五日目投票
投票時間が近付いて来て、久司は少し早めにリビングへと降りて行った。
光晴が話してくれると言っていたので、皆の意見を拓也吊り一択からどうしても反らしたかったのだ。
だが、降りて行くとまだ来ているのは光晴と徳光、敦だけで、他は来て居なかった。
何しろまだ、投票30分前なのだ。
徳光が、10分前でいいと言ってしまっているので、当然のことだった。
敦が、振り返って言った。
「久司。早いな、今光晴達と話していたところなのだ。」
久司は、頷いた。
「その…芽依ちゃんと喜美彦が狼だったらって、狂人潜伏してたらって不安だったんだけど、どうかな。」
それには光晴が答えた。
「徳光に話した。さっきから、夕飯食いに来てる他の奴らにもオレから話したから、投票ギリギリでも大丈夫だ。拓也一択だったが、二択にすることになったよ。」
敦が、頷いた。
「まあ、私目線じゃ芽依さん狼もあり得るわけだから、そうなるのなら芽依さんに入れる事になるなと話していたのだ。拓也はどう転んでも私目線では白なので、狼を吊りたいからね。狼にプレッシャーを掛けるには、狂人より狼仲間を吊るのが一番だからな。それにより、もっとミスをするかもしれないだろう。」
久司は、眉を上げた。
「え、ミス?」
敦は、また頷いた。
「そう、把握漏れであるとか。狼は考えることが多いので、把握漏れが多い傾向にあるし、それを村人は知っている。冴子さんはこれ以上ミスをできない状況だ。恐らく狼目線とごっちゃになっているのだろう。まして、弁明のために私を噛んでいない事実を話したり、狼目線で知っていることを公表してからはもっとどこまで話しても大丈夫なのか、分からなくなっていると思われる。冴子さんは生き残れば生き残るほど、村に情報を落としてくれるので、今夜狩人吊りは良いことだと思う。」
徳光が、口を開いた。
「…まあ、冴子さんは敦さんに黒を打ったので、噛むこともできなくなっているし、これで良いのかも知れない。狩人が居なかったら絶対噛まれると思っていたが、考えたら敦さん噛みは冴子さんが狼だと言っているようなものだものな。噛めない。敦さんが狼でも…冴子さんは噛まないだろうし。」
敦は、クックと笑った。
「私が狼なら、そもそもここまで占い師を残したりしない。さっさと噛んで行って狐を探し、そこを吊り推す。占い師に出ている狼は、そう長くは生きられないと覚悟しなければならないのだよ。自分が疑われても真占い師を排除して仲間に黒を打たせないのが一番だと思っている。犠牲になるために出るのが、狼の占い師騙りなのだ。」
そう思っているのに、他を噛んで敦は残っている。
自噛みも話し合っていたが、今はそんな状況ではない。
何しろ、拓也が吊られたら残るのは敦と久司のたった2人になるからだ。
永宗も居るが、永宗が生き残っても狼は勝てない。
あくまでも補佐しかできない永宗は、最終日まで生き残れば強いが、心強さの点では狼仲間とは比べ物にならなかった。
久司は拓也を残したい、と、光晴が話しているのも上の空で、投票の時を待っていた。
1 喜美彦→14
2 久司→9
3 永宗→9
4 冴子→14
8 聖子→14
9 芽依→14
10敦→9
14拓也→9
15光晴→9
16徳光→14
投票は出揃った。
なのに、こうして見ると投票は完全に割れていた。
《同票です。もう一度投票してください。制限時間は、3分です。》
モニターには、3:00から数字が減り始めている。
光晴が、叫んだ。
「ヤバい!吊りナシになるぞ、どっちに入れるんだ!」
徳光が、言った。
「…拓也。オレは拓也に入れる!考えてそう決めてたからな。」
しかし、敦が言った。
「もう、吊りナシなら吊りナシでも良い。」え、と皆が思っていると、敦は続けた。「そうしたら今夜の襲撃があっても明日は9人、縄は減らない。だが、占い結果は落ちる。皆が決めているのなら、それも致し方ない。変えようと思う人だけ変えてくれ。」
そうか、偶数進行だから。
《投票してください。》
久司は、何としても拓也を残したい一心で、また同じ番号、9を入力した。
《投票が終了しました。》
結果が現れる。
1 喜美彦→14
2 久司→9
3 永宗→9
4 冴子→14
8 聖子→14
9 芽依→14
10敦→9
14拓也→9
15光晴→14
16徳光→14
え…。
久司は、愕然とした。
光晴の、投票だけが拓也に変わっていたのだ。
《No.14は、追放されます。》
「…拓也!」
久司が思わず拓也を見て言うと、拓也は肩を竦めた。
「ま、仕方ない。覚悟はしてた。とりあえず、芽依ちゃんは偽。それだけわかっててくれたらいいや。」
「拓也…。」
久司が掛ける言葉も思い付かないでいる間に、拓也はソファにもたれて、そして動かなくなった。
「良いんじゃない?」冴子が言う。「これで片方居なくなったんだもの。私目線じゃ人狼もあったわ。それより今夜はどこを占うの?私は聖子ちゃんと久司さんなら、聖子ちゃんを占いたいわ。久司さんは白かったし、そこに白を打っても誰も特別に考えないでしょ。」
