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第4話 サクッとトロッとたこ焼き



 突然、女の子がボロボロと涙を流し始めた。


「……っ、ぅ、……っ」

「大丈夫⁈ どうしたの……⁈」

「ぉ、おいしい……」

「え?」

「おいしいよぉぉぉ」

「えぇ⁈」


 その後も、なかなか泣き止まなかったので、私はその子が落ち着くまで、そっと背中を撫で続けたのだった。


 しばらくして、その子が落ち着いてから、私は話しかけた。


「私の名前はジゼル。あなたの名前を教えてもらってもいいかな?」

「……ルル」

「ルルちゃん! この辺りには、どうやって来たのかな?」

「おとうさま。でも、はぐれちゃった。それで、えっと……たくさん歩いて、お腹が空いたから、畑のトウモロコシをもらってたの」


 私とアベラルド様は顔を見合わせる。畑を荒らしていた犯人は、この子だったみたいだ。


「畑のものを勝手に食べるのはダメなことなんだよ。そういう時は、大人に助けを求めてね」

「にんげんが、怖かったの……。悪い子のルルを売る?」

「売らないよ。でも、後でトウモロコシを作った人に謝りに行こうね」

「……うん」


 ルルちゃんは、「売らない」という言葉に安心したようで、勢いよく手元のコーンスープを食べ始めた。

 きっと、ずっと一人で不安だったし、いきなり知らない場所に連れてこられて不安だったんだよね。

 それに、獣人族は閉鎖的な民族で、普段は人間と関わらないみたい。だから、幼い子は特に人間を怖がってしまうのかも。アベラルド様がコソッと教えてくれた。


「とりあえず、獣人族の集落に一報を入れよう」

「お願いします。それまでは公爵邸で預かりましょうか?」

「そうだな」


 アベラルド様は、ルルちゃんの視線を合わせるように、しゃがみ込んだ。


「ルル。君のことは、うちで預かろうと思う。いいか?」

「……うん」


 ルルちゃんは一瞬ビクッとしたけれど、頷いてくれた。アベラルド様は慣れない様子で、そんな彼女の頭を撫でた。


「よし。それじゃあ、お風呂にも入ろうな。あと、服がボロボロだから、着替えも用意するからな」


 そうして、私達とルルちゃんの生活が始まった。

 最初は私のことを警戒していたルルちゃんだったけれど、美味しいコーンスープを飲んだことで安心したみたいだ。嬉しいことに、私に懐いてくれた。


 私のことを「ジゼルちゃん」と呼んで、後ろに付いてくる姿がとても可愛い。ジゼルの「ル」が上手く言えてなくて、若干「ユ」が混ざってるのも可愛い。


 アベラルド様に心を開くのは少しだけ時間がかかった。しかし、彼が不器用ながら仲良くなろうと努力していたから、次第に懐いていった。そして、そんなアベラルド様の呼び方は……。


