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第24話 王子の本音




 それから数日。私は王宮の料理人さんと一緒に提供する料理の準備に邁進していた。


「ジゼル様、魚の捌き方はこれで合ってますか?」

「はい。大丈夫ですよ」

「ジゼル様、茶碗蒸しというものが完成したので、味見してもらってもいいですか?」

「分かりました」


 現在、私はいくつか料理を決め、料理人さんたちにそのレシピを教えて、作ってもらっている。

 王宮の料理人さんは飲み込みが早い上に、私自身も味付けや料理の技術などを教えてもらうことが多い。

 顔合わせの時に一緒にお酒を飲んで、おつまみを食べたこともあって、いい感じに打ち解けることが出来た。

 私達は、いい関係を築けていると思う。


 その後、いくつか料理を完成させることが出来たので、とりあえず試食を始めようということになった。


 食べる準備が整ったところで、突然、厨房の扉が開いた。


「ジゼル。準備の方はどうだ?」

「殿下!」


 厨房に現れたのは、他でもないレオナルド殿下だった。料理人達は慌てて、その場の片付けを始めて、殿下用の椅子を持ってきた。

 殿下のように高貴な方が厨房に入ることは、ほとんどあり得ないことだそうで、毎回料理人さん達は恐縮している。


 しかし、殿下は時々、こうして私達の料理の様子を見に来てくれる。

 きっと、殿下は、責任感が強く、中心者としての役目を果たすために全力を尽くしてくれているのだろう。


「何か困ってることはないか?」

「大丈夫です。おかげさまで順調に進んでおります」


 そこまで言って、「そうだ」と思い付いた。私達の目の前には、完成した料理の品々が並んでいる。せっかく殿下が来てくれたのだから……。


「ちょうど今、試作料理が完成したところです。少しだけ味見されていきますか?」

「それはありがたいな。ぜひ、食べさせてくれ」


 殿下は少しだけ嬉しそうに目を細めて、頷いた。


「今日は何を作ったんだ?」

「鶏肉と卵の煮物、茶碗蒸し、ちらし寿司です。上手く出来ていたら、どれも歓迎のお食事メニューに組み込もうと思っています」

「なるほど。食べさせてもらうぞ」


 まずは鶏肉と卵の煮物である。

 

 この一品の味付けには醤油と砂糖、それから生姜を使っている。甘辛くて、さっぱりとした味わいになっているはずだ。


 殿下はまず鶏肉を取って、口元に運んだ。


「どうですか?」

「家庭的な味わいだな。甘辛い汁が鶏肉に沁み込んだいて、ジューシーだな」

「ありがとうございます」


 続いて、殿下は茶碗蒸しを手に取った。彼は不思議そうに茶碗蒸しを眺めて、首を傾げた。


「これは、プリンみたいだな……?」

「確かにプリンに似てますよね。でも、味は全然違いますよ。とりあえず食べてみて下さい」

「分かった」


 殿下は頷いて、スプーンで茶碗蒸しを掬った。その瞬間、スプーンの上でぷるんと茶碗蒸しが揺れた。


「おぉ、これも美味いな」


 茶碗蒸しを口に入れた瞬間、殿下は目を見開いた。


「初めはプリンみたいなものかと思ったが、本当に全く別物だ。卵の優しい味わいに、海老などの具材がいいアクセントになっている。それに……出汁の香りもするな?」

「ご名答です。出汁も作って、入れております」

「なるほどな。これは美味いわけだ」


 殿下が最後に口にするのは、ちらし寿司である。スプーンの上に酢飯と海老、いくら、サーモン、マグロ、卵、キュウリなどを乗せて、口元に運び入れる。すると、殿下は低く唸った。


「前に食べた寿司と同じようなものかと思ったが、また違った美味しさがあるな」

「はい。そうですよね!」

「色々な魚を一気に楽しめるし、刺身とキュウリの食感の違いもいい。何より見た目が華やかだから、国王夫妻に提供するのにはもってこいだな」


 殿下から太鼓判を押してもらえて、私は心の中でガッツポーズをした。

 やった。これはかなりの好感触なんじゃないだろうか。


「コース料理が完成したら、確認のために、もう一度食べさせてもらうが……。今のままでも充分、完成度は高いな」

「ありがとうございます!」


 殿下の言葉に頭を下げる。後ろで私達の会話を見守っていた料理人さん達もホッとした表情を浮かべていた。


 料理を一通り食べ終えた殿下は、クスリと笑った。


「ここで君の料理を味見したと聞いたら、アリシアがヤキモチを焼きそうだな。お兄様ずるい、とな」

「そうですか?」

「ああ。アリシアはジゼルのこともジゼルの料理も好きだからな」

「それじゃあ、後でアリシア様にも料理をお届けしますね」

「ああ、でも、無理はしないでくれ。君の役目を優先して欲しいからな」


 そう言って、殿下は労わるように私達を見た。そして、すぐに椅子から立ち上がった。


「それじゃあ、そろそろ私は退散する。急に訪れて悪かったな」

「いえ。寝不足でお疲れのところ、来ていただいてありがとうございます」


 私がそう言うと、殿下は目を瞬かせた。


「……なぜ、私が寝不足だと分かったんだ?」

「殿下の目の下、少しだけ隈になってます。殿下は中心者として準備をされているし、寝不足になっても不思議ではないと思いました」

「……」


 殿下が毎日のように、ここの様子を見に来る必要はないはずだ。しかし、毎日何か困ったことはないかと聞きに来てくれる。

 迎え入れの準備をしているのは私だけではないと考えると、殿下は毎日かなりの人に会って、調整役をしていると考えられる。


「ここにも沢山来て下さってますし、殿下は本当に責任感がお強いのですね」


 私がそう言って笑うと、殿下は片手で顔を覆った。そして。


「ここに度々来るのは、君に会いたかったからだと言ったら、どうする?」

「え?」


 いつも笑っている殿下が笑みを消して、そんなことを言うから、びっくりした。

 しかし、私が何も言えなくなっていると、すぐに殿下は顔に笑みを戻した。


「……いや、何でもない。私も大分、疲れてるな」


 殿下は力なく笑って、軽く手を振った。そして、「気にしないでくれ」と言い残して、厨房を去って行った。



 しかし、次の日のことである。全ての作業を終わらせて部屋に戻ろうとした私は、通りかかった部屋で寝落ちしてしまっている殿下を見つけてしまった。

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