だが、敦は言った。
「それでも良いが、ならば私は喜美彦になるな。久司は私の白だし、なぜ君は拓也狼は追うのに、久司狼は追わないのだ?久司に黒を打っても真実味はないが、聖子さんに黒なら信憑性があるからか。それともそこが狼だから、先に占うと言って私から黒が出るのを阻止しようとしているのか。私は確定村人に指定してもらうのが一番だと思っているよ。狼が指定したら、思惑にはまる可能性があるしな。」
冴子は、敦を睨んだ。
「だから私は真占い師よ!狼はあなたじゃないの、いつも真占い師のふりしてもっともらしい事を言って村人達を混乱させて!」と、フンと息を吐いた。「ま、いいわ。明日以降また結果が出て来るだろうし。拓也さんが吊れたもんね。」
久司は、腹が立って言った。
「なんでそんな言い方するんだよ!拓也は一生懸命村の事を考えてた!オレは一緒に居たから知ってる!確かに狂人か狼だったかもしれないけど、そんなこと村目線じゃ分からないじゃないか!なんで君はもう、拓也が偽だったと知ってるような言い方なんだ?それとも、真だと知ってたから吊れてラッキーってそんな言い方なのか?」
それには、光晴が言った。
「そうだよ!その発言を先に聞いてたら、オレは票を変えたりしなかった。吊り無しでいいと敦さんは言ったが、あの瞬間吊らないのはヤバイって咄嗟に思ってしまったんだ…オレのミスだ。冴子さんは狼目線の話し方をする!色なんか、誰にも見えてないのに拓也が吊れたからいいって、どういうことだよ!」
冴子が、どんな思惑でそう口にしたのか分からない。
だが、色を知っていたような言い方なのは、誰の目にも明らかだった。
徳光が、息をついた。
「…分かってる。オレが悪い。」皆が徳光を見ると、徳光は疲れ切った様子で続けた。「いつも迷うから、もう一回決めたらそれで行こうと思ってしまったんだ。だが、今の発言で分かった。冴子さんが偽だ。色が見えてるんだ…拓也が真だと分かっているということは、芽依ちゃんが狼なんだろう。喜美彦も狼だったら、明日8人だしマズい事になる。狂人が潜伏していたら…ヤバい。」
しかし、敦が言った。
「諦めるのはまだ早い。」と、芽依を見た。「芽依さんが、狼とは限らないだろう。真でも狂人だったとしても、私目線ではおかしくはない。何しろ、ここまで真智子さん、舞さん、正高、久子さんと吊って来て、今夜拓也を吊った。その中に、狂人と狼が多く混ざっていたのなら、明日はまだパワープレイにはならない。冴子さんの発言は、狼が吊られなくて良かったと安堵の感情からつい出ただけかもしれないだろう。狂人でも、狼目線ではそんな感想になる。希望を持とう。徳光、仕事だ。我々の占い先を君が指定してくれ。」
徳光は、困ったように顔を上げると、残った人達を見回した。
残っているのは、光晴、喜美彦、冴子、久司、聖子、芽依、敦、永宗、徳光の9人だ。
徳光は、ホワイトボードを見上げて、言った。
「…敦さんは聖子ちゃん、冴子さんは久司。永宗は…芽依ちゃんにするか。もう永宗のグレーって居ないんじゃないのか?とりあえず、役職だがそこしかないから芽依ちゃんにしよう。冴子さんの希望は聞けない。聖子さんの色は、敦さんに見てもらおう。」
冴子は、叫んだ。
「どうして?!久司さんなんて、どうせ白しか出ないのに!聖子さんを私が占うわよ、そこに潜伏している気がするの!敦さんが占ったら、囲うじゃないの!吊れなくなる!」
聖子が、険しい顔をする。
「私を狼って思ってるってこと?どうして私を吊りたいの?囲うって、私の色を知ってるってこと?」
冴子は、聖子に睨まれて、慌ててハッと我に返った顔をした。
「いえ…違うわ。もう私目線じゃあなたぐらいしか黒が出そうなところが無いし、色を確かめてみたかっただけよ。白だったら、吊った中に狼が居て、敦さんと…もしかしたら白く見えてるけど久司さんかもしれないでしょ?」
聖子は、冴子を睨むように見ながら、言った。
「二人の目線で私が黒く見えるのは分かってる。でも、私には永宗さんから白が出ているし、完全グレーじゃないわ。あなたは永宗さんと対立しているし、私がより黒く見えるのかもしれない。でも、私目線じゃ私に黒を打って吊らせようとしているように見えるわ。もしかしたらって信じてたのに…今の言葉で一気に信じられなくなった。」
冴子は、一瞬その言葉に怯むような顔をしたが、しかしすぐに聖子を睨んで、言った。
「…やっぱり。あなたは狼ね。だから私を陥れて敦さんの肩を持つのよ。私はあなたを占いたいわ。でも、それを徳光さんに許してもらえないんでしょうね。」
徳光は、頷いた。
「もういい。指示した通りにしてくれ。お互いにお互いを敵だと思っているなら、言い合いになっても仕方がないがオレはもう疲れたんだ。また明日、芽依ちゃんの護衛は、オレで頼む。」
芽依は、頷いたが困ったように冴子と聖子を見ている。
空気は、最悪だった。