0日目
そんなこんなで、全体的にぎこちない空気の中で、その日は暮れた。
徳光は、無理にゲームの話にならないように、キッチンで夕食などで顔を合わせても、努めて別の話題を出して話を振って来て少しめんどくさかった。
皆も同じ感想のようで、話は盛り上がらないまま、永宗のCOを聞いてしまった面々は特にだんまりとして夜時間になって行った。
…村役職が、今結果を見たり護衛したりしてるんだろうな。
だが、ここへ来た時に聞いていた通りここは完全防音なので、全く他の部屋の様子も、廊下の様子も伝わって来ない。
久司は、人狼の行動時間をじっと待っていた。
午後11時になり、少しうつらうつらしていた久司の耳に、扉からガツンという大きめの音がした。
…なんだ?!
慌てて起き上がって扉を見る。
特に変わりはないようだ。
金時計を見ると、もう11時になっていたので、久司はもしかしたら鍵が開いたのかと、急いで扉へ向かった。
思った通り、扉はすんなりと開いた。
…今の音、他の部屋に漏れてないだろうな。
久司はヒヤヒヤしたが、よく考えると完全防音だ。
部屋の中には聴こえたが、外には聴こえていないだろう。
そっと廊下へと足を踏み出すと、廊下には正高と敦が並んで立っていた。
「…下へ行こう。」
正高が言う。
久司は頷いて、三階から降りて来る拓也を待って、目で頷きかけると、4人は急ぎ足で階下のリビングへと向かった。
リビングヘ着くと、正高がソファへどっかりと座って言った。
「防音なのは知ってるが、気を遣うっての。で、仲間だな。よろしく頼むよ。」
久司と拓也も、ソファに座りながら頷く。
「勝てるんだろうか。敵は13人も居るぞ。オレ、顔に出そう。」
拓也が言う。
敦は、ソファに落ち着いて座ると、言った。
「徳光は愚かな選択をした。こちらにとっては有利、真役職を抜くチャンスだ。まあ、村人達のお手並み拝見と行こうじゃないか。厄介なのは狐だが、今のところ全くわからないな。しかし、役がありそうなところはなんとなく分かった。そこから選んで噛んでみよう。」
久司が、驚いた顔で言った。
「え、もう?何も話してなかったのに?」
敦は、苦笑した。
「役職配布の時の表情だ。」と、指を立てた。「まず永宗。真か偽かはわからないが、顔色が変わったし、やたらと回りを気にする素振りを見せたので、あの時COしなくても私には何らかの役職があると思った。女子達はそもそも感情が顔に出るので、役職に対する動揺なのか、それともいきなりゲームをさせられることへの動揺なのかは判断できなかったが、皆が皆顔色を変えてはいたな。年齢的にも落ち着いている真智子さんと久子さんは、その動揺はなかったので、今のところは襲撃対象とは思っていない。今夜は、残りの女子から選んでみてはどうかと思っている。男性はあまり顔に出ないので、永宗のようなのは珍しいから目立ってわかっていたが、今夜は永宗ではない。」
拓也は、顔をしかめた。
「それはなぜ?真占い師だったら噛めたらラッキーだし、騙りに出る人が減って良いんじゃ。」
敦は、答えた。
「あの場に狩人が居た可能性があるからな。真だったらまずいと守る可能性がある。護衛成功が出たことが徳光に知れたら、その場に居た私達が真っ先に疑われるだろう。私は、徳光に提案するつもりでいるのだ。」
久司は、眉を寄せた。
「いったい何を?」
敦は、頷いた。
「狩人に徳光だけに護衛先を明かすように。そうしたら、狐噛みなのか護衛成功なのかの、推理が進む。それに、徳光はよくしゃべるので、ボロが出る可能性がある。狩人が透けたらそこを噛める。狩人本人だけでなく、パン屋にも秘匿する務めができるからな。知っている人数は、多い方が漏れる可能性が上がるのだよ。」
確かに、その通りだ。
正高が、息をついた。
「で?誰か騙るのか。オレはめんどくさいから出たくねぇなあ。」
拓也と久司が、顔を見合わせる。
敦が、言った。
