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第30話 まさかの謁見





 その後、私達は、すべての料理を作り終えることが出来た。作った料理は、無事に国王夫妻の元へ運ばれ、私達は後片付けを始めていた。


 食器洗いもほとんど終わり、「もうすぐお開きかな〜」「それとも、お疲れ様でしたの飲み会するかな〜」と呑気に考えていた時だった。


 レオナルド様が再び、厨房にやって来たのは。


「ジゼル、少しいいか?」

「レオナルド様⁈ どうされたのですか?」


 まさか二度も訪問してくるとは思わなかったので、驚いた。慌てて彼の元に駆け寄ると、彼は申し訳なさそうに口を開いた。


「実は……国王夫妻がジゼルに会いたいと言ってるのだ」

「えぇ⁈」

「ジゼルの料理を気に入ったから、ぜひ会って話を聞きたいらしい」


 レオナルド様の言葉に驚く。


 だって、公爵家当主の妻という肩書きがあるとはいえ、今の私は一介の料理人だ。国王夫妻が私を呼び出すことなんて、考えられないことだ。


 昨日、公爵様が冗談で「ジゼルに会いたいと言ってきたら……」なんて言っていたけれど、まさか現実のことになるなんて思いもしなかった。


 私が戸惑っていると、後ろから料理人さん達が声をかけてくれた。


「ジゼル様、行ってきて下さいよ! 後片付けは俺達がやっておきますから」

「こっちは任せて下さい」

「こんな機会なんて、滅多にないんですから。たくさん褒められてきて下さいね」

「み、みなさん……」


 料理人さん達の温かい言葉にジーンとする。けれど、私が隣国の国王夫妻に会う自信はなくて……。


「でも、料理をしていたから、着ているものも汚れてますし……」

「それなら問題ない」


 そう言って、レオナルド様はにっこり笑った。彼が片手を挙げると、数人の侍女が静かに厨房に入って来た。

 そして、私の腕をガシッと掴み、厨房の外へ連れ出そうと引っ張ってきた。意外と力が強い。


「え、ちょ、なんですか⁈」

「彼女達に任せれば、すぐに支度が終わるから」


 レオナルド様に手を振られ、私は引きずられるようにして厨房を後にした。




 数十分後。


 数人の侍女達にドレスを着せられ、メイクを施され、されるがままになっていたら、いつの間にか支度が終わっていた。


 今、私は青色の美しいドレスに身を包んで、淑女らしい格好になっている。小さな宝石が飾られているドレスは、動くたびにキラキラと控えめに光るから、落ち着かない。


 身支度を終えて部屋から出てきた私の姿を見て、レオナルド様が目を細める。


「うん。綺麗だな」

「き、恐縮です……」


 さらっと褒められて、身を縮こませる。レオナルド様は貴族の女性と関わることが多いから、こうやって褒めるのも慣れてるんだろうなぁ。


「それより、こんなに高そうなドレスで歩くの、とても怖いのですが……」

「安心してくれ。それは君にプレゼントするつもりで、着替えさせたのだから」

「へ⁈」


 衝撃の言葉に、固まる。そして、私は慌てて両手を横に振った。


「いただけません! こんな高そうなドレス!」

「もらってくれ。アリシアは着ないだろうし、君がもらってくれた方が助かるんだが」

「そ、そうなんですか……?」

「ああ。それより、国王夫妻を待たせているから、早く……」


 私とレオナルド様が話していると、そこを通りかかった人物が足を止めた。


「ジゼル……?」

「公爵様!」


 公爵様は目を見開いて、固まっている。私はすぐに彼の元へ駆け寄った。


「驚いた。どうしてドレスを着ているんだ?」

「今から国王夫妻に挨拶に行くことになって、そのために着替えさせてもらったんです」

「そうだったのか。その……に、似合ってるな?」

「あ、ありがとうございます……」


 この姿を見てもらえた嬉しさと気恥ずかしさから、顔が赤くなる。


 そんな私達の元に、笑顔のレオナルド様がやって来た。彼は笑顔を浮かべているんだけど、なぜか目の奥が笑っていなかった。


「アベラルド。このドレスは、ジゼルにプレゼントさせてもらおうと思っている。いいな?」

「そう、ですか。はい。殿下のご自由になさって下さい」

「ジゼルは元々愛らしい女性だが、磨けば更に光るな。しかし、公爵家では普段からこのような格好はさせないのか」

「……ジゼルはあまり派手な格好を好まないので」

「しかし、たまにはこういった女性らしいものもプレゼントした方がいいんじゃないのか?」

「……っ、言われなくても分かっております」


 気のせいかな。二人の間に火花が散っているように見えたんだけど……。


 公爵様がおもむろに口を開く。


「……今回は、冗談だとおっしゃらないのですね」

「本気で言ってるからな」


 そう言って、殿下は私を振り返った。


「それじゃあ、ジゼル。そろそろ時間だし行くとしよう」

「は、はい。……公爵様、行ってきますね」

「ああ、頑張ってきてくれ」


 私は国王夫妻に挨拶するために、レオナルド様と共にその場を去った。

 一瞬、振り向いた時に見えた公爵様の表情が悔しそうだったのは、気のせいじゃないよね……?

