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第13話 王子、爆笑する




「公爵家が直接雇っているということは……、新しい作物を育てている場所か?」

「はい。そうです」


 私が頷くと、殿下はぐっと眉根を寄せた。


「昼食は毎日届けているのか?」

「はい。仕事によっては出来ない日もありますが、ほとんど毎日届けております」

「……」


 再び殿下は怪訝な顔をして、一人で考え込み始めてしまった。


 そして、彼らのいる農地に辿り着き、馬車から降りる。すると……。


「アネキーーッ」


 彼らがいつものように駆けてきた。そして。


「整列‼︎」


 彼らはずらっと並んで、ビシッと同時に頭を下げた。


「お勤めご苦労様です‼︎‼︎‼︎」

「ああああ……」


 彼らの熱烈な歓迎に頭を抱える。後ろに高貴な方がいらっしゃるのに……!


 第一王子殿下が私の仕事に付いて来ることは、急なことだったから、彼らに伝えていない。

 だから、いつもの「この挨拶」になってしまったのだ。


 こんなことになるなら、普段からもっと強く言って、やめさせておけばよかった……!


 殿下はどんな反応をしているのか、恐る恐る振り返る。


 殿下はポカーンとしていた。王族の彼がこのような挨拶を見る機会なんてないだろうから、唖然とするのも当然だろう。


 しかし、何を思ったのか、彼は頭を下げているうちの一人に近寄っていった。そして……。


「君たちは、彼女にその挨拶を強要されているのか?」

「え⁈」


 まさかの質問に驚いていると、慌てて話しかけられた一人が首を振った。


「まさか! 俺たちが好きでやってるんすよ! アネキには恩があるので」

「恩? それはどんなものなんだ?」

「俺たちは元々金に困っていて、身代金を要求するためにアネキを誘拐したんですよ」

「は……⁉︎」


 殿下が驚いたように目を見開く。


「アネキは寛大にも俺たちを許してくれて、こうして仕事を与えてくださったんです。だから、俺たちはアネキに感謝してるんすよ」

「つまり、誘拐犯をそのまま雇ったということか……⁈」


 殿下は戦慄が走ったような表情で、私を振り返った。


「彼の話は本当か⁈」

「そういうことになりますねぇ……」

「し、正気か?」

「あ、でも、調査の結果、彼らは私以外に危害は加えてないということが分かったので……。他の被害者の方の意向を無視したということはないです」

「つまり君には危害を加えたということだろう⁈」


 殿下は混乱している。私は慌てて彼らのフォローを続ける。


「いやでも、怪我くらい自分で治せますし、彼らの稲作の能力は高かったので……、失うには惜しい人材だと思ったんです」

「あ、アネキィ……!」


 私の言葉に農夫達は感銘を受けている。

 その姿を見て、殿下は脱力してしまった。彼は俯いて、頭を抱えている。


「元誘拐犯を雇って、そのまま手懐ける聖女とは……」


 そして、殿下は下を向いたまま、肩を震わせ始めた。


「殿下? どうされたのですか?」

「もう限界だ……、ふっ……あははははははは」


 突然、殿下は声を出して笑い出した。爆笑である。


「で、殿下?」


 私が呼びかけるが、ずっと笑いっぱなしで、止まる気配がない。


 私は周りの農夫達と目を合わせて、肩をすくめた。


 しばらく待っていると、殿下ようやく笑いやんだ。彼は目元の涙を拭って、私に向き直った。


「はあ……、わるかったな……。私は君を大きく誤解していたようだ」

「い、いえ。大丈夫です……?」


 何を誤解していたのか分からないけれど、とりあえず頷いておく。


「つまり、私が今日の君を見ていて、君が真面目に仕事に取り組んでいて、領民にも平等な優しい女性なのが分かったということだ」

「はぁ……。誤解が解けたようでよかったです」


 殿下の雰囲気は、先ほどまでよりずっと柔らかいものになっていた。殿下の言葉の意味は分からないけれど、悪い意味じゃないみたいだし、気にしなくてもいいだろう。


「それで、ここにはお昼を届けに来たんだろう? もし余っているようなら、私にも一つくれないか?」

「もちろん大丈夫ですが……」


 いつも通りの、おむすびしか持ってきていない。王子様に「まかない」用のおむすびをあげても大丈夫なのかな……と不安になる。


 でも、殿下からの申し出を断るわけにはいかないので、私はそっとおむすびを一つ差し出した。


「おぉ……。三角とは、不思議な形だな」

「これが食べやすい形なんですよ」

「なるほど」

「米は白いと聞いていたが、なぜ茶色なんだ?」

「今日は醤油を使った“焼きおむすび”というものを作ったので」


 醤油、みりん、ごま油を混ぜたご飯を焼いて作ったおむすびである。


 おむすびを口元に運べば香ばしい醤油の香りが漂い、口の中に入れれば表面のカリッとした食感にやみつきになるだろう。


 殿下は私の説明を聞いて、さっそくパクりとおむすびを一口食べた。すると、「へぇ」と感心したように目を細めた。


「米というのは、初めて食べたけど……これは美味しいな」


 殿下は言葉少なく、簡素な感想を述べる。そして、すべて食べ終えてから、言った。


「他にも米料理を食べてみたいものだな」

「あ、それなら……」


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