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第20話 昼飲みの背徳感は、酒の美味しさを倍にする



 数日前、国王から「王宮へ来て欲しい」との手紙を受けた。

 私と公爵様は、数日の準備期間を経て、馬車に乗って王宮へと向かっていた。


 馬車の窓から外を眺めていると、目まぐるしく景色が変わっていく。ぼんやりしていると、ふと公爵様が話しかけてきた。


「もうすぐ公爵領を出るな」

「そうなんですね。あとどれくらいで到着するんですか?」

「あと半分だな。今のペースで行けば、夕方前には王都に着くだろう」

「なるほど」


 お昼前に公爵邸を出発してから、既に1、2時間が経過していた。それなら、そろそろ作ってきた“アレ”を出しても、いい頃合いだろう。


「公爵様、お昼ご飯を食べませんか?」

「ん、そうだな。休憩も兼ねて、どこかで食事するか」

「いえ、その必要はありませんよ」


 私はニヤリと笑って、持ってきた籠バックを公爵様の目の前に差し出した。


「じゃーん、お弁当を作ってきました」


 公爵様は私の言葉に目を丸くさせている。


「びっくりしました?」

「……驚いた。いつの間に用意してくれていたんだな」

「朝早くに起きて、準備したんですよ」


 驚いている公爵様を見て、内緒で準備した甲斐があったなと嬉しくなって、ニコニコしてしまう。


 私は魔法で冷やしておいた籠バックの中からランチボックスを取り出して、一つを公爵様に渡した。


「開けてもいいか?」

「もちろんです」


 お弁当の中には、ミニトマトや卵焼き、タコさんウィンナーなどの王道な具材が入っている。


 弁当箱を見て、感心したように公爵様が目を細めた。


「ジゼルはいつもよく考えてくれているな。見た目からして美味しそうだし、このウィンナーも可愛いな?」

「あ、タコさんウィンナーですね!」


 確かに見たことない人からしたら、珍しくて可愛いかもしれない。


「タコ? なるほど。だから足がたくさんあると見えるように切られてるんだな。あの恐ろしいタコもこう見ると可愛く見えるものだな……」

「あはは、その通りです。……ほら、食べましょ!」


 私たちはそれぞれのお弁当から、具材を取って頬張った。


 馬車の中でお弁当を食べているため、駅弁を食べている時みたいなワクワク感があって、すごく楽しい。

 それに馬車の中は完全個室なので、周りを気にせずに話しながら食べれるのもいいよね……!


「シンプルながらしっかり美味いし、ビールにもよく合いそうだな」

「そうかと思って、ビールも持ってきたんですよ」


 私は籠バックの中からビールを取り出した。公爵様が呆れたように私を見ている。


「……いつもの如く、用意がいいな」

「当たり前です。ビールと共に我が人生あり、ですから」

「格言みたいに言うな……」


 と会話をしつつ、ビールを飲み始める。


「やっぱりビールは、最高ですねぇ」

「そうだな」


 ビールを味わっていて、ふと「あること」に気づいた。


「そういえば、お昼に二人で飲むのって初めてですね……?」

「確かにそうだな……」


 それなりに長く一緒にいるようになった私達だけど、二人で昼飲みをするのは初めてのことかもしれない。


「いつも晩酌ばかりだったからな」

「そうですね。1日の終わりに晩酌をするのも好きですけど、昼から飲むのも楽しいんですよね。何というか、この背徳感が」


 晩酌は1日頑張ったご褒美として飲めるけど、昼飲みは謎の背徳感があるんだよね。

 休日の昼から飲む自由さとその日の夜にも飲めるっていうワクワク感、それに対する罪悪感が同時に存在するんだよね。

 しかし、その背徳感や罪悪感がビールの苦味を更に味わい深くするのである。


 私の言葉に公爵様が頷く。


「確かに。昼から飲んでいるという後ろめたさみたいなのは、少し感じるな」

「それがいいんですよ。背徳感と美味しさは比例しますからね」

「そうなのか……」


 こうして、私達は馬車の中で、お弁当とビールを楽しんだのだった。


 食べるのに夢中になっていたら、いつの間にか王都まで近づいていたらしい。馬車の外を見ると、遠くに王城の塔の先端が見えてきた。


「あと少しですね」

「緊張するか?」

「そうですね。初めての王城なので、緊張しています」


 慣れ親しんだ公爵邸で、王家の人間を迎え入れるだけでも大変だったのだ。王城に自分がいる姿なんて、今になっても想像がつかない。


 公爵様が、そんな私の頭を優しく撫でる。


「何かあった時は俺がそばにいるから、安心してくれ」

「ありがとうございます。頼りにしてますよ」


 隣には、公爵様がいる。その事実が何よりも心強い。


 それに、王城には仲良くなることができた王女様もいるし、殿下とも話したことがある。


 心の中で、きっと大丈夫だろうと自分で自分に言い聞かせた。


「それにしても、王家から王宮に来いって言われましたけど……。国王はどういうおつもりなんでしょうね?」

「それは、分からない。手紙にも詳しいことは書いてなかったからな」


 公爵様の言う通り、国王からの手紙には詳しいことは書かれていなかった。王宮で国王と謁見することになっていること以外は、情報が皆無なのである。


「ただ、国王は常識的で公正公平な方だ。悪いようにはしないはずだ。多分、王女様のことで直接謝罪をしたい、くらいのことなんじゃないか?」

「そうなんですね」


 アリシア様との一件は、彼女本人からも殿下からも謝罪を受けているので、私としては、そんなに気にしていない。

 公爵様も「ジゼルが許すなら、それでいい」というスタンスでいてくれるし、そんなに大事にしなくてもいいのになぁとも思う。

 まあ、王家として公爵家当主の怒りを買いたくないだろうし、遺恨を残さないためにも、正式な謝罪は必要なのかもしれない。


「まあ、すぐに公爵邸に帰ることになるだろうし、そんなに緊張する必要はないだろうな」

「そうですね。すぐに国王に謁見して終わりですよね」


 私達は、そう言って、のんびり笑い合う。


 公爵様との楽しい旅路も終わり、もうすぐ王宮にたどり着く。緊張するけれど、頑張ろうと私は決意を新たにした。


 この時の私達の会話がフラグになっていたことに気づかずに。

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