 私は公爵様のことが気になったけれど、すぐに国王夫妻が待っている部屋に辿り着いてしまった。そのため、すぐに意識をこちらに集中させることにした。


「それじゃあ、入るぞ」

「はい。よろしくお願いします」


 殿下の言葉に頷いて、覚悟を決める。扉が開かれると、そこには椅子に座って寛いでいる国王夫妻の姿があった。


 国王は私達の入室に気づくと、すぐに笑顔で話しかけてきてくれた。


「あなたがジゼルさんですね。初めまして」

「お初お目にかかります。ジゼル・イーサンと申します」

「あなたの料理を食べましたが、とても美味しくて……。お話を聞きたくて、つい呼んでしまいました」

「そう言っていただけて、光栄です」


 緊張しながらも、国王からのお言葉に受け答えしていく。グレンティ王国とミルフェール王国は使用言語が同じなので、言葉が通じないという心配はいらない。

 国王も優しく話しかけて下さるし、国王の隣にいるご婦人もにこやかに私達の会話を聞いている。


 とりあえず、滑り出しは順調だ。


 私は椅子に座ること勧められたので、恐縮しながら国王夫妻の前に座った。


 すると、すぐに国王が前のめりになって、口を開いた。


「我が国のタケノコであのような料理を作って下さるとは思いませんでした。どのように調理されているのか、教えていただいても?」

「はい。まず卵と小麦粉と冷水を混ぜて、それにタケノコを浸し、浸したタケノコを高温で熱した油の中に投入します。しばらく経ったら、タケノコを皿の上に取り出して、完成になります」

「なるほど」

「もしよろしければ、あとでレシピを書いてお渡しさせていただきますよ」

「それはありがたい!」


 私の言葉に国王が目を輝かせた。彼は笑みを浮かべて、話を続けた。


「それから、貴女の作ったお酒もとても美味しかったです」

「ありがとうございます」

「あれは、売り出してはいないのですか?」

「いえ。まだ販売はしておりません。けれど……」


 今回の国王夫妻への料理提供の仕事を引き受けたことで、私は酒蔵を与えられることが約束されている。

 酒蔵が完成して、人員を確保出来れば、日本酒の販売も夢ではないだろう。そうすれば、もっと多くの人に日本酒を届けられるようになる……。


 私は妄想を膨らませながら、にっこり笑った。


「いずれは販売したいと思っています」

「そうですか。その時は、君の作ったお酒を輸入させてもらいたい」

「本当ですか!」

「ええ。私も妻も、貴女のお酒を気に入りましたから」

「ぜひよろしくお願いします!」


 こうして酒蔵を作った後の販売先も決まり、私達は和やかな雰囲気で会話を続けた。


 しばらく歓談した後、私は退出することになった。

 私が別れの挨拶をして部屋を退出すると、すぐにレオナルド様が後を追って来た。


「レオナルド様? 部屋にいなくても、大丈夫なのですか?」

「ああ。国王夫妻から許可をいただいているから、大丈夫だ。それより、早くジゼルに感謝を伝えたくてな」


 レオナルド様はクスッと笑って、私を見つめた。


「ジゼル。今回、料理の提供を引き受けたくれたこと、感謝する。国王夫妻は新しい料理方法に感激していたし、これだけでも我が国に来た価値があると思っていただけたようだった」


 レオナルド様は嬉しそうに目を細める。


「今回の歓迎が成功したのは、ジゼルのおかげだ」

「そんなことないです。今回の成功は、すべてレオナルド様が奮闘されたからですよ。私はほんの少しお力添えしただけです」


 私がそう言うと、レオナルド様はふっと優しく笑った。


「誰もが自分の功績を私にアピールしてくる中で、ジゼルは謙虚なんだな」


 しかし、すぐに真剣な表情になって、私を見つめた。いつも笑顔なレオナルド様の珍しい表情だった。


「ジゼル、大事な話がある。明日の夜、応接室まで来てくれないか?」

「え?」

「頼む」


 レオナルド様の表情がいつになく真剣だったから、私は戸惑いながらも「分かりました」と頷いた。



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