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第6話 王女と公爵様の関係



 視察も佳境に入ってきた中、私はキッチンに立っていた。


「さて。今日も始めますか」


 視察団を相手する仕事は主に公爵様が行なっている。私は料理を提供することを担当しているが、空いている時間も多い。

 そういった時には、私は趣味の料理をすることにしている。


 私は今、さきいか作りに挑戦していた。開いたイカを塩水に漬ける。しばらくしたら、水分を拭き取って、干すだけだ。


「よし。これで、あとは明日かな……」


 そして、一通りの作業が終わったので、後はイカが乾燥して干物が完成するのを待つだけだ。


 ふと横を見ると、私の作業をじーっとレンドール君が見ていた。目が合うと、彼は不意に口を開いた。


「気にならないんですか?」

「ん? 何のこと?」

「王女様のことです。今も公爵様とお話ししておられますよ」

「あぁ〜」


 私が頷くと、レンドール君は拳を握りしめて、目に怒りを宿した。


「公爵様に毎日のようにベタベタベタベタベタベタと……。僕は正直、処したい気持ちなんですけど」

「一国の王女だからね⁈ 処しちゃダメだよ!」

「ジゼル様は許可して下さいますか?」

「処す許可を⁈ するわけないよ!」


 レンドール君は公爵様が大好きだからね……。そう思っていると、そこへ頬を膨らませたリーリエもやって来た。


「そうですよ! 公爵様はジゼル様と両思いなのに、王女様が毎日一緒にいて! それに何より……」

「何より?」

「ジゼル様のおつまみを食べ切っちゃったことも忘れてないんですから!」


 リーリエは、どちらかというと後半の恨みの方が強そうだ。リーリエは私の料理が大好きだからね……。


「ジゼル様は許せるんですか⁉︎」

「うーん。そうだねぇ……」


 最初は、王女様の態度から、私のことを嫌いなのかなとも思った。それなら仕事として、感情的にならずに対応しなければとも思った。けれど……。


「私の料理を美味しいって思ってくれてるみたいだから、なんだかんだ可愛いなって思っちゃうんだよね」

「えぇー!」


 王女様は、顔を真っ赤にして「美味しいと思っていない」と言いつつ、毎回料理を完食してくれる。私は、彼女に特別嫌な感情を抱いていなかった。


 私の答えを受けて、リーリエとレンドール君はヒソヒソと話し始める。


「どうします? 優しいジゼル様らしい結論ですけど、このままだと王女様は暴走し続けますよ」

「もう一緒に処しちゃおうよ」

「やりますか」

「二人ともダメだからね⁈」


 このままヤバいことを計画し始めそうな二人を全力で止める。すると、二人はしゅん……と項垂れてしまった。


「だって、心配なんですよ。せっかく公爵様と両思いになったばっかりなのに、こんな風に二人の時間がなくなっちゃって……」

「本当にその通りです。きっと王女様の目的はお二人の仲を邪魔することに決まってますから」

「……」


 二人とも私のことを心配してくれたんだよね。その気持ちをありがたいと思いつつ、二人に笑いかけた。


「大丈夫だよ。私は公爵様のことも信じてるからね」

「……」

「それに、私はそんなに嫌な思いをしてないから。二人は気にしないで」

「……分かりました」


 素直に頷いた二人を見て、私はキッチンを後にした。


 自室に向かいながら考える。


 心配してくれるのは嬉しいけれど、リーリエもレンドール君も考えすぎだよね、と。


 最初は嫌な感じだったけれど、その後の王女様は何だかんだと私の料理を楽しんでくれている様子だった。

 二人が心配するほど、王女様と敵対するようなことはないだろう。


 そんな呑気な事を考えながら廊下を歩いていると、当の王女様と鉢合わせた。彼女は公爵様と別れた後のようで、彼女の侍女と共に歩いているところだった。


 彼女は私を目に入れた瞬間、キッと目を釣り上げた。


「また、あなたね……! いつも、よくも邪魔してくれるわね!」

「王女様、明日も新しい米料理作る予定なんですけど、食べられますか?」

「食べるわ……じゃなくって!」


 彼女は顔を真っ赤にして、頬を膨らませた。


「あなたね、わたくしを料理で籠絡しようとか考えているんでしょうけど、そうはいかないから!」

「王女様は何か好きな食べ物はありますか? それに合わせて作りますよ」

「聞きなさいよ!」


 彼女は長い金髪を後ろに流して、「ふん」と言った。


「あなたが余裕ぶっていられるのも、今だけなんだから」

「どういうことでしょうか?」

「あら、あなたは知らないのかしら?」

「?」


 途端に、彼女は優位にたったように強気な表情で笑った。


「ふーん。アベラルド様は“あのこと”を言っていなかったのね。だから、あなたはこんなに余裕そうだったんだわ。納得したわ」

「⁇」

「知っていたら、このわたくしに呑気な態度なんて出来ないものね」


 話の流れが分からない。私が何も言えないでいると、王女様は笑いながら口を開いた。


「あなたが嫁ぐ前、他でもないわたくしがアベラルド様の婚約者候補だったということよ」

「……え?」

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