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第22話 決意






 次の日。隣国の王族を迎え入れる際の料理を作ることになった私は、王城に残ることになった。

 準備に取り掛かるため、さっそく歓迎準備の中心者であるレオナルド殿下と話し合いの場を設けることになった。


 王城の応接間で座って待っていると、扉が開いて殿下が入ってきた。


「ジゼル。また会えたな。元気にしていたか?」

「殿下! お久しぶりです……ってほどでもないですね。おかげさまで元気にしておりました」


 殿下とアリシア様が公爵邸から去ってから、大体一週間くらいしか経っていない。国王からの提案を引き受けたことで、想像以上に早い再会となった。


「まさか、私が今回のような大役を務めることになるとは思わなかったので、驚きました」


 私がそう言うと、殿下は「ああ、それはな」と目を細めた。


「実は、私が父上に頼み込んだんだ。絶対にグレンティ王国の国王夫妻は君の料理を気に入るに違いないと言ってな」

「そうだったんですか?」

「ああ。それに、私自身が君の料理をまた食べたかったのもあるな」


 殿下は含みのある微笑みを浮かべながら、「ところで」と話を続けた。


「アベラルドはどこにいるんだ?」

「公爵様は別の部屋で公爵領の仕事をされています。領地からお仕事の書類を送ってもらって、ここで出来る分だけ済ませているそうです」

「なるほどな。アベラルドはそれだけ君と離れたくないということか……。大事にされてるんだな」

「はい。本当に」


 公爵様は領地に戻っても問題なかったのに、ここに残ることを選んでくれた。初めての王城に緊張していた私にとって、それはすごく有難いことだった。


「なるほどな……。さて。そろそろ本題に入ろうか。グレンティ王国を迎えるに当たっての必要な情報を共有させてもらうぞ」

「はい。よろしくお願いします」

「まずは、グレンティ王国の国王夫妻が、我がミルフェール王国に来る目的についてだな」


 殿下曰く、隣国のグレンティ王国は、先代の国王陛下がご隠居されたそうで、ちょうど一年ほど前に代替わりをしたばかりだそうだ。

 そして、国政が落ち着いてきたところで、和平の証に近隣国に挨拶に回っているそうだ。


「新しい国王夫妻は、父上より俺の方が歳が近い。その関係で、私が準備の中心として動いているんだ」

「なるほど」


 殿下の言葉に頷く。


 確かに年齢のことを考えると、これから長い付き合いになるのは、国王陛下より殿下の方だろう。そう考えると、殿下が中心者となるのも納得だ。


「次に、国王夫妻の性格についてだが……。お二人はとにかく珍しいものが好きで、知的探究心が高い方だ。公爵領で栽培してる米という作物は、知られていないところが多いから、国王夫妻も興味を示されるに違いない」

「分かりました。……すみません。質問よろしいですか?」


 私が小さく手を挙げると、殿下が「もちろんだ」と頷いた。


「この国の伝統料理は振る舞わなくていいのですか?」

「それも、もちろん振る舞うつもりだ。国王夫妻が滞在するのは三日間の予定だ。そのうちの二日目の夜の食事を君に担当して欲しいと思っている」

「なるほど。分かりました。それから、国王夫妻の好きな味付けや苦手な食べ物などを教えていただけますか?」


 殿下は私の質問に少しだけ考えた後、口を開いた。


「特に苦手な食べ物はないと聞いている。好きな味付けは……、どちらかと言うと薄味の方が好きだったはずだ」

「分かりました」


 殿下の回答にホッとする。

 苦手な食べ物がないなら、こちらとしても料理も作りやすい。それに薄味が好きなら、お米を使った和食料理で大丈夫だろう。


「他に何か質問はあるか?」

「……いえ。今のところは大丈夫です」

「何か分からないことがあったら、遠慮なく聞いてくれ」

「はい。そうさせてもらいますね」

「それで、提供する料理は思い付きそうか?」


 殿下の問いに考えてみる。


 隣国の王族に提供するなら、しっかりコース料理にした方がいいよね?

 和食のコース料理は、「先付け、お吸い物、お造り、煮物、焼き物、強肴、ご飯、甘味」の順番で提供される。

 まずは前世の記憶を頼りにコースの順番通りに、料理メニューを組んでみようかな。

 うーん、今すぐにたくさんの料理を考えるのは難しそうだな。


「とりあえず、一度検討してみます……」


 私が険しい顔で答えると、殿下が軽く吹き出した。


「ははは、そんなに思い詰めた顔をしなくていい。まだ時間はあるし、そんなに焦る必要はないだろう」

「わ、分かりました」

「気楽に楽しむくらいの心意気でいてくれ。それより、アリシアとも話してやってくれ。もうすぐここに来るだろうから」

「アリシア様が?」


 殿下が頷くと同時に、部屋の扉が開かれた。振り返ると、そこには頬を上気させたアリシア様の姿があった。


「お姉様!」


 アリシア様は私の姿を見ると、すぐに駆け寄ってきて、私の手を握った。


「お姉様、また会えて嬉しいわ!」

「私もです。まさか王城に来ることになるとは思ってなかったんですけど……」

「お姉様は初めての王城だものね。困ったことがあったら、わたくしに言ってちょうだいね」


 アリシア様は「何でも答えるわ」と胸を張る。


「ありがとうございます。そうさせてもらいますね」

「ええ。それから、お姉様の新しい料理、わたくしにも食べさせてもらえると嬉しいわ」

「もちろんです。頑張って考えるので、楽しみにしていて下さいね」


 私とアリシア様が話していると、その様子を見ていた殿下がクスクスと嬉しそうに笑っていた。


「私も楽しみにしているぞ」

「はい。殿下もありがとうございます」


 お出迎えのための料理、楽しみにしてくれる人がたくさんいる。私は、頑張って考えようと改めて決意した。

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