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七日目の投票

《投票5分前です。》

投票時間直前、黙って集まったリビングの重苦しい空気の中で、光晴が口を開いた。

「…オレは、敦さんに入れようと思う。」皆が顔を上げるのに、視線を合わせないようにあちらを向いて光晴は続けた。「オレには根性がないんだ。徳光に逆らって、それで負けたらと思うと怖くて仕方がない。すまないが、賛同できる人は敦さんに入れてくれ。」

聖子が、言った。

「私は賛同できないわ!そもそも、冴子さんが真占い師に見えた?私に黒を出す気満々だったわ。生き残ってたら必ず黒打ちして来たでしょう。ゲームが終わってないんだから、私達が狼でないのは証明されているじゃない。時間の無駄だわ。」

芽依は、黙っている。

光晴は、言った。

「君がそう思うならそうしてくれたらいい。ただ、オレは言ったからな?責任を負いたくないんだ。申し訳ないが。」と、芽依を見た。「君が狂人でないなら、敦さんに入れられるだろ?」

芽依は、黙っていたが、頷く。

…やっぱり、保身に走ったか。

久司は、思って聞いていた。

《投票してください。》


1 喜美彦→10

2 久司→1

8 聖子→1

9 芽依→10

10敦→1

15光晴→10


…やっぱり同票…!

モニターの声が言った。

《同票です。もう一度投票してください。投票時間は、3分です。》

…多分、今回ばかりは光晴も票を変えないだろう。

久司は思いながら、また淡々と喜美彦の番号を入力した。


1 喜美彦→10

2 久司→1

8 聖子→1

9 芽依→10

10敦→1

15光晴→10


…やっぱり同票。

久司が思っていると、声が言った。

《同票が二回続きましたので、今夜は追放者はありません。夜時間に備えてください。》

シンと静まり返る。

残ったのは、やはりここへ集まった6人そのままだった。

光晴が、言った。

「…まあ、久司と敦さんは見えてるわけだから分かる。でも、聖子ちゃんまで票を変えなかったのか?吊りナシなんか…まあ、縄が増えたと思えばいいのか。」

敦は、頷いた。

「これで、今日私吊りなら明日最終日だったのが、村の選択次第で明後日まで引き延ばしたことになるな。私から見たら、無駄な行為だ。聖子さんを責めるのは間違いだ。」

聖子を庇うのは、自然な行為だ。

敦から見たら、聖子は白で間違った判断をしていないからだ。

だが、庇われた聖子は、顔を赤くした。

忘れていたが、よく考えたら敦はとても整った顔をしているのだ。

…それも武器。

久司は、敦が生き残って本当に良かったと心底思っていた。

光晴が、言った。

「敦さんだって、吊られてもいいと言っていたのに結局喜美彦に。村の心情を考慮してくれても良かったんじゃないのか?聖子ちゃんも、村の進行で敦さんを吊っておけば必ず最終日は来るのに。もし敦さんが偽だったら、芽依ちゃんが狂人だったら明日はパワープレイなのに。」

聖子は、答えた。

「私は敦さんを信じてる。冴子さんは信用ならないわ。あの人が言った私達3人が狼ってことは間違っていたと今日証明されていたのに、それでもまだ疑うなんておかしいわ!敦さんに散々頼っておいて、ここに来たら吊るなんて間違ってる!」

光晴は、ムッとしたように言った。

「あらゆる可能性を考慮して、何とか勝てる道を残したいと思ってるからじゃないか!徳光は襲撃されたんだぞ。その徳光の意見を尊重しても良かったじゃないか!」

「今まで散々徳光さんの言うことに従って来たわよ!その結果が今なんじゃない!」

「待て。」敦が、割り込んだ。「村同士でいがみ合っても仕方がない。もし、今夜狼が噛みナシを選択したら、また同じ選択を迫られることになるんだぞ。お互いに落ち着いて、しっかり意見を合わせるんだ。その結果が、私吊りでも仕方ない。光晴、聖子さんは間違っていない。私は真だし、喜美彦を吊っていたら、芽依さんが狼でない限りもうゲームは終わっていたのだ。君は芽依さんに、真なら私に投票できるだろうと言ったが、違う。偽なら私に投票したいはずなのだ。君に投票しろと言われて、偽なら渡りに船の気分だったと思うぞ?私が吊られていたら、明日は4人でパワープレイに持ち込める。君は無駄に村を危険に晒したのだ。私目線ではね。君は保身のために、考えるのを止めてもうここには居ない徳光の考えに頼ることにしたんだ。明日は、自分で考えるといい。もちろん、私は勝ちたいので自分に投票などしない。村の選択なら従うと言っただけだ。結果、こうなった。明日は必ず誰かを吊らねばならないぞ。」

光晴は、それを聞いて唇を噛んだ。

久司は、もう光晴の意見など、どうでもいいと立ち上がり、黙ってさっさとリビングを出て行ったのだった。


…明日は、五人だ。

久司がそう思いながら険しい顔で階段を上がっていると、後ろから聖子が追いかけて来て、声を掛けて来た。

「久司さん!待って。」

久司は、振り返った。

聖子は、久司に追いついて来て、階段の踊り場で立ち止った。

「本当なら、今夜ゲームが終わっていたはずなのに。大丈夫よ、明日こそ終わらせましょう。」

久司は、答えた。

「…確かにそうなんだけど、もし芽依ちゃんが狼だったらって心配で。真だったらいくらなんでも今夜は噛まれてくれるから分かるだろうけど、今現在どうなのか分からないだろ?どちらにしろ、敦さんももう占う所は芽依ちゃんしかないから色は明日分かるだろうけど…考えたら、怖いかな。」

