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ゲームは、終わった。

人狼が誰だったのか分かった後の聖子の表情を絶望的なものだったが、光晴はもう諦めているような、悟っているようなそんな顔だった。

そんな空気の中で、敦がモニターに向かって言った。

「終わったな。全員部屋へ戻すといい。昨夜の数字を今朝見たが、問題ないようだ。あと一か月ほどここでリハビリさせて、その後帰してもいいだろう。クリスは何と言っている?」

声が答える。

《はい。クリスも同じく大きな癌細胞の死滅を確認しております。このまま体力の回復を待って、一月後に街へ帰すことができる状態になるというのは同じですが、半年後に再検査が必要なので、それならいっそこのままここで半年の方が良いのかと。ここはあなたの持ち物ですので、使用をお許しになるかはあなたのご判断だと思いますが。》

敦は、答えた。

「まあ、そこは各自の判断に任せてはどうか。ここへ死ぬために来たと思っている者達が多いし、いきなり帰れと言ってもあちらに家もない人達も居るだろう。半年後まで使用していてもいいし、戻りたいなら戻って、半年後の検査はあちらで受けさせても良いしな。聞いておいてくれないか。」

声は、頷いたようだった。

《わかりました、ジョン。では、残りの方々もそちらへ戻りたいようなので、降ろしますね。》

敦は、頷いた。

「分かった。」と、茫然としている4人を見た。「ああ、久司には説明していたのだが、私は患者ではないのだ。君達に紛れて様子を見て、危ないようならゲームをストップさせようと思っていた医師の一人だ。正高は看護師だった。このゲームは、最初から治療後のリハビリを兼ねた遊びでしかないのだ。」

喜美彦が、項垂れていた顔を上げて、言った。

「え…じゃあ、オレ達も治療してもらえるのか?」

敦は、答えた。

「そもそもが、全員もう治療が終わっている。」え、と久司も知らなかったことに、目を丸くした。敦は続けた。「最初に徳光が気付いていただろうが。あの時点で一週間、毎日全員を眠らせたまま治療を続けた後だった。まだ改発段階の薬なので、副作用が大きい。かなり体力が必要で、最悪その段階で死ぬ可能性もあったが、君達はそれを乗り切って何とか回復した。ここからは落ちた筋肉の回復や、気力の回復が大切だが最初の検査段階で、動きたがらない患者が多いと報告を受けていたので、強制的に行動させるためにこんなゲームを理由を付けてさせたのだ。まだ本調子ではない君達を傍で監視するために、私と正高が参加していた。毎晩、君達が寝静まった時に担当医師が回診していたのだぞ?知らないだろうがね。」

知らなかった。

久司は、聞いていて思った。

つまり、もう治ったみたいだと思っていたが、本当に治っていたのだ。

光晴が、自分の両手を見た。

「…ということは、オレはもう癌患者じゃない?」

敦は、頷く。

「そうなるな。今検査しても、癌の兆候はないだろう。だが、この病気の厄介なところは、どこに潜んでいるのか分からないところだ。もし、一個でも生き残った細胞があって、それがどこかで巣食っていたなら、また増えて来る可能性がある。なので、半年後に検査は不可欠だ。五年後までは、半年に一度は検査を受けた方が良いと推奨しておこう。」

何が何やらと言われた事実を何とか心の中で反芻していると、そこへ追放された人達がわらわらと入って来た。

真智子が、言った。

「お疲れ様!上で見てたわよ。リビングとキッチンと廊下にはカメラが付いてて、四階で見てたの!」

武が、頷く。

「そう。オレ達は追放された時点で上で自由に過ごしてて、このゲームの真実も聞かされててな。だったらそんなに頑張らなくてもって、上で言ってたんだ。段々悲壮な顔になって来るし、なんか心配でさ。」

正高が、久司に歩み寄って来た。

「よお、頑張ったな。敦のやつが無理言ってるのは聞いてたぞ。こっちも夜時間に五階へ行きたいとか言って来るから、ちょっと待てって止めてたんだよ。五階に紫貴さんが到着したって、夜の定例報告の時にクリスのやつがうっかり報告しちまって。」

