第3話 温かいコーンスープを一緒に食べよう
結界の檻に捕らえられていたのは、人間の女の子だった。大体5〜6歳くらいの子で、手にはトウモロコシを持っている。
海色の瞳に涙を溜めているその子は、こちらを警戒しているようだった。
「ごめんね! 檻に閉じ込められちゃったんだね⁈ 今、解除するからね!」
光の檻は作成者の私にしか解除できない。彼女は、この檻に閉じ込められて、すごく怖い思いをしたはずだ。
でも、おかしいな。この檻、人間は引っかからないようになっているはずなのに……。
私が檻を解除すると、すぐにその子は倒れ込んでしまった。慌てて私は、その子を支える。
「どうしよう。弱ってる。私のせいで……」
私が狼狽えていると、後ろからアベラルド様がやって来て言った。
「その子、獣人族だな」
「え?」
「領民達に聞いたが、この辺りに保護者はいないみたいだ。とりあえず、公爵邸で預かるぞ」
私とアベラルド様は、女の子を抱えて、馬車に乗った。女の子は私の膝の上で眠っているようだった。
私はさっそくアベラルド様に尋ねる。
「あの、獣人族ってどういうことですか?」
「魔物の血が混じった人間のことだ。その子の頭を見てくれ」
アベラルド様に言われて、その子の頭に視線を落とす。髪の毛を撫でると、頭に小さな獣耳が生えているのが見えた。茶色い髪と同じ色の獣耳だったから、気づかなかった。
見たところ、たぬきっぽい耳だ……。
「獣耳としっぽが生えているのが、獣人族の特徴だ。服の中には、しっぽが隠れてるはずだぞ」
「なるほど」
「いつもは山奥の小さな集落で生活している部族のはずなのだが……」
どうやら、獣人族が人里に降りてくることはほとんどないらしい。この子は何かしらのトラブルで、人里にまで来てしまったみたいだ。
この子はトウモロコシを手に取っていたし、もしかして最近畑が荒らされていたのも、彼女の仕業なのかな……?
私は膝の上に乗っている彼女を見つめた。規則的に息はしているけれど、心配だ。
「この子、大丈夫ですかね?」
「大丈夫だと思う。見たところ、檻に捕まってからそんなに時間は経っていないようだし、弱っているのは、浄化の力に晒されたからだろう。人間の要素の方が強いようだから、休めばすぐによくなるはずだ」
「それならよかったですけど……」
「とにかく、この子が目覚めて事情を聞くのが先だな」
「そうですね」
私はそっとその子の髪を撫でて、「ごめんね」と呟いた。
その後、公爵邸に戻った私達は、ベッドでその子を寝かせた。
しばらくアベラルド様と交代でその子の様子を見ていたんだけど……やがて、その子が目をパチリと開いた。
そして、状況が飲み込めないようで、しばらく辺りをキョロキョロしていた。しかし、視界に私を映した瞬間、びくっと肩を震わせて、部屋の隅で縮こまってしまった。
「あ、ごめんね。大丈夫、怖くないよ……」
「……っ」
うーん、全然心を開いてくれない。最初に結界の檻で怖がらせちゃったからだよね……。
私が「どうすれば安心させてあげられるのか」を考えていると、突然、ぐぅ〜とお腹が鳴った。私のお腹ではない。ということは、つまり、この女の子のお腹が鳴ったのだ。
「もしかして、お腹が空いてる?」
「……」
「それなら、ご飯を持ってくるね」
そう言って、私は部屋を後にした。部屋を出てすぐにアベラルド様がいたので、彼の元に駆け寄る。
「あの、あの子が目を覚ましました」
「本当か?」
「ただ、こちらをすごく警戒していました。とりあえず、お腹が空いてるみたいなので、ご飯を作っていきますね。獣人族が食べられる物って私達と同じですか?」
「まったく同じだから、いつも通りで大丈夫なはずだぞ。それじゃあ、今度は俺があの子の様子を見ておく」
「お願いします」
アベラルド様に情報を伝えた後、私はキッチンへと向かった。
キッチンの中で何を作ろうか考える。
あの子がどこから来たか分からない。しかし、服も汚れていたし、弱っているようだった。もしかしたら何日もまともな物を食べていないのかもしれない。
そう考えると、とりあえずお腹に優しいものがいいよね……?
「よし。コーンスープを作ろう」
あの子はトウモロコシを抱えていたし、もしかしたら好きなのかもしれない。
ちなみに、あの子が抱えていたトウモロコシは、畑主にきちんと返している。本当にあの子が畑を荒らしていたのか分からないけれど、そちらの対処は後から考えよう。
私はコーンスープを作るために、公爵邸にあったトウモロコシを切り始めた。
鍋で沸騰させてから、コーンを撹拌していく。牛乳を加えて、煮溶かしたら完成だ。
私はさっそく完成したコーンスープを部屋へと持って行った。部屋の中では、アベラルド様と女の子が距離を置いて座っていた。
どうやら、一定の距離以上は近づくのを許してくれず、一言も話そうとしないみたい。
「えっと、コーンスープを作ったから、食べない?」
「……」
やっぱりその子は話そうとしないし、コーンスープに手をつけようともしない。緊張した面持ちで見守っていると、アベラルド様が口を開いた。
「……ジゼル。そのスープ、俺たちの分もあるか?」
「え? 残ってますけど……」
「それなら、俺たちもここで一緒に食べよう」
アベラルド様の言葉にハッとする。確かに、ジッと見られてたら食べづらいよね。一緒に食べることで安心してもらえるかも。
「今、持って来ますね……!」
そうして、私達はコーンスープを部屋で一緒に飲み始めた。
「コーンスープ、温かくて美味しいな。それに、すごく濃厚だ」
「実は生クリームを入れたんです。これで結構美味しくなるんですよね〜」
「へぇ、面白いな」
私とアベラルド様が会話をしていると、女の子の耳がピクピク動き始めた。すると、そっとコーンスープに手を伸ばした。
そして、恐る恐る口をつけた。
「……っ」
その瞬間、その子がボロボロと涙を流し始めた。
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