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八日目の投票

光晴を見送って、久司は言った。

「…聖子さんと話すんですかね?」

敦は、首を振った。

「どうだろうな。まあ、やはり私は最後まで戦うことにする。これで聖子さんが私吊りを選ぶのなら、それでもいいではないか。それが正しい道筋だ。私が焦ってキレたことで、村が萎縮して思考を止めるのは喜ばしくない。私は間違っていた。参加したからには、最後までやりきらねばな。」

久司は、頷いたが複雑だった。

何しろ、そうなったら結局残される久司は最終日頑張らねばならないからだ。

敦と正高は、命が懸かっていないだろうが、拓也、永宗、久司にはこれからの時間が懸かっているのだ。

「…できたら、オレは今夜勝ちを決めてしまいたいです。光晴は、敦さんを信じようと決めたみたいに見えましたけど。」

敦は、苦笑した。

「私を信じて、騙されたと知った時に失望はハンパないだろう。考えた末のことなら諦めもつこうが、光晴にも言ったように、脅したり恫喝したりで強制するのは間違っている。私は良くないことをした。焦ったばかりに…今は、落ち着いて話せると思う。フェアではないからな。妻が見ていたら、私のやり方を良くは思っていないはずだ。顔が見たいと焦ったのが悪かった。反省している。」

なんか考えの中心に奥さんが来るよなあ。

久司は、敦の前に座って、言った。

「奥さんってどんなかたなんでしょうね。そんなに敦さんが想ってる人に興味があります。」

敦は、驚いたように久司を見てから、顔をしかめた。

「…興味?やめてくれないか、私の妻だぞ。変な興味は持たないでくれ。」

久司は、慌てて手を振った。

「いえ、違いますって!ただそんなに敦さんに想われるなんて、きっと素晴らしい人だろうなって。オレ、恋愛なんか今考えてません!体が第一で。」

敦は、肩の力を抜いた。

「そうか。ならばいい。もちろん、妻は素晴らしい女性だ。私は世界中の女性から言い寄られたが、妻のような女性は居なかったし、興味も持たなかった。だが、妻だけは違った。妻は逆に私に興味もなくて、かなり強引に言い寄って無理やり婚約して、結婚した。なので今も、愛してはくれているようだが、その愛情が失くならないかと気を付けているのだ。」

だからちょっとのことでも気にするんだな。

久司は、思った。

それにしても、この敦に興味もなかったなんて、どんな女性なのだろうと久司は敦の妻に、会ってみたいと心底思っていたのだった。


その夜、少し早めにリビングへと入った久司は、もうそこに敦以外の3人が来て座っているのを見た。

どうも、話し合っていたようだった。

久司は、言った。

「会議してたのか?」

光晴は、首を振った。

「いや、たまたま集まった。」と、喜美彦と聖子を見た。「聖子ちゃんはどうしても喜美彦に入れてゲームを終わらせたいと言うし、オレは…敦さんを信じているからこそ、引き延ばしていると言われても今日は敦さんに投票しようと思ってる。それが、徳光の遺言でもあったしな。どうせ、オレが誰に入れても君と敦さんが喜美彦に入れるなら、聖子ちゃんと3票で吊られるのは喜美彦なんだ。だったら、それが村の決定だし、それでいいかと。オレが嫌だったのは、敦さんに自投票させてまで敦さんを吊ることだったんだ。そんなのフェアじゃないからな。仮に敦さんと君が狼だったとしても、ここまで白い行動でかなり頑張っていたし、喜美彦はそれには勝てないだろう。聖子ちゃんの気持ちもわかる。喜美彦は納得してないみたいだけどな。」

喜美彦は、言った。

「オレは狼じゃないからな。納得してない。聖子ちゃんには考え直して欲しいと何度も言ってる。」

聖子は、言った。

「例え今夜敦さんを吊っても、私は明日絶対にあなたを吊るわ。敦さんを信じてるから。あなたは永宗さんの黒でもあるのよ?信じろと言うのが無理なのよ。まあ、そうなると私は今夜襲撃されるだろうし、光晴さんを説得するだけになるから、勝てると思っているのでしょうけど。」