聖子は、神妙な顔で頷く。

「そうね。私が噛まれなかったら、必ず喜美彦さん吊りに投票する。芽依ちゃんが真だったら、私ぐらいしか守るところないし、きっと大丈夫よ。」

すると、後ろから敦が上がって来て、言った。

「明日の話か?」

久司は、頷く。

「うん。光晴と喜美彦は?」

敦は、首を振った。

「何やら話そうとしていたし、私が居ては邪魔になるだろうと出て来た。芽依さんはまだ残っていたな。あの二人が仲間だったら、光晴に何かを吹き込んでいそうで心穏やかではないが、しかし仕方がない。それより、私は聖子さんが心配だ。」と、敦は聖子を見た。「もし、芽依さんが偽だった時は、今夜は間違いなく君が襲撃されるだろう。なぜなら、君しか白位置は居ないし、間違っていない村人だから。今夜は、私が吊られないために投票を変えないでいてくれただろう。そのせいで光晴にも責められる事になって、申し訳ないと思っているのだ。もし、強く言われるのが面倒だと思うのなら、明日生き残っていたら私に入れてくれても良いのだぞ?君も最後までゲームを見届けたいだろうし。」

聖子は、言われてまた顔を赤くしたが、ブンブンと首を振った。

「あんな圧なんかに負けません!敦さんはこれまで村を引っ張って来てくれたのに。徳光さんも光晴さんも、ここへ来て怖いなんて虫のいい話だと思いますから。私は大丈夫です。あの…ありがとうございます。気に掛けてくださって。」

敦は、頷いた。

「当然のことだ。君は強いな。芯の強い女性は良いと思う。」

敦がそうと思って言ったのかは分からなかったが、聖子はそれで噴火しそうなほど赤い顔になって、慌てて言った。

「頑張ります!じゃあ、また明日!」

聖子は、階段を駆け上がって行った。

敦と久司は、黙ってそれを見送ったのだった。


夜時間、敦は言った。

「今夜は芽依さんに。間違いなく聖子さんを守っているからな。まあ、そこで護衛成功が出ても別にいいのだが、無駄に時間を長引かせたくない。」

久司は、頷いてすぐに腕輪を開いて芽依の番号を入力した。

そして、顔を上げた。

「これで明日、聖子さんの票を回収できたらゲームは終わりますね。良かった…どうなることかと。」

敦は、頷いた。

「こんなやり方は気にくわないのだが、聖子さんの票は何より大切だ。長く妻の顔も見ていないし、そろそろ限界でね。ゲームを終わらせたいのだよ。なので、気が進まないが聖子さんを過剰に気遣って票固めをしたつもりだ。恐らく大丈夫だろう。」

久司は、え、と敦を見た。

「あれはやっぱりそうでしたか?聖子ちゃん、照れて顔真っ赤でしたよ。」

敦は、顔をしかめた。

「顔が赤い?確かにそうだったが、照れるとはなんだ。私は緊張でああなったのかと思ったのだ。なぜか私と対面で話すと、男も女も緊張で固まる者が多くてね。冷や汗をかく者も居る。」

知らないのか。

久司は、身を乗り出した。

「え、敦さん、自分の容姿の破壊力知らないんですか?あなたは背は高いしガタイもいいし、顔だって同じ東洋人かというほど整ってるのに。それとも、ハーフかなんか?」

敦は、嫌そうに顔を歪めた。

「私は生粋の東洋人だ。知っている限りの縁戚に西洋人は居ない。つまりそれは、聖子さんが私に異性を見ていると?」

久司は、知っててやったんじゃなかったんだと頷いた。

「はい。オレはそう見えたけど。」

敦は、あからさまに動揺して、あちこち歩き回り始めた。

「そんな…私はそんなつもりはなかったのに。妻以外など考えたこともないのに。妻がこれを知ったら、どう思うことか。私にその気がなくとも、言い寄っているように見えたということだろう。何と申し開きすれば良いのだ。」

久司は、そんなに?!と慌てて言った。

「いえ、大丈夫ですって。ここには奥さん居ないでしょう。それに、そんなつもりはなかったって言われたら確かにそうです。何も言い寄ってるような内容は言ってなかったですからね。そんなに気にしなくても大丈夫ですから。」

敦は、立ち止まって久司を見た。

「私は僅かな懸念も妻に与えてはいけないのだ!彼女が不快に思うようなことをしたら…彼女にはトラウマがあるから、私を信じられなくなるだろう。」と、左手の指輪に触れた。「…早くゲームを終わらせなければ。そんなつもりはなかったのだと申し開きせねばならない。グズグズしている間に…それでなくとも今頃は博正と一緒に居るかもしれないのに…こんな遊びに付き合うのではなかった。」

博正とは誰だ。

久司は思ったが、必死に敦をなだめた。

「敦さん、落ち着いて。大丈夫ですって、明日には終わります。終わらせましょう、そんな犠牲を払ってまで聖子ちゃんを味方につけたんですから。」

敦は頷いたが、聞いているのかは分からなかった。

焦って変なことにならなけらばいいな、と久司は案じたのだった。

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