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第11話 日本酒完成⁈



「よし。日本酒作りを始めるぞ」


 誕生日会の翌日から、私はさっそく日本酒作りに挑戦していた。


 誕生日プレゼントとして公爵様がドライイーストをくれた。これで、日本酒作りの作業が進められるのだ。


 前世では、素人がお酒を作ることは法律で禁止されていたから、お酒造りにチャレンジしたことはなかった。

 頼りになるのは、社畜時代に通勤電車でふと「どうやってお酒って作られてるんだろう」と気になって調べた時の曖昧な知識だけである。


 「頑張るぞ」と気合を入れながら、私は日本酒作りに必要な材料を水に混ぜていく。必要な材料は、「麹」と「乳酸」だ。

 「麹」は昨日までに米を使って仕込んでおいたものにお湯で溶かしたドライイーストを入れ、「掛け米」と呼ばれる蒸しただけの米を混ぜる。


 この後は、これを一定の温度に保って、2日間寝かせるのだ。


 上手くいったかどうかは、2日後に分かるだろう。


「あ〜、でも早く飲みたいよなぁ」


 できることなら、王女様が視察に来ている間に完成させて、王家にもご報告したい。日本酒に合うおつまみ研究もしたいし、リーリエにも飲んでみて欲しい。


 それに何より……大好きな公爵様と一緒に日本酒で晩酌したいんだ。


 私は日本酒の前の段階である「もろみ」が入った容器を撫でて、強く願った。


「本当に……早く飲めないかな」


 そう呟いた時だった。ピカっと手の先が光って、キッチン全体を温かな光で照らした。


「え、なに……⁈」


 恐る恐る目を開ける。先ほどまで粒状だったはずの「もろみ」が液状になっていた。しかも、ほんのりとお酒の香りが漂ってきて……。


 「もしかして」と思い、もろみを酒袋に入れて搾り取る。


 圧力をかけて絞り出したものをコップに入れて、飲んでみると……。


「こ、これは……!」


 私はゴクリと喉を鳴らす。そして、出来上がった物を持って、公爵様のいる執務室へと駆け出した。


「こ、公爵様! 新しいお酒が完成したかもしれないです……!」

「本当か……⁈」


 執務に邁進していた公爵様が、私の言葉にガタッと立ち上がる。


 しかし、すぐに不思議そうに首を傾げた。


「でも、前に聞いた時は1ヶ月はかかりそうだって言ってなかったか?」

「本当はそのはずなんですけど……。突然、私の手から光が溢れ出して、そしたらお酒が完成していたんですよ」


 不可思議な現象に戸惑いを隠せない。どうして、急に日本酒が完成したんだろう……?


 すると、しばらく考え込んでいた公爵様が口を開いた。


「その光って、温かな緑色の光じゃなかったか?」

「そういえば、そうだった気がします」

「それってジゼルが豊穣の祈りを捧げる時と同じ光なんじゃないか……?」

「あっ、確かにそうかもです……」


 それじゃあ、聖女の力で米が発酵したってことなのかな? でも……。


「そんなことってあり得るんですか? 聖女の力は基本的に四つしか使えないはずだったと思うんですけど……」


 聖女が使える力は、浄化、治癒、結界、豊穣の四つだ。それ以外の効果を発揮するなんて聞いたことがない。


「聖女としての力を何回も使っていると、その力が自分の思った通りに進化することがあるそうだ。大災害が起きた時に、治癒の進化系である“蘇生の力”を使った聖女の話を文献で読んだことがある」