「私が出ようか?ただ、発言で真を取る自信はあるが、私では呪殺を出せないので良い所で自噛みする必要があるかもしれないぞ。君たちだけで、その後勝てるようにはして行くつもりだが。」
結構な自信だ。
が、何か何でも任せていたら大丈夫な気がしてくるから不思議だ。
拓也が、頷いた。
「だったら、敦さんに出てもらいたいです。囲ってくれます?」
敦は、首を振った。
「初日は囲わない。白先相互占いなど提案されたら面倒だろう。縄に余裕があるうちに黒結果を村に見せるのは後々吊られる可能性が高まる。囲うなら明日以降、霊能者が処理できたら安心して囲える。最初は慎重に行こう。」
正高が、言った。
「だな。じゃあまあ、明日は適当に白打ってもらって、襲撃はどうする?永宗じゃないならパン屋かと思ってたが、女子からだろう?」
敦は、考える顔をした。
「徳光はまだ良い。愚かそうだし村に不利に進めてくれそうだ。私が思うに…佐知さんか、芽依さん、冴子さん、聖子さん。この辺りに必ず役職者が混じっているように思うのだ。君たちなら、誰にする?」
拓也が、顔をしかめた。
「そもそもオレには全く分かってないから。でも、佐知さんを抜いたら辰巳が役職だった時に、腑抜けるか逆に力が入ってから回るか、そんな感じになりそうだけどな。」
動揺を誘うのか。
久司は、気の毒に思ったが、そもそも二人が同じ陣営だとは限らない。
なので、頷いた。
「いいかも。動揺させて、黒塗りできるかも。」
正高が、言った。
「ちょっと趣味は悪ぃがまあ、命が懸かってるしな。じゃあ佐知さんにするか。で、いきなり猫又とかないだろうな。」
そうだ、猫又…。
久司は、背に冷たいものが流れる心地になった。
そうなのだ、猫又がいる。
敦は、あっさりと腕輪を開いた。
「そんなもの、怖がっていたら襲撃もままならないだろうが。」と、ポチポチとキーを押した。「これで襲撃完了だ。」
すると、腕輪が言った。
《襲撃先をNo.10から受け付けました。》
正高が、焦って言った。
「おい、待て、それもしかしたら入力した奴が道連れとかじゃねぇのか。佐知さんが猫又だったら、お前明日から参加できねぇんじゃ。」
敦は、涼しい顔をして答えた。
「だからなんだ?それから君達が猫又トラップに掛からず済むのだから、益はある。狂人も居る、ヤバい盤面になってから猫又を噛むよりマシだ。もしそうなったら、後は君達でやるといい。」
丸投げかよ!
久司は思った。
正高が黙ってむっつりと敦の顔を睨んで考えていたが、諦めたように肩の力を抜いた。
そして、言った。
「…仕方ねぇ。もしそうなったらオレが占い師を騙る。」と、拓也と久司を見た。「お前らも、明日だけは何とか生き残れよ。明後日以降は、占い指定が入るだろうからそこにお前らが入ったら囲ってやるから。発言するんだ、白く見えるように。寡黙が一番まずいからな。吊られそうになったらこの際、狩人だとか言っとけ。まだ狩人をパン屋に開示してない時ならそれで何とかなる。」
オレ達も騙るのか…?!
久司は、体を固くした。
騙るのは良いが、狩人なんていつかボロが出るじゃないか。
拓也は、情けない声で言った。
「オレ、発言した方が怪しまれるんだけど。このゲーム、苦手なんだよ。」
確かにそういう人も居た。
久司が同情の視線を拓也に向けたが、敦が言った。
「まあ、問題ない。私が生きていたら上手いこと言ってやるが、しかし無駄なことは言うなよ。そうだな、私に合わせた発言をしろ。」と、正高を見た。「君は私に反論して、久司は正高に同意して、二つに分けよう。どっちが吊られたり占われて色が見えても、片方は生き残る。そのうちに、一人ずつ囲って行くので敵対している様子も緩めて行き、私が真置きされたら君達も白だ。最終日までその流れで行こう。」
だからあなたが今夜死んだらこっちはどうしたら良いんだって話なんですよ。
久司は思ったが、黙っていた。
そんなこんなで、狼達は0日目の夜を終えたのだった。