ゲーム開始
あなたは、人狼です。仲間・部屋番号7、10、14
げ、人狼だ…!
久司は、にわかに緊張した。
仲間の番号は覚えたが、それが誰なのかを確認する余裕がない。
そもそも、視線を向けたらバレるかもしれないのだ。
何気ない風を装ってそれを見ていると、目の前でその表示は消えた。
《確認されましたか。それが、今から皆様の役職となります。役職行使は今夜から行われ、占い師には初日にランダムに結果が通知されます。その結果、妖狐に白結果が当たることもありますが、初日だけは呪殺は起こらない設定となっております。人狼の襲撃もあります。狩人は、護衛先を選択してください。では、役職行使の仕方についてご説明致します。》
初日襲撃ありなら、役職欠けありなんだな。
久司は思った。
画面が切り替わり、そこに腕輪の画像が出て来た。
《役職行使は、腕輪から行なって頂きます。役職行使の時間になりましたら、占い師には占い先を選択してください、という表示が出ます。その時、脇のテンキーから占いたい人の部屋番号を打って、最後に0を3回入力してください。結果が表示されます。役職行使の時間が過ぎましたら行使できなくなりますので注意してください。狩人も、同様に入力して護衛先を指定してください。霊能者には、昼に追放された人の結果を表示します。行使時間が過ぎましたら消えますので、確認を忘れないようにしてください。次に人狼の襲撃は、村役職の行使と同じく時間内に番号を入力し、最後に0を3回入力してください。襲撃ナシの場合は、0の後に0を3回入力してください。つまり、0を4回で襲撃ナシということになります。それから、妖狐陣営の通信方法ですが、時間になりましたら相手の部屋番号を入れてエンターキーを押すと通話できます。着信した時はエンターキーで応答できます。通話を終える時にはまたエンターキーで切れます。》
皆がただ黙って聞いている中で、モニター画面が変わった。
《では、時間のご説明をします。まず、夜時間になるとお部屋の鍵が施錠され、外へ出ることができなくなります。夜時間は夜9時から、翌朝7時までです。守られなかった場合、ルール違反として追放となります。村役職の行使時間は、夜9時から10時まで。人狼は、10時から翌0時までとなっています。人狼は、この時間に外に出て、話し合うことができます。朝の7時になりましたら解錠されますので、ご自由に行動して頂いて結構です。そして、夜7時になりましたらこちらへ集まって頂いて、誰を追放するのか投票して頂きます。投票は、腕輪から役職行使と同じく、追放したい方の部屋番号を入力し、最後に0を3回入力してください。投票しなかった場合、ルール違反となりまして、追放となります。ちなみに如何なる場合でもこちらがルール違反とみなした場合、その時点で追放となりますのでご注意ください。》
時間を守ってきちんとやっていれば問題ないはず。
久司は、思いながら睨むようにモニターを見ていた。
声が、言った。
《では、また明日の投票時間にこちらからご案内致します。本日はこれまでです。夜9時にお部屋へ入るのをお忘れにならないようにしてください。只今説明したこと、より詳細は、お部屋に置いてありますルールブックをご参照ください。最後に、皆様のご健闘をお祈りしています。》
その言葉を最後に、モニターはパッと消えて真っ暗になった。
シン、と静まり返っている。
全員が険しい顔をしていたが、正高が、口を開いた。
「…仕方ねぇ。こうなったからにはやるしかねぇだろ。で、どうする?今夜は襲撃もあるし狩人が迷うから、誰をとりあえず守るのか分かるように役職だけでも出とくか?」
しかし、久子が言った。
「でも、それって絶対騙りも出るし。余計狩人は迷うんじゃない?」
「ストップ。」徳光が、言った。「それ以上言うな。狩人が透けるだろ。オレだけ出るよ。パン屋だ。対抗居るか?」
誰も、何も言わない。
徳光は、頷いた。
「じゃあ、確定だな。オレが司会やるよ。まだ占い師は結果持ってないだろうし、潜伏で良いと思う。役職出さずに話し合うか?」
敦が、言った。