喜美彦は、首を振った。

「だから!オレは襲撃なんかできないっての!なんで分かってくれないんだよ、そもそもだったら徳光さんを噛んだりしてない!冴子さん真も考えようとしてくれてた唯一の人だったのに、昨日芽依ちゃんを噛むなら一昨日噛んで、昨日は君を噛んでるって!徳光さんを残してる方がオレに有利じゃないか!絶対昨日敦さんを吊れてただろうし!」

そうなるか。

久司は、黙ってそれを聞いていた。

光晴が、喜美彦をなだめるように言った。

「わかったって。オレもそれで悩んだんだし。聖子ちゃんを残してるのが、確かになあって。でも、こうなったんだし仕方ない。後は投票だ。君が狼でないなら、狼は上手くやって子の盤面を作ったんだ。村人だったら、もっと村に白だと思わせる行動をしなきゃならなかったと思うぞ。」

喜美彦は、発言も少なかった。

そう言われても仕方がない。

「…村人だからこそ、分からなかったんだよ…。」

喜美彦は、頭を抱えて下を向いた。

そこへ、敦が入って来た。

「…集まってるな。話し合っていたのか?」

久司は、敦を振り返った。

「それぞれ思う所にって。光晴は、どう転んでも喜美彦吊りだから、せめて徳光さんの言う所に入れるって言ってる。」

敦は、ソファに座りながら頷いた。

「後悔のないようにするのが一番だ。私も言い過ぎた。長く妻と会えていないので、早く終わらせたいとイライラしてしまったのだ。反省している。」

光晴は、驚いた顔をした。

「え、オレにイライラしたんじゃなくて?」

敦は、苦笑した。

「そう。私は実は、一時も妻と離れたくないのでね。いくら仕事でも、一週間以上側を離れるなんてなくて。離れていたのは、一度留学していた数年ぐらい、そこからはずっと側に置いて、二度目の留学の時には結婚して無理に一緒に連れて行ったぐらいなのだ。」

久司は、言った。

「留学?海外にですか?幾つの時に?」

敦は答えた。

「5歳ぐらいか。祖父の執事を連れてアメリカに渡り、そこで一旦大学を出て日本に戻った。そこから世話係兼秘書として妻を雇って側に置き、また、メディカルスクールへ行く前に結婚した。」

光晴は、顔をしかめた。

「…それ、帰って来たのは何歳ぐらいでした?確か結婚したのは18の時だって言ってましたよね。雇うって、奥さん何歳だったんですか。」

敦は、遠い目をした。

「…確か、帰って来たのは妻が高校三年の時だったから、私は13だったか。就職先を探していたので、ならばと提案したのだ。彼女は18だったな。」

つまり、嫁は5歳歳上なのだ。

「え、歳上?奥さん今34歳ですか。」

久司が言うと、敦は頷いた。

「そう。だから結婚したのは妻が23の時で、放って海外など行っていたら悪い虫がつくと焦ったのだよ。」

それはまた長年想っていたのだな。

皆が感心していると、聖子は微妙な顔をしている。

…ヤバい、聖子ちゃんの票がこっちに来るんじゃ。

久司が思った時、モニターがパッとついた。

《投票、10分前です。》

光晴が、言った。

「どちらにしろ、今日終わる。今5人、喜美彦が狼ならそれで終わるし、敦さんと久司が狼なら、4人になって2-2の状態になる事になるので、ゲーム終了だ。良かった、これで解放される。」

どちらにしろ、喜美彦を吊ったら終わるのだ。

その日の投票は、もう項垂れている喜美彦を後目に、粛々と行われたのだった。


1 喜美彦→10

2 久司→1

8 聖子→1

10敦→1

15光晴→10


最後の投票は、終わった。

最後に少し案じたが、聖子の投票は難なく喜美彦に入っている。

モニターからの、声が告げた。

《№1が追放されます。》

喜美彦は、ソファに項垂れて座っていた。

いつもなら、このまま喜美彦が追放されて終わりだが、今回はモニターは別の事を言った。

《追放処置は、今夜は致しません。これでゲームは終了です。人狼陣営の勝利です。》

聖子が、息を飲む。

その場には、微妙な空気が流れた。

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