「なるほど……」

「まあ、聖女自身の実力と強い思いの力が必要で、難しいことらしいが……」

「……」


 公爵様がジト目で私を見つめる。公爵様の言いたいことは分かる。「お酒愛が暴走して、早くお酒飲みたいって願ったんじゃないのか」ってことだよね。


 確かに、あの時、日本酒飲みたいって強く願ったなぁ……。


 公爵様の話通りに考えるなら、その強い願いがお酒の発酵の促進に繋がったということだろう。


 あと、公爵領に来てから豊穣の祈りは何回も使っているし、私の実力が上がったとも考えられるかな。


「……とりあえず公爵様も飲んでみますか?」

「ああ。ジゼルさえよければ、飲んでみたいかな」


 というわけで、完成した日本酒を公爵様と一緒に試飲してみることにした。




⭐︎⭐︎⭐︎




 二人でグラスを持って、晩酌部屋に入る。おつまみには、数種類の刺身を用意した。やっぱり日本酒を飲むには、日本料理が一番だよね。


「それじゃあ、乾杯です」

「乾杯」


 グラスをぶつけて、口元に運ぶ。すると、ふわっと日本酒の醗酵した香りが鼻腔をくすぐった。


 ぐいっと一口飲むと、日本酒の爽やかなコク深いうまみが口の中に広がっていった。


 日本酒の強いアルコールが体の中に入っていく感覚に、酔いしれていく。


「ん〜、これこれ! これが飲みたかったんですよねぇ」


 私が久しぶりの日本酒にうっとりとしていると、公爵様も日本酒を一口飲んで目を見開いた。


「意外とさっぱりしていて美味しいな。軽く飲めそうだ」

「あ、でも日本酒は酔いやすいので、注意が必要ですよ」

「そうなのか?」

「はい。水を飲みながらの方がいいと思います」

「分かった」


 公爵様は素直に頷いて、少しずつ水を飲み始めた。


 危ない危ない。日本酒は油断してると、すぐに酔い潰れちゃうからね。特に公爵様は注意が必要だろう。


「公爵様、おつまみもありますよ。お刺身です」

「これは、お寿司とは違うのか?」

「はい。お寿司は酢飯の上にネタとして乗せていましたが、今回は“酢飯なし”なので、ただのお刺身ですね。お刺身だけでも美味しいんですよ」

「なるほどな」


 早く日本酒を飲みたかったので、今回はご飯を炊く時間を取らなかったのだ。

 結果的にお刺身だけになったけれど、日本酒のおつまみとしてこれ以上の食べ物はないだろう。


 用意したのは、マグロ、サーモン、鯛の刺身である。


「マグロは脂が乗っていて、やっぱり美味いな」

「王道のおいしさですよね!」


 ぷりぷりのマグロの身には脂が乗っていて、噛むたびに刺身の旨みで口の中が満たされていく。爽やかな日本酒との相性が抜群で、日本酒を飲むことによって、より刺身の旨みが深みを増していった。


「サーモンも美味しいな」

「絶対にハズレのないですからね」


 鮮度の高いサーモンの引き締まった身には弾力があって、噛みごたえが抜群だった。噛むたびにサーモンの旨みが広がっていく。


「鯛は他2つと比べると、淡白な味だが、しっかり旨みがあるな」

「白身魚ですから、ちょっと違った味が楽しめますよね」


 コリコリの食感と淡白な味。醤油につけることによって、引き立つ鯛の旨みが最高だ。


 日本酒と刺身によって、故郷に戻ったような気分に浸ることが出来るし、幸せいっぱいだ。


「うん。この酒は、ビールやワインとは違った美味しさがあるな。これは、ぜひ王家に紹介したいな」

「そうですね。ぜひ視察団がいて下さるうちに紹介したいです」

「……そういえば、視察団のことなのだが」


 視察団の話になった途端、公爵様が神妙な顔で切り出した。


「実は、先ほど聞いたばかりなんだが……、急遽、追加で第一王子殿下が公爵領に視察に来ることになったんだ」

「え、そうなんですか⁈」

「ああ、今日、殿下から手紙が届いたんだ。明後日には公爵家に着く予定らしい」

「えぇ⁈」


 確か視察前の話では、王子は来ないことになっていたはずだったのに……。急な予定変更に驚きを隠せない。


「基本的には俺が対応するから、ジゼルに迷惑をかけることはないと思うが……。念のため、把握しておいてくれ」

「はい。分かりました」


 公爵様の言葉に頷く。


 しかし、唐突な第一王子来訪の決定か。困ったことにならないといいんだけど……。


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