「役職を出さないなら、話し合いは無意味ではないか?まだ何の行動もしていない。そもそも、今出さないのなら、今夜人狼は話し合ってしまうが良いのか。襲撃がたまたま真占い師に当たったりしたら、役職が欠けてしまうことになるが。」
確かにその通りだ。
襲撃された人の役職まで、わからないのだ。
徳光は、顔をしかめた。
「でも、結果持ってないのに。狼が占いCOの中から適当に噛んで、真に当たる確率の方が高い。」
正高が、言った。
「それはそうだが、噛まれたらまだその人が真だったかもって追えるけど、何もなしだったらわからないままだぞ。まあ、良いけど。今夜は投票もないわけだしな。」
徳光は、断固として首を縦に振らなかった。
「そうだろ。投票もないから、今日はこのままで。だったら明日までは、普通に過ごそう。それで良いだろ?明日から話し合いってことで。」
パン屋が言うならその方がいい。
久司は、思った。
そもそも狼からしたら、話し合えるので問題ないのだ。
誰が騙りに出るのか出ないのか、それで決めることができるだろう。
皆は頷いて、そうして重苦しい空気の中、解散した。
…命が懸かっている。
まだ実感はないが、久司はそう思いながら気を引き締めたのだった。
それからは、朝の和気あいあいとした雰囲気とは打って変わって、皆どこか探るような目で回りを見ていた。
食事もそれでは落ち着かないし、久司としてはさっさと部屋に籠りたかったが、怪しまれるかもと思うと席を立つわけにもいかない。
何しろ、人狼なのだ。
仲間は、後で見ると正高、敦、拓也の3人だった。
敦は医者だと聞いて居るし、頭が切れそうなので仲間なのはありがたかった。
正高も拓也も友好的な性格で、気軽に話してくれるので少し人見知りな久司には助かった。
それに、この二人なら他の人達から、上手く情報を引き出して来てくれそうだった。
何しろ、満遍なく仲良くしているのだ。
久司がホッとしながらペットボトルのお茶を飲んでいると、不意に誰かの声が言った。
「…だったら、先に役職聞いたら良いんじゃないか?」え、と顔を上げると、永宗がこちらを見ていた。「久司は?どう?」
え、と慌てて久司は言った。
「え、何の話だ?ごめん、聞いてなかった。」
永宗が、頬を膨らませた。
「なんだよ、ぼうっとして。今、真占い師が噛まれたらって話してたんだよ。だったら出したらって。」
久司は、言った。
「でも…二人居るんだろ?占い師は。仮に今夜たまたま真占い師に当たったとしても、もう一人は確実に残るわけだし。狼だって、狐も居るんだからそうそう占い師ばっかり噛むとは思わないけどなあ。」
正高が、頷く。
「そうだよな。だいたい、パン屋が明日まで隠すって言ってるんだからそれで良いじゃねぇか。それとも、お前が人外で、占い師の位置を知っときたいとかじゃねぇだろうな。」
永宗は、首を振った。
「そんなはずはないって!」と、急いで言ってから、ため息をついた。「…まあ、オレが占い師だからなんだけど。」
え、とその場にたまたま居た数人が振り返る。
今ここリビングに居るのは、久司が数えたところ9人だ。
それを聞いた、真智子が慌てて寄って来た。
「こら!ダメよ。」と、小声で言った。「徳光さんが居なくて良かった。怒られるわよ?私達は聞かなかったことにするから。」
あちらに居る、女子達数人も、聞いてしまった、とバツが悪そうな顔をしている。
一応全員覚えておこうと見回すと、今ここに居るのは正高、敦、久司、永宗、真智子、聖子、芽依、久子、冴子だった。
つまりは、彼氏持ちの舞と佐知以外、女子は全員居るのだ。
皆に困った目で見られて、永宗はバツが悪そうな顔をした。
「…ごめん。早く相方を知りたくて。一人じゃ心細いじゃないか。」
そうかも知れないが、後でめんどくさいことになるかもなのに。
こうなると今夜は永宗を噛みたいところだが、怪しまれる可能性がある。
それに、こんな動きをするのは何やら狂人っぽくも見えた。
…残しておくべきか?
久司は、また考え込んだ。
微妙な空気になったので、永宗は部屋に帰ると言い出し、それで女子達も帰ろうかと言い出したので、久司もそれに乗って、部屋へと帰ることに成功したのだった。