第4話 作戦会議
「提携って、どういうことですか?」
「うちで扱っている、お米っていう作物があるんですけど、それを使えば新しくて美味しい料理が作れそうなんです」
作りたい料理の説明をしたが、彼はイマイチピンときていないようだった。
「ちょっとイメージがつかないと言うか。実際に作っていただけると、ありがたいのですが」
「えっと、それは‥‥‥」
勢いのままに提案してしまったが、すぐには出来そうにないことに気づいた。
お米は、旅先であるここには持ってきていない。明日には領地に戻る予定だし、ここで料理するのは難しそうだ。
「それなら一度帰って、すぐにここに戻って来よう」
「え?」
考え込んでいたら、公爵様がそう提案をしてくれた。
「え、でも、せっかくの旅行ですよ。そんなすぐに帰って、ここに戻ってくるなんて。明後日から仕事も再開しますし、難しいですよ」
「1日目はのんびりできたし、俺はもう満足だ。今は仕事も溜まってないし、その後しばらくは俺も付き合える。
何より、これはジゼルがやりたいって思ってることなんだろう? 違うか?」
公爵様の言葉に胸の奥がぎゅっと温かくなった。
公爵様は私の意思を聞いてくれる。いつだって私を尊重してくれる。それが私にとって、大きな力になってるんだ。
「やりたいです!」
「それなら決まりだな。‥‥‥というわけで、一旦領地に戻って、もう一度ここに来るから、その時に料理を振る舞う形でもいいか?」
「もちろんです。わざわざありがとうございます」
⭐︎⭐︎⭐︎
一度公爵家に帰ってから、公爵様と共に再び港町へと戻ってきた。
お米を持って来たので、私がかねてより作りたいと思っていた「アレ」を握る。
完成したので、マグロ、サーモン、エビ、イカを使った米料理をテーブルまで運ぶ。
「完成しました! お寿司です!」
「おすし‥‥‥?」
そう。私が作ったのは、日本人のソウルフード・お寿司である。
公爵様と店の店主は、さっそくお寿司に手をつける。
「相変わらず美味しいな。斬新な料理だと思ったが、魚と米ってかなり相性がいいんだな」
「この“おこめ”にはお酢を入れてるんですか? 食欲が増しますね」
私も自分で握ったお寿司を食べてみる。
お寿司を握ったのは初めてだったけど、意外とよく出来ていた。
身がぷりぷりしているし、刺身が新鮮だから、なおさら美味しい。
あとは、お客さんにどうやってお寿司をアピールするかだけど‥‥‥。
「これをお皿に乗せて、お客様の席を一周するように、回転させるとかどうですか?」
「回転?? どうしてですか?」
「お客様のところに運びに行かなくてもいいので、人員を削減できます。あと、見ていて楽しいので、家族連れのお客様をゲットできますね」
「なるほど。でも、どうやって回転させられるんですか?」
「懇意にしてる魔法道具販売店があるので、私から発注します。構造が簡単であれば、すぐに作ってもらうことができますので」
多分、回転寿司方式にしたら、お客さんの興味を引きやすいと思うんだよね。
でも、回転寿司にするなら、もう少し寿司のネタが欲しいところ。今、手元にある食材で増やせるネタは‥‥‥。
「タマゴとかマグロのたたきとかかな」
「それは、どういったものですか?」
「タマゴは、卵を薄く焼いて巻いたものですね。たたきは、マグロの身を叩いてつぶしたものです」
「魚を叩いてつぶす? ‥‥‥拷問か何かですか?」
「違いますよ?」
まさかの拷問に勘違いされるとは。確かに言葉にすると、ちょっとグロイかもしれないけれど、本当は美味しいのに。
「お客様の興味を引くためにも、もう少しインパクトのあることをしたいですね」
「もう充分インパクトはあると思うのですが‥‥‥」
「ジゼルは決めたら一直線だし、とことんやるからな」
「な、なるほど」
私が考えている横で2人はそんな会話をしていた。
その会話を横耳で聞きつつ、前世の海鮮料理を思い出していく。そうだな。たとえば‥‥‥。
「イカの踊り食いとか、どうですかね」
「おどり‥‥‥?」
「生きたまま捌いたイカを食べるんです」
「やっぱり拷問ですか‥‥‥?」
「違います」
私たちの会話に、公爵様がちょっと笑ってる。
違うのに。れっきとした料理なのに。
そういえば、誘拐犯たちに「親子丼」も名称が残酷だって言われたなぁ。おかしいのは私の方か‥‥‥?
インパクトはあるだろうけど、踊り食いを提供するにはリスクが高いかもしれない。
他には何かいい案がないかな。
今ある魚で作れる料理‥‥‥。今あるのは、全部でマグロ、イカ、サーモン、エビ、あとは卵くらい。全部、全部‥‥‥‥‥‥‥‥
「それなら、海鮮を全部乗せた、海鮮丼とかどうですかね?」
「海鮮丼?」
「はい」
私はお椀に酢飯をよそって、既に捌いてある魚を乗せた。
「これで完成です。魚をあらかじめ捌いていれば、お寿司を握るより、こっちの方が簡単かもしれないです」
「面白いと思います。でも、“おすし”との差別化をしながら売ることが出来るかが問題ですね」
「確かにそうですね‥‥‥」
せっかくだから、お寿司とは違った、何か特別な売り出しが欲しい。このままだと回転寿司のインパクトに、海鮮丼が負けてしまう気がする。
うーん。
考え込んでいたら、海鮮丼を食べていた公爵様がポツリと呟いた。
「これは色々な魚を味わえるから、ワクワクするし、特別感があるよな」
「ワクワク、特別感………。それですよ!」
「え?」
公爵様の言葉で、いい売り出し方を思いついた。さっそく2人に話してみると、面白い取り組みだと太鼓判を押してもらえた。
「それでは、イアン様に相談しながらになると思いますが‥‥‥準備期間を設けて、チラシを配って宣伝をして、今週末には提供を開始することにします」
「それなら、初日だけ私も手伝ってもいいですか?」
「いいんですか?」
「もちろんです。これからお米を売り出していきたいと思っていたところなので、むしろ協力させて下さい」
「ありがとうございます! それなら、ジゼル様の名前をチラシに入れてもいいですか?」
「それで助けになるなら、大丈夫です」




