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エピローグ

それから、毎日ゲームの話をしながら食っちゃ寝を繰り返して、楽しく過ごした。

庭には一応バスケットゴールがあるのだが、どうやらこの辺りは熊が出るらしく、外に行くのは推奨しないと言われて皆、外にはあまり出なかった。

だが、解放された三階から上には広い部屋もあって、そこで運動できたので、何も問題はなかった。

あれから、敦と正高…いや彰と博正は、姿を見ていない。

一度医師の一人に聞いてみたが、二人はもう後をその医師達に任せてここを去ったようで、とっくに居なかったようだった。

挨拶もなく、とは思ったが、また町の病院で顔を見ることもあるかもしれない。

そういえば苗字も聞かなかったが、そのうちに会えるだろうと、特に寂しくは感じていなかった。

瞬く間に一月が過ぎ、体もかなり回復し、全員が検査を終えて、五ヶ月後の検査までここに残るか、それとも町へ一旦帰るかの選択を迫られた。

女子達は、久子、舞、佐知以外は皆、実家へ帰ると決めたようだ。

冴子が、言った。

「電話したら、帰って来いって言うから。仕事も探さなきゃならないし。お金も掛からないし、ここに残ってもいいかなと思ってたんだけどね。泣いて喜んでて…なんか、親孝行しなきゃなって。」

親に面倒をかけたくなくて、ここへ来たみたいだったもんなあ。

久司は、それを聞いて思った。

光晴が、言った。

「…オレも。」光晴は、少し照れくさそうにもじもじしながら言った。「その、オレの親友。一緒に会社起こした。あいつに電話したら、めっちゃ喜んでくれて…連絡しなかったことを責められた。もう死んでるかもって、心配してくれてたみたいで。電話口で泣いてたよ。戻って来いって言うし、会社の寮にしてるマンションが空いてるから、そこに一旦戻るつもりだ。もうオレのことなんか、忘れてると思ってたのにな。」

いい友達なんだなあ。

久司は、思って頷いた。

「オレは残るよ。その間にここから就活して、町に出て面接とか受けてついでに部屋も探して来なきゃって。五ヶ月あったら何とかなるだろ。」

徳光が、言った。

「久司は何関係の仕事してたんだ?」

久司は、答えた。

「オレは光晴と同じようなことかな。コンピューター関係。セッティングとか。配線とか…工事士の資格あるから、屋外配線の引き込みとかもしてるよ。だからソフト関係でなくハード面の方のコンピューター関係かな。光晴とはそこが違うと思う。今めっちゃ需要はあるから、食うには困らなかったんだ。」

光晴は、え、と久司を見た。

「え、久司そっち系?だったらオレんとこ来る?そっちの需要も増えてるから、今までは他社に振ってたけど最近その部門をうちの会社でも作ったんだ。でも、人材不足でなかなか人とれなくて困ってる。」

久司は、身を乗り出した。

「マジか。雇ってくれたら嬉しいけど、オレ五ヶ月ここに居るつもりだから。それまでに席埋まってるんじゃないか?」

直前に探そうと思っていたのだ。

自分に需要があることを、久司は知っている。

だから直前でも充分間に合うと考えていた。

光晴は、言った。

「分かってるから、それは待つよ。寮も、オレが向こうへ帰ったら入る所に、オレの後に入ったらいい。オレはそこにずっと居るつもりはないから、落ち着いたらマンション探そうと思ってたし。1LDKだからな。」

1LDKなら久司には充分だ。

久司は、職と住み処を同時にゲットできると頷いた。

「だったら、履歴書送るよ。でもここ、ポストもないしなあ。」

光晴は、笑った。

「問題ない。うちはIT会社なんだぞ?ネットで送れる。っていうか、ここ回線繋がってないから、後でいいよ。前の会社でどんなことをやってたのか、後で詳しく聞かせてくれ。親友に話して、通しておくよ。」

めっちゃ助かる!

久司は、明るい気持ちになった。

これで、新しい生活の目処もついた。

それから、光晴達帰る人達が病院の用意したマイクロバスに乗り込むのを見送って、未来にとても明るい兆しを見ていたのだった。


彰は、研究所の自分の執務室で座っていた。

そこへ、ノックの音がして博正と真司が入って来た。

「ちょっといいか?」

彰は、頷いて顔を上げた。

「なんだ?」

博正は、入って来て言った。

「まず、クリスから報告はあっただろうが、あいつら一月後の検査で問題なかったから、帰る奴は帰ったぞ。オレじゃ面が割れてるから、真司がバスに乗せて最寄駅に送り届けて来た。」