「アーちゃん」

「アーちゃん⁈」


 まだ幼いルルちゃんは、「アベラルド」が上手く言えず、しばらく悩んだ後、「アーちゃん」と呼ぶことにしていた。

 可愛いし、ちょっと面白い。私が静かに面白がっていると、その様子を見たリーリエがすかさずアベラルド様を揶揄いに行っていた。


「ぷぷぷ、可愛いですね〜。アーちゃん」

「……リーリエ。やめてくれ」


 アベラルド様が頭を抱えていたのは、言うまでもない。

 そして、その後ろでレンドール君は、「公爵様を愛称で呼んでる⁈ 僕ですら呼んだことないのに……⁈」と静かに衝撃を受けていた。

 実際にそう言っていたわけじゃないけれど、表情がすべてを物語っていた。


 それから、数日が経過した。


「とりあえず、いくつかの獣人族の集落に使者を送った。あとは、回答待ちだな」


 私とアベラルド様で「うーん」と唸る。とりあえず、しばらくはうちでルルちゃんを預かるしかないよね。


「ところで、ジゼルは何をやっているんだ?」


 半球型にへこんでいる部分がたくさんある鉄の板を見て、アベラルド様が首を傾ける。


「ふふふ! 実は頼んでいたものがきたので、試作をしてみようと思いまして」


 私は作ってもらった魔法道具のスイッチを入れて、あらかじめ作っておいた生地を流し込む。タコを入れて、いい感じに焼けてきたらひっくり返して……


「できました! たこ焼きです!」

「おぉー……?」


 アベラルド様が不思議そうな顔をしている。まあ、見たことも聞いたこともないだろうからね。


 自作のソースなどをかけて、アベラルド様の前に差し出す。すると、すぐにアベラルド様はたこ焼きを口に入れた。


「あっつ……、ん、うまいな⁈」

「ですよね〜。私も一つ食べてみようっと」


 私もたこ焼きを口の中に放り込む。少し熱かったので、口の中ではふはふと熱を冷ましながら食べた。


 ソースの香ばしい美味しさと、たこ焼きの食感が最高だ。

 外はパリッと、中はトロッとしていて、ぷりぷりのタコがいいアクセントに。


「ああ、お酒……。お酒が飲みたい……」

「ジゼル、気を確かに」


 私とアベラルド様がたこ焼きを楽しんでいると、ぴょこんとルルちゃんが部屋に姿を現した。


「ルルちゃん? どうしたの?」

「美味しそうなにおいがしたから、来たの。ダメだった?」

「ダメじゃないよー。こっちにおいで」

「やったぁ」


 ルルちゃんはパァッと顔を輝かせる。可愛い。


 ルルちゃんのために新たにたこ焼きを作ってあげる。実はタコ以外にも、エビ・イカやチーズなど中に入れる具材をたくさん用意していたので、それはルルちゃんに選ばせてあげた。


 こうやって、少し遊び心を加えるのも自作たこ焼きの醍醐味なんだよねぇ。……タコが入っていないのに、「たこ焼き」と呼んでいいのかどうかという疑問は置いておいて。


 作り終えたたこ焼きを、ルルちゃんはすぐに食べようとしたんだけど、それをアベラルド様が止めていた。


「あ、待て。そのまま口に入れたら熱いぞ。冷ましてやるから」


 そして、たこ焼きに息を吹きかけて冷ましてから、食べさせてあげていた。

 微笑ましいし、アベラルド様はいいお父さんになるんだろうな。


 ……待って。その場合、お母さんは私かな⁈


 公爵家の妻は私だから、自然とそうなるよね? でも、アベラルド様とはまだキスすらしたことなくて……あれ? あれ??


 私たちって、キスすらしていないんだっけ?


 一人でそんなことを考えてワタワタしていると、ルルちゃんが首を傾げた。


「ねぇねぇ、このたこ焼きさんにお絵描きしてもいい?」

「お絵描き?」

「うん。白いソースでお顔を描きたいの」


 たこ焼きに顔を描くなんて、発想したことなかったな。いつも「食べ物は美味しいか否か」で判断していて、前世でもインスタ映えとか気にしたことなかったしね……。

 でも、可愛いかも。


「いいよ。でも、ソースをかけすぎたり、残しちゃうのはダメだよ」

「分かった!」


 ルルちゃんは喜んでたこ焼きにお絵描きをし始めた。それを微笑ましく見守っていると、アベラルド様が話しかけてきた。


「ところで、今日はなんでこれを作ったんだ?」


 さっき考えてしまったことでアベラルド様にちょっとだけドキドキしながら、答える。


「実は、今度のお祭りで出す料理の案なんですよ」

「そうだったのか」

「まだいくつか案はあるんですけど……って、ルルちゃん? どうしたの?」


 いつの間にか、ルルちゃんが涙目になっていてびっくりした。ルルちゃんが口を開く。


「お祭り……。おとうさまとお祭り行くって約束したんだ……。おとうさまとお祭り、行けないのかな……」


 ルルちゃんの言葉に、アベラルド様と顔を見合わせる。


 そういえば、公爵領のお祭りって、領地外の人も集まるほどの人気だったよね? このお祭りのために数週間前から領地に泊まる人もいるくらいって。


 ルルちゃんもお祭りのために、獣人族の集落から出て来たってことだったんだ。

 それなら、この辺りの宿泊施設に滞在している可能性が高いよね。


「ルルちゃん、大丈夫だよ! 絶対におとうさまを見つけようね!」


 絶対にこの子を親元へと返すんだ。私はルルちゃんを力いっぱい励ました。

 

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