく三人で街を見てまわった。


「あ、ジゼル様!」


 その途中で、いつも魔法道具を作ってもらう職人さんと出会した。彼はにこやかに話しかけてくる。


「ジゼル様、お久しぶりです。今日は何か用事が……」


 そこまで言って、彼は公爵様とルルちゃんに気づいたみたいだ。彼は私たちを交互に見てから、何かに気づいたようにハッと口元に手を当てた。


「まさか、お子様ですか⁈」

「違いますよ⁈」


 私が慌てて否定すると、「あ、そうなんですね、失礼しました。それでは今後ともうちの店をご贔屓にー」と去って行った。


 びっくりしたけど、それ以上話を広げないで去って行ってくれてよかった……。ちょっと気まずいもんね。


 ほっと息をついていると、今度はルルちゃんが私の袖を引いて首を傾げた。


「ママとパパ?」

「ちがうよ⁈」


 私が困っていると、ルルちゃんの隣で今度はアベラルド様がポツリと呟いた。


「でも本当に俺たちの子供みたいだよな。ルルの髪色はジゼルと、瞳の色は俺と同じだし。本当に子供がいたらこんな感じ……」

「……」

「すまない」

「いえ……」


 もう、もう、もうっ!

 私が必死に意識しないようにしてるのに、アベラルド様は天然で爆弾発言をする。


 そりゃあ、私だってちょっとは「子供がいたらこんな感じなのかなぁ」とか「それも楽しいかも」とか思ったりしたけど!

 でも、実際にそんなこと言われたら、意識しちゃうじゃん!


 私が顔を赤くしてむくれていると、途中でアベラルド様が私とルルちゃんにクレープを買ってきてくれた。


 困り眉のアベラルド様がクレープをこちらに差し出す。


「ジゼル……。その、変なことを言ってすまない」


 アベラルド様が結構申し訳なさそうにしていたので、ちょっとだけ笑ってしまった。


「私の方こそ、むくれてごめんなさい。クレープ、ありがとうございます。美味しそうです」

「よかった」


 私たちが微笑みあっていると、その様子をジッと見ていたルルちゃんは首を傾げた。


「いちゃいちゃ?」

「違うよ⁈」

「ど、どこでそんな言葉を覚えたんだ⁈」

「リーリエちゃん」


 ルルちゃんの返答に、私達は二人で「あぁ……」と頭を抱える。リーリエなら、その言葉を教えてそうだな、と。


 ルルちゃんはさらに追加攻撃を仕掛けてきた。


「二人は、ちゅーもするの?」

「ししししししないよ⁈」

「⁈」


 私の返答に、なぜかアベラルド様がショックを受けたような顔をした。

 私は慌てて言い繕う。


「あ、いや……嫌ではないんだけどね? その、えっと……タイミングもないしね?」


 いつもお仕事して、週末は飲んで、お休みの日はそれぞれのんびりして……と過ごしているから、なかなかタイミングがない。

 というか、キスすらしてないことにもこの間気づいたくらいだし……。


 あれ? 私が意識してなさすぎ?


「と、とにかく! クレープを食べよう! ほら、アイスが溶けちゃうよ!」


 私はその場を誤魔化して、すぐにクレープにぱくついた。


 アベラルド様がくれたクレープは、いちごとホイップクリームがたくさん入ったものだった。上にはバニラアイスとチョコレートソースがかかっている。


 口に入れた瞬間、冷たいバニラとチョコレートソースの甘さが口いっぱいに広がった。


 いちごは果肉がつまっており、ジューシーだ。いちごのほのかな酸味が、甘いクレープのいいアクセントになっている。


 糖度の高い美味しい食べ物に、脳内が幸せで満ち溢れていく……。


 その時、アベラルド様からの視線を感じたので、彼の方を見る。


「どうしたんですか?」

「その、さっきの嫌じゃないって……いや、なんでもない」

「? そうですか」


 クレープの美味しさにさっきまでの会話をすっかり忘れてしまった私は、そのまま夢中でクレープを食べ続けたのだった。


 その後、クレープを食べ終えたルルちゃんが「ふぁあ……」とあくびをした。


「眠くなってきちゃった……」

「じゃあ、抱っこして帰るか」


 確かに馬車まで少しだけ距離があるから、ルルちゃんを抱っこする必要があるだろう。しかし、すぐに私は手を伸ばすアベラルド様を止めた。


「待って下さい。さっきまでも、時々ルルちゃんを抱っこしてたから、そろそろ腕が疲れてきてませんか? 今度は私が抱っこしますよ」

「でも、ジゼルの腕力だと大変だろう? ここは俺が……」

「じゃあ、ルルが小さくなるよ!」


 ルルちゃんの言葉に、私達は目を丸くする。


 元々小さいルルちゃんが「小さくなる」とは一体……。


 私達が戸惑っていると、ルルちゃんは「どろん!」と言った。


 その瞬間、ルルちゃんの周りに煙が立つ。煙が散っていくと、そこに現れたのは一匹のたぬきだった。


「えぇ⁈ ルルちゃん⁈」

「ルルだよー」


 私がしゃがみ込むと、たぬきになったルルちゃんが駆け寄ってくる。


「ジゼルちゃん、これでルルのこと抱っこできるよね?」

「う、うん」


 私は戸惑いつつ、ルルちゃんを両手で抱える。

 あ、もふもふしてる。温かくて柔らかくて、毛並みがふわふわだ。


 ルルちゃんは私の腕の中で気持ちよさそうに目を閉じていて、初めて感じる幸福感が胸に溢れた。


「それじゃあ……解決したし、帰るか」

「そうですね」


 ルルちゃんを抱えて、アベラルド様と歩いて行く。


 本当は早く彼女のお父さんを見つけなきゃいけないけれど……もうちょっとだけ、ルルちゃんとこうして暮らせたらいいのに。そう思ってしまった。


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