彰は、頷く。

「聞いている。他には?」

博正は、頷いた。

「お前も知ってるだろうが、オレはこの見た目だがまだ17だ。土日以外は看護学校に通ってる。」

彰は、眉を寄せながら辛抱強く答えた。

「知っている。中学を出て入った高校を中退して看護高校に編入したよな。私の口ききで。」

だから知ってて当然だろうが、と言っているのが透けて見える。

博正は、続けた。

「だからイライラすんな。最近、そこへ学校訪問に中学生達が来るんだけどよ、その中に、要が居たんでぇ。」

え、と彰は明らかに驚いた顔をした。

「なんだって、要?要が看護師だと?」

あれだけの事を成し遂げた頭脳の持ち主なのに。

真司が、言った。

「思うに、恐らくあいつも頭の中に記憶があるから、医療系に興味があるんじゃないかって。頭は充分だが、調べたらあいつの家じゃ、まだ家のローンもあるし医学部に行かせることができないようで。将来的に、とりあえず早く稼いで金を貯めて、それから海外に、留学しようと長い計画があるみたいなんだ。」

考えたら、前の時は人狼ゲームに姉弟で巻き込んで、その慰安金のような形で大金を手にしたので、両親はそれで家のローンを返したとか要から聞いていた。

だからこそ、奨学金もあったし要はあちらの滞在費だけ両親に用意させて、海を渡った。

だが、今回は違うので、記憶も手伝って早くに医療を目指そうと志したのもあり、要は自分で何とかしようと中学生から先を見通した生き方をしようとしているのだ。

「なんと無駄な。私が出すと言いたいが、今の時点ではなぜとなるだろう。どうしたものか。要はまだ思い出さないのか。」

博正は、顔をしかめた。

「あいつはまだ14だ。前回お前と会ったのは、あいつが幾つの時だった?」

彰は、考えた。

「…あれは私が32歳の時だったので、要は17か18、確か高校三年生だと言っていたのを記憶している。クルーズ船でのゲームをした時の事だからな。」

博正は、ああ、と思い出したように言った。

「そうか、あの時か。オレは二十歳だったんじゃないか。無理やり参加させられて、ジョンも初めて自分が参加するとか言い出した時だ。なんか気が向いたみたいで、記憶処理もしないで皆に慰安金を出した時だろ。分かったぞ、だからだ。あの時の要はもう進路考えててもおかしくない歳だったし、お前に影響されて医学の道へ行った。金は獲得した慰安金があった。今の要は14でお前と出会ってもないのにもう、医療系に行きたいって思ってる。で、親には金がない。それが分かってるから、今から将来見据えて考えて、あんなことになってるんだ。」

彰は、頷いた。

「その通りだ。要の両親は、あの金で要が17の時に家のローンを完済したのだと要が言っていた。だからこそ、要は海外留学も簡単にできたのだ。今では無理だろう…困ったな。別の道筋を行っているばかりに、こんな弊害が出るか。要に苦労はさせられない。思い出すのが一番なのだが…クリスは、何と?」

脳神経関係は、クリスだからだ。

真司が、答えた。

「クリスは、覚えているのなら同じような場面があれば、思い出すだろうって言っていた。人狼ゲームでもさせたらいいのかって思ったが…あの頃、お前結構無茶してただろう。人狼を引いた人達に実際に人を殺させて、それを蘇生してあの24時間の薬の治験をやってた。今はあそこまでの実験はしようと思わないだろ?紫貴さんが何を言うか分からないし。」

彰は、険しい顔をしてブンブンと首を振った。

「しない。その必要がないからだ。組成は頭にあって、もう完成している。あの薬の治験は必要ないからこそ、今はこんなぬるい事をしているのだ。」

博正が、言った。

「…だったら、とにかく今回みたいな感じじゃなく、実際に死ぬように見えるゲームをするしかねぇ。それで、思い出すかもしれねぇだろう。まだ14歳だし心配だが…やってみる価値はあると思うぞ。どうする?」

彰は、頷いた。

「やろう。要には、思い出してもらわねばならない。思い出さなかったとしても、無駄な道を辿って遠回りをさせるのは心苦しい。時間は有限だ。人を集められるように、何か考えよう。」

博正と真司が頷く。

世界有数の頭脳を持つ一人だった要が、遠回りをするのはあまりにも時間の無駄だ。

要のための次のゲームの準備は、粛々と進められたのだった。



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人狼 敦 正高 久司 拓也

狂人 永宗

妖狐 久子

背徳者 舞

占い師 冴子 氷雨

霊能者 武 佐知

猫又 光晴

狩人 芽依

パン屋 徳光

村人 喜美彦 真智子 聖子 辰巳

私事で多忙にしていて、途中から駆け足になってしまいました。次は要の記憶を戻したい彰達が、巻き起こす人狼ゲームを書く予定です。今作者を取り巻く状況からいつになるか分かりませんが、なるべく早く書き始めたいと思います。ありがとうございました。2023/12/17

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