八日目の朝
その朝は、廊下に出て来たのは久司、喜美彦、敦、久司、そして聖子の5人だった。
芽依に、襲撃が通ったのだ。
これで真狩人はいなくなり、村目線でも芽依が狂人だったとしても懸念はなくなった。
「…確認してこよう。」
敦が、芽依の部屋へと入って行く。
久司がそれを見送っていると、三階から光晴が降りて来た。
「…芽依ちゃんか。」
久司は、頷く。
「そう。今敦さんが見に行ってくれたよ。」
光晴は、頷いて聖子、喜美彦、久司を見回した。
「…今夜は、敦さんを吊る。」え、と久司が驚いた顔をすると、光晴は続けた。「後2縄だ。芽依ちゃんが襲撃されて、芽依ちゃん黒はなくなった。狂人だったとしても居なくなったのだから関係ない。聖子ちゃんは、敦さんから白が出ているし、昨日の結果からも今朝の様子からも、ゲームが終わってないので冴子さん目線で黒はない。だから、敦さん目線で黒は喜美彦だけ、冴子さん目線では敦さんと久司。だから、今夜は敦さんを吊って明日久司と喜美彦の決戦にする。」
聖子が、言った。
「まだ冴子さん真を追ってるの?あなたは意固地になっているだけよ。喜美彦さんを吊ればゲームが終わるのではないの?冴子さんを吊った癖に、いつまで敦さんを疑うのよ。あなたは襲撃されないだろうけど、これで私は明日確実に襲撃されるわ。あなたが喜美彦さん寄りだから、余裕で私を噛めるのよ。それが勝ち筋だからよ。」
光晴は、聖子を睨んだ。
「うるさい!君は村人なんだから、村の決定に従え!昨日敦さんを吊っておけば、今日喜美彦と久司のランダムだったのに!」
敦が、部屋から出て来た。
「芽依さんが襲撃されていた。」と、皆を見回した。「君の決定は聞いた。だが、それを村の決定と言うのは間違っている。そんな強制の仕方は感心しないな。君は暴君なのか?何の結果も持たない猫又でしかないのに、毎日結論を先送りにするなど、許されることではないぞ。そもそも村の決定は冴子さん偽だ。だから私と冴子さんの決戦で彼女を選んだのではないのかね。君が私を吊りたいのは、君のエゴだ。そう認めて、まあ、どうしてもというのなら私を吊ってもいい。吊れるものならな。」
言い方が攻撃的だ。
とにかく早く終わらせたいのだろう。
何しろ、昨日喜美彦を吊れて居たら、昨夜芽依噛みでゲームは終わっていたのだ。
イライラして仕方がないのだろう。
久司は、まずい、と割り込んだ。
「まあまあ敦さん、気持ちは分かるけど、落ち着いて。」
しかし敦は言った。
「私とてフラストレーションが溜まるのだ!とっとと終えてしまいたいのに、何日も引き延ばして何の益があるのだ。負けるならそれでも良いから、とにかく終わらせたいだけだ!」
もう限界と言っていたっけ。
久司は、正高が居ないことに本当に困っていた。
唯一、敦を呼び捨てにする人物で、扱いに長けているようだったのに。
光晴が、冷静だった敦のいきなりの爆発に気圧されながらも、言った。
「…何の結果も持たないからこそ、安全な道を行きたいんだ。あなたが最初から白かったのは分かっている。だが、喜美彦の話を聞いて、迷っているんだ。とにかく今は、明日が来る吊りをしたいんだよ。」
気持ちは分かる。
分かるが、飲めることではなかった。
このままでは、久司が吊られる未来もあるからだ。
しかし、敦はため息をつくと、言った。
「…仕方がない。ならば私を吊れ。」え、と皆が、久司ですら敦を見る中、敦は続けた。「それで気が済むのなら。反論するのも面倒だ。勝手に負けて死ねば良いではないか。私は私に投票する。そうすれば、光晴と喜美彦、私で過半数になるので私を吊れるだろう。君はよっぽど自分の判断に自信があるのだろうが、まだ芽依さんを狂人などと言っている。そんなわけはないではないか。この盤面で、狂人を噛む狼がどこに居るのだ。お粗末な思考だ。この話はもう終わりだ。今夜、私はこのゲームを降りる。残った君達で、考えれば良いではないか。ここまでやって負けたら、私は君達を軽蔑するがね。」