久司は、まだ困惑しながら言った。

「紫貴さんって誰?」

正高は、答えた。

「そうか知らねぇな。敦の嫁さ。いくらなんでも最初からついて来るのは無理だからって、子達の事が落ち着いてから来る予定だったんでぇ。それが、一昨日だったの。で、敦はイライラしてたわけだ。」

だから妻が見ていたらって頻繁に言ってたのか。

久司は、合点が言った。

本当に見ている可能性があったからなのだ。

敦は、言った。

「それより紫貴は?降りて来ないのか。」

正高は言った。

「オレは一緒に降りるかって聞いたけど、部外者だからって。会いたいなら五階に行って来な。先に言っとくが、お前が心配しているようなことは何もないぞ。お前が他に誰かなんか、思うはずないだろうが。逆にまだ信じてくださらないのかしら、ってそっち方向に機嫌を悪くしてた。」

「行って来る。」敦は、急いでリビングの扉へ足を向けた。「早く話さないと。」

入り口付近で集まっていた人並みを掻き分けてさっさと退場しようとするのに、永宗が慌てて言った。

「え、敦さん!待って、今からゲームの振り返りしようってみんなで降りて来たのに!」

敦は、足を止めずに言った。

「私は狼だった!内容は他の狼に聞け。ではな!」

声が遠ざかって行く。

皆はため息をつき、正高が仕方なく言った。

「…ま、あいつは嫁命だから。みんな座れよ。振り返りだろ?役職内訳とか、まず話そうや。ま、上ではもう、話してたんだけどな。」

皆は頷いて、そうしてソファに座って敦抜きで話すことにしたのだった。


正高が、皆を見回して言った。

「じゃあ、まずこっちの事を話そう。お前らは、もう何をやっても手遅れだった。癌の末期ってやつ。体中に転移していて手の施しようがない状態。まだ荒い状態の新薬だから、普通には治験もできないので、お前らをここへ集めて緩和ケアと称して治験した。お前らがここへ来る時に署名した契約書を覚えているか?新薬の治験も受け入れるという項目があったはずだ。ま、みんな体調最悪だし、見てなかったのかも知れねぇけどよ。」

そういえば、あったかもしれない。

久司は、思って聞いていた。

徳光が、頷いた。

「あったな。覚えてる。それで万が一にも助かるならいいかと署名した覚えがある。」

正高は、頷いた。

「そう、それ。敦も言ってたが、あの薬は開発段階でまだ強すぎる所があるんだ。その勢いで耐えられずに死ぬ未来もあった。何しろ、癌細胞が一気に死滅するから、それを濾過する腎臓だって頑張らないと、全身に…何て言ったら分かるかな、その老廃物が回って多臓器不全になる可能性だって高い。だから、一定の年齢以下と決めて被験者は選んだ。まだ頑張れる可能性があるからだ。やっぱり徳光はヤバかった。後一日熱が下がらなかったらダメだったと思う。後久司も。あちこち免疫力も落ちてたし、臓器が疲弊してたからダメかと思った。だが、とりあえず持ち直して、みんなホッとしてたよ。それから回復を待って、もう大丈夫と起こしたのが、一週間後のあの日だった。みんなまだ顔色が悪かったが、体が軽くなってただろ?余計な物がなくなったからな。」

死にかけてたのか。

久司は、身震いした。

そこで死んでいたら、今はなかったのだ。

「…オレみたいにもうあきらめて、寝たきりみたいな生活してたら薬の勢いに勝てないかもだったんだ。」

正高は、頷いた。

「そうだな。武なんか、体力あったからめっちゃ回復早かったぞ?もう、三日目には起こしても大丈夫そうだったが、そうしたら他と齟齬が出るし、寝ててもらっただけ。」

舞が、武を見た。

「武さんは、すごく前向きだったから。こんな緩和ケアの所に来てるのに、死ぬ直前まで普通に動き回りたいって言って毎日お散歩したり。私もだから、一緒に動いて体力はあったかも。」

久司は、それにも頷いた。

「だな。君もだから、回復は早かったよ。人間諦めたら負けなのかもな。」

徳光が、ため息をついた。

「とにかく、そっちの事はわかった。ゲームをさせた意味も。お陰で病気の事なんか忘れて没頭してたよ。じゃあ、ゲームの振り返りをしよう。狼は、誰と誰だったか。まずは役職から開示していこう。」

そうして、敦以外の皆が向き合って、話し始めた。

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