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幕間 王城にて



 


 

 場所は、公爵領から遠く離れた……王都。

 その真ん中に、高く聳え立つ王城の中で、ミルフェール王国の国王陛下が玉座に鎮座していた。


 そして、国王陛下の前には、二人の男女が立っている。男の方は自信ありげに片眉を上げて、首を傾げた。


「陛下。突然、私たちを呼び出して、どうされたのでしょうか? 何か問題でもありましたか?」


 男の名前は、レオナルド。金髪に空色の瞳を持つ彼は、この国の第一王子である。


「お兄様はともかく……。わたくしまで呼び出すなんて、どういうおつもりなのかしら?」


 続いて声を上げた女の名前は、アリシア。レオナルドと同じく金髪に空色の瞳を持つ彼女は、レオナルドの妹で、この国の第一王女だ。


 二人から疑問を投げかけられた国王は、ゆっくりと首を横に振った。


「いや、何か問題が起きたわけではない。今日は二人に頼みたいことがあって、ここに呼び出した」

「頼みたいこと?」

「ああ、そうだ。お前達は、最近噂になっている……イーサン公爵家についての話は知っているか?」

「ああ、そのことですか」


 国王陛下の言葉に、すかさずレオナルドが答えた。


「もちろん知っています。イーサン公爵家に嫁いだ聖女の提案した新しい料理とその料理を提供する店に注目が集まっているとか」


 レオナルドは「噂好きの側近から聞きました」と肩をすくめる。


「そうだ。その聖女は“米”という新しい作物を生産して、珍しい米料理を提供しているらしい。その米も飛ぶように売れ始めているとか」

「そうなのですね」

「そこで、だ。王家としても新たな作物がどのようなものなのか、聖女がどのような行動をしているのかを知っておきたい」


 国王は手を組んで、前のめりになった。そして、見極めるようにレオナルドとアリシアの二人と目を合わせた。


「お前たち二人のどちらか、もしくは両方に公爵家へ視察に行って欲しいと思う」


 その言葉を聞いて、レオナルドとアリシアは「なるほど」と頷く。王家が成果を上げている領地の視察をすることは、珍しいことではないからだ。


 そこで、アリシアより先に、レオナルドが一歩前に出た。


「そういうことでしたら、私が視察に行きます。新しい作物というのは、非常に興味が唆られますし……。何より、教会出身の聖女が開発しているというのも気になりますから」

「……」

「それに、アリシアが公爵家当主と顔を合わせるのは、少々気まずいかと思います。私はイーサン公爵家の当主とも何度も面会したことがありますし、私以上の適任者はいないでしょう」


 そう言って、レオナルドは結論づけた。これ以上の案はないと、他の意見を許さない態度だ。

 彼の言葉を聞いて、国王も納得したように頷いた。


「お前の言う通りだな、レオナルド。それなら、公爵家の視察には……」

「ちょっと待って下さる?」


 そこで、ずっと黙っていたアリシアが二人の会話に口を挟んだ。


「お兄様、勝手に話を進めないでちょうだい。その視察、わたくしが行くわ」

「……アリシア。イーサン公爵家の視察に適しているのは、私の方だと思うが」

「いいえ。わたくしの方が視察に行くのに相応しいわ。だって……」


 アリシアはそこで一旦、言葉を止めた。そして、金色の髪を後ろに払って、「ふふっ」と妖艶に微笑んだ。


「だって、わたくしはアベラルド・イーサンの元婚約者候補だったんだもの」

「……」

「当然、わたくしの方がイーサン公爵家に詳しいのですから、ここはわたくしが適任でしょう?」

「しかし……」

「それに、お兄様には、“あの件”の準備があるでしょう? 日程が詰まっている中で、公爵家視察の予定を組み込むのは、大変なはずよ」


 アリシアの言葉を聞いて、レオナルドが黙り込む。

 二人の会話を聞いて、再び国王が口を開いた。


「お前達の主張は分かった。アリシアが公爵家と顔を合わせるのは気まずいかと思い、今回はレオナルドも呼んだが……。アリシアの方で問題がなければ、お前を視察に行かせたいと思う」

「分かりましたわ。精一杯、視察を務めさせていただきます」

「レオナルドは引き続き、“あの件”の準備を進めてくれ」

「しかし、アリシアが視察に行くと、公爵家側も気まずいのでは……」


 それでも納得がいっていない表情のレオナルドを、国王は片手で制する。


「“あの件”を進めているから、人手が足りないのだ。アリシアのみが視察するに越したことはないのだ」

「……」

「もし、アリシアのみの視察で何か問題があれば、レオナルドも派遣しよう。とにかく、公爵家にはアリシアを向かわせる。レオナルドは引き続き自分の仕事を続けてくれ」

「……承知いたしました」


 国王の主張を聞いて、レオナルドは頭を下げた。こうして視察に関する話がまとまり、レオナルドとアリシアはそれぞれ自分の部屋へと戻って行った。


 自室に戻ったアリシアは、ベッドに座って、一息つく。自室に待機していた侍女が彼女に温かい紅茶を運んだ。


 彼女は紅茶に口をつける。そして。


「ふふふっ」


 公爵家の視察に思いを馳せて、笑みを浮かべた。


「久しぶりにアベラルド様に会えるのね。楽しみだわ」

「アリシア様。公爵様は既にご結婚されております。常識を逸した行動は控えるようにお願いいたします」


 しかし、笑みを浮かべていた彼女は、侍女からの言葉に、露骨に苛ついた表情を見せた。


「アベラルド様がどこぞの馬の骨とも知れない聖女と結婚してるなんてねぇ。相手の名前はなんだっけ?」

「聖女のジゼル様です」

「ふーん、そう」


 彼女は不満そうに紅茶の入ったカップの縁をなぞる。しかし、すぐに笑顔に戻った。


「まあ、いいわ。私がアベラルド様との仲を邪魔して、その女を公爵家から追い出してあげるから」

「……」

書籍2巻発売がいよいよ1週間後となりました!活動報告で素敵な表紙も公開しておりますので、ぜひ見にきて下さい♪

またコミカライズは明日から連載開始するので、こちらもよろしくお願いいたします!

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