久司は、慌てて言った。
「敦さん!待ってください、村の命が懸かってるんですって!」
だが、敦はさっさと踵を返してその場を去った。
残された皆は、困ったように顔を見合わせた。
敦がすっかりやる気を失くしてしまっていて、久司からしたら死活問題だったが、敦がキレて自分に入れると言ったことから、光晴が思い悩んでいるのが見えた。
どうやら、これまでどんなに疑われても冷静だった敦が、苛立ちを隠そうともしなかったことが、堪えているようだった。
敦が嫁に会えないのが限界であんな状態になっているなど、久司以外は誰も知らないので、あのキレ方は逆に真っぽく見えているらしかった。
光晴は、話を聞きたいと敦の部屋を訪ねたようだが、敦は言えることはもう全て言った、と、とりつく島もないらしい。
追い出されて全く話にもならないのだと、久司に泣き言を言っていた。
だったら敦を吊らなければ良いのにと、久司は苛立って光晴に答えはしなかった。
久司は、さすがに困っていた。
…今夜、聖子さんがこっちについてるんだから、それで終わるのに。
リビングで、どうしたものかと思っていると、聖子が入って来て、言った。
「ダメ。部屋を訪ねてみたけど、自分は今夜吊られるから、後は頼むってそればかり。」と、久司の前のソファにどっかりと座った。「気持ちは分かるわ。私が敦さんでもキレたと思う。」
久司は、ため息をついた。
「やっぱり。さっき光晴も来た。そっちは話も聞かずに追い出してるらしい。後は頼むって答えるだけまだ君はマシだよ。」
聖子は、頷いた。
「ねえ、もういいわ。私は絶対敦さんには入れない。だから、あなたが説得してくれない?どうせ、光晴さんと喜美彦さんが敦さんに入れても、敦さんを吊るには元々票が足りないのよ。敦さんを説得できるのは、冴子さんはに黒を打たれたあなただけよ。」
久司は、顔をしかめて立ち上がった。
「うん。話して来るよ。もう嫌になったのは分かるんだ。多分、他の人達が休んでる所に自分ももう行きたいとか思ってるんじゃないかな。」
聖子は、頷いた。
「そうね。追放された人達、みんな別の病室に移されたみたいで部屋は空だったもんね。もしかしたら、どこかでこっちの様子を見てるのかも知れないわ。私も…いくら元気になったって言っても、時々疲れてしまって。まだ本調子じゃないんだなってそれで想い知らされる感じ。早く先生に診てもらいたいって思う。」
久司は、驚いて聖子を見た。
「え、聖子ちゃん疲れるの?大丈夫か?」
自分は、寝たら回復している。
聖子は、苦笑した。
「元々体力ある方じゃなかったし。その上病気で痩せていたから、筋力も落ちてるのよ。久司さんはちょっと太って来たんじゃない?一週間前より、明らかに体がしっかりしてきてる。」
確かに自分は体が元に戻って来ている気がする。
久司は、立ち上がった。
「とにかく、行って来る。早く休みたいのはみんな同じだし、聖子ちゃんも疲れて来てるんだって言ってみるよ。敦さんは君を気遣っていたから、それを聞いたら自分投票なんかしなくなるかもしれないから。」
聖子は、ポッと赤くなった。
「まあ…あの、それなら良いけど。よろしくね。」
ごめんね、あの人めっちゃ奥さん似に会いたくて、焦ってるだけなんだよ。
久司は聖子を騙しているのに心が痛んだが、それは顔に出さずに、一人敦の部屋へと向かったのだった。




