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第4話 王女と視察





 それから、王家からの視察団を迎え入れるための準備が始まった。私は貴族としての作法を学んだり、視察団に提供する料理のメニューを考えるなど、準備を進めていった。


 そして、あっという間に時は過ぎ去っていき……。


 いよいよ視察団を迎え入れる日がやってきた。


 私と公爵様は、公爵家の門の前で視察団の到着を待つ。


「緊張してるか?」


 私がソワソワしていると、不意に公爵様が聞いてきた。


「そうですね。初めてのことなので、とても緊張してます」


 準備期間中に多くのことを学んだし、考えた。準備中に蓄えたことを余すことなく発揮して、しっかり王族に対応できるか……。

 緊張するし、不安に思う気持ちはある。でも……。


「でも公爵様と一緒にいるから、怖くはないです」

「そうか」


 公爵様は私の言葉に優しく笑い、ポンポンと頭を撫でた。


「ジゼルなら大丈夫だ。準備を頑張っていたからな。何かあれば、俺もサポートする」

「ありがとうございます」

「それから……」


 そこで公爵様は顔を暗くして、声を顰めた。


「一つだけ伝えておく。視察団として来る王女様のことだが」

「はい」

「王女様は、何というか……少々厄介な方で、ジゼルを困らすことがあるかもしれない。その時は、すぐに俺に言ってくれ」

「わ、分かりました」


 公爵様の言葉にコクコクと頷く。王女様が来ることはあらかじめ聞いていたけれど……、「厄介な方」ってどういうことだろう。

 しかも、公爵様は言い辛そうにしてたから、かなりオブラートに包んだ表現なのかもしれない。


 私は困ったことが何も起こらないようにと、心の中で祈った。



 しばらくすると、遠くの方から馬車の音が聞こえてきた。緊張しながら到着を待っていると、やがて数台の馬車が公爵邸の前に止まった。


 御者が馬車の扉を開き、その中から一人の女性が出てきた。


「……!」


 中から出てきたのは、金髪に青色の瞳を持った美少女だ。

 淡い水色のドレスには、可愛らしいフリルが散りばめられており、首元には豪華なアクセサリーを身につけていた。その派手な装いが彼女によく似合っている。

 馬車を降りる彼女の一つ一つの仕草は、とても優雅で、王族の気品を感じさせるものだった。


 思わず見惚れていると、王女様は公爵様を見てパッと顔を明るくさせた。


「アベラルド様! お久しぶりですわ。元気にしていたかしら?」

「王女様、お久しぶりです。おかげさまで元気に過ごしておりました」

「もう、私のことはアリシアって呼んで下さいと言いましたでしょう!」


 んん? 何か様子がおかしいぞ……。


 そう思っていると、私の様子に気づいた公爵様が、すぐに私の手を引いた。


「それから……王家へのお手紙でご報告をしておりますが、つい先日、結婚しました。彼女が妻のジゼルです」

「妻のジゼル・イーサンと申します。本日からの視察、よろしくお願いいたします」


 準備期間中に貴族の作法習った、カーテシーをする。上手くできたかなと、恐る恐る前を見ると……。


「……!」

「ふーん。あなたが妻になったのね」


 王女様は不機嫌そうに、目を細めてこちらを見ていた。まるで親の仇でも見るような目に、びっくりする。


 しかし、彼女はすぐに笑顔に戻ると、公爵様の方に向き直った。


「わたくし、公爵家に来るのは久しぶりなの。アベラルド様が案内して下さる?」

「分かりました。こちらへどうぞ。……ジゼル、すまないが、予定通りに用意してくれ」

「分かりました」


 王女様は公爵様にピッタリとくっついて歩いていく。

 王女様の後ろから続々と彼女の使用人が連れ立っていく。


 私はあらかじめ公爵様と打ち合わせしていた通り、視察団に提供する料理の準備をしに行こうとしたんだけど……。


 何というか……。


 王女様は公爵様とやけに親しい気がするのは、気のせいかな⁈


 しかし、そんなことを気にしている暇はない。やって来た視察団の方々全員に米料理を、これから振る舞わなければならないのだから。


 私は慌てて、あらかじめ下拵えをしておいた米料理の仕上げに邁進した。


 そして、使用人たちと協力して公爵家の大ホールに全ての料理を運び終えた。今回用意したのは、王家が興味を示したお寿司を始めとした米料理数品だ。


 しばらくして、公爵家内の案内を終えた公爵様と王女様が大ホールにやって来た。


 私は料理を紹介するために、彼らの元へと歩いていった。


 彼女はずっと公爵様と話していて、私の方を見ようとしない。……否、一度だけ私の方を見たんだけど、彼女は勝ち誇ったように笑って、公爵様に一歩近づいて話を続けたのだ。


 彼女は、私のことが気に入らないみたいだ。


 けれど、前世の職場でもこういったことはあったし、気にすることではないだろう。とにかく、私は私の仕事を全うしようと口を開いた。


「王女様、こちら私が用意した料理になります」


 そう言って頭を下げるが、王女様は頑なにこちらを見ようとしない。見かねた公爵様が口を開いた。


「王女様、妻が料理を用意しました。ぜひ食べてみませんか?」


 すると、彼女は不機嫌そうに顔を歪ませて「分かりましたわ」と頷いた。


 公爵様に促されて、醤油をつけてお寿司を口にする。そして。


「な、何よ……! これは!」


 料理を口にした王女様は、突然、絶叫した。

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