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第10話 みんなで鍋を囲もう




「それじゃあ、仕切り直して……鍋を食べましょう!」


 鍋の中には白菜、長ネギ、豆腐、豚肉などが入っていて、ぐつぐつ煮えたっていた。味噌の美味しそうな匂いに誘われるようにして、みんなで鍋を囲む。


「美味しそうだね」

「みんなで試行錯誤しながら作ったんですけど、味見したらバッチリでしたよ!」


 リーリエがウィンクしながら言った。


 見たところ変な具材も入っていないようだし、闇鍋のようにはなっていないと、心の中で安心する。


 各々が好きな具材をお椀に取って、食べ始める。


 私は、まずは白菜を取って、息を吹きかけてから口の中に入れた。熱々の白菜には、濃厚な味噌の味が沁み込んでいる。しかし、素材のまま白菜の甘さも感じ取れて、本当に美味しい。


 豆腐は口の中に入れた瞬間、柔らかく崩れていく。じゅわっと味噌の味が沁み出て、濃厚な美味しさにじんわりと体が温まる。


 豚肉にも味噌の味がしっかり沁み込んでいて、噛むたびに味噌の味を感じることが出来て食べごたえ抜群だった。


「はぁ〜温まりますね〜」

「美味しいです」

「そうだなぁ」


 みんな気が抜けたような声を出して、鍋を楽しんでいるようだった。そこで私はピコーンと思い付いた。私の鍋の楽しみ方を……。


「みんな、卵に具材を入れて食べてみない?」

「卵⁇」


 三人とも私の言葉に首を傾げる。私は台所に行って、4つの卵を割って、溶いた卵を4人分の器に入れた。そして、それを持って戻ってきた。


「この卵に具材を入れて食べると美味しいんですよ」


 名付けて、「すき焼き風鍋の楽しみ方」である。私の提案に三人は頷いて、それぞれ具材を卵に入れてから、口に入れる。すると……。


「っ、卵と味噌の味が絡み合って、肉がより濃厚な味付けに……!」

「卵に入れることで、野菜が優しい味わいに……!」

「美味しすぎますよ! 天才です、ジゼル様ーっ!」


 私も卵に豚肉を入れてから、食べてみる。濃厚な味噌の味が沁みた肉に、濃厚な卵が絡み合う……。卵って味噌と相性がいいんだよね。

 まるで、すきやきのような美味しさ。しかし、汁に砂糖が入っていない分、卵の甘さが引き立つのだ。


 みんなで新たな美味しさを楽しみつつ鍋を食べていたら、あっという間に具材は底を尽きた。


「最後は米を入れて、シメの雑炊にしよう」

「雑炊⁇」


 私が提案したことで、シメは雑炊になった。


 みんな、鍋は最後にシメとして炭水化物を入れることを知らなかったので、驚いていた。


「最後まで楽しめるって最高だな」

「天才的な食べ方ですよね」

「そうですねーっ! 卵を入れても美味しいですよ」


 みんな鍋を前にして、笑顔になっている。


 その光景が幸せに満ちていて、思わずうるっときてしまった。


「ジゼル様、どうしたんですか⁈」


 すぐにリーリエが私の異変に気づいて、慌て始めた。


「私の誕生日に一緒にご飯を食べてくれる人がいるって、幸せだなぁって思っただけだよ」


 私が冗談で「今が人生で一番幸せな時かも」と言うと、公爵様が私の頭をポンポンと撫でた。


「これからも一生誕生日を祝うつもりだから、今だけが一番にはならない。これからもっともっと幸せになっていくぞ」

「……そう、なんですね。楽しみです」


 当たり前のように、来年以降の話をしてくれた公爵様の言葉が嬉しくて、私はまた少しだけ泣いてしまった。



 前世では、鍋を食べることあまりなかった。私はいつも一人だったので、わざわざ鍋を作ることが少なかったのだ。


 けれど、今世はこうやって一緒に鍋を囲ってくれる人がいる。

 誕生日にみんなと一緒に食べることで、こんなにも心がぽかぽかするものなのだと初めて知った。しかも、毎年祝うと約束してくれるなんて……。


 これ以上の幸せはないと、私は胸がいっぱいになった。


 ……その時、そんな私の姿を憎々しげに見ていた人物の存在には気づかずに。

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