占い師と狩人
微妙な空気になったところで、敦が口を開いた。
「…まあ、ならば私は別に、最後まで占わせてもらいたいし、冴子さんを残しても良いがね。」え、と皆が敦を見る。敦は続けた。「もちろん、最後には吊らせてもらうが、ここは狩人精査でもいい。村人は迷っているのだろう。ならば、冴子さんが生きている限り狼は私を噛まない。もう噛めないのだ、この選択をしたのだからね。私との信用勝負を選んだからこそ、昨夜は私を噛まなかった。勝てると思ったのだろう、だからこそ、狼仲間と私をどうやって陥れるか考えて作ってきた渾身の弁明をしたのだ。占い師の決め打ちは、狼の考えるシナリオ通りなのだろう。そして、仮に冴子さんが吊られても、その先を考えてあるはず。だったら、狩人吊りならば?まだ考えていないはずだ。今夜は狩人から詰めて時間を稼いで、その間に村人は私と冴子さんの二択を選べる情報をもっと集めたら良いのではないかね。心配しなくても私は噛まれない。噛めば冴子さん偽が確定してしまう。まあ、永宗には気の毒かもしれないな。私目線限りなく真だからね。先に対立している永宗は、真狩人が居なくなったら噛まれる可能性がある。」
永宗は、嫌そうに顔をしかめた。
「敦さんと同じ理由で噛まれなかったらいいのに。無理だろうな、狂人とか言われて噛まれるんだよな。狼が狂人噛むなんておかしな話なのにさ。」
冴子が、立ち上がって叫んだ。
「私は真よ!噛めるならとっくに噛んでるわ!だって喜美彦さんは白だもの!」
それには、喜美彦が言った。
「…オレ目線じゃ、永宗は偽だ。けど、狂人もあり得るんだよな。むしろそれしかない。敦さんと冴子さんがお互いに黒を打ち合ってるから、狼はこのどっちかだろう。オレからしたら冴子さんを信じたいけど、白に白を打った狼ってのもある。だからわからない。が、それでも永宗だけは偽だと知ってるんだ。だから、占い師からだと言うなら、オレは永宗に入れる。敦さんと冴子さんはわからないからだ。狩人からだったら…悩む事になる。わからないから、推測するしかないからだ。」
光晴が、ため息をついた。
「敦さんの言うことはもっともだ。一瞬疑ったが、狼には仲間が居るから、この盤面を作る時にどう言い訳しようか皆で考えてるだろう。狩人のことも、拓也が真に見えてるが、狂人かもしれない。永宗が真なら、氷雨は背徳者で狐より先に落ちてたのかも知れない。わからないんだ、とにかく今は。とはいえ、敦さんが言うように、恐らく敦さんは噛まれないだろう。同じ理由で、冴子さんもだ。となると、狩人から落とすのが、一番いいのかも知れない。占い師はまだ結果を落とすから情報は出るが、狩人はそれがない。とりあえず、狩人からにするのが無難かな。」
何やらややこしくなって来たが、狼の思惑通りに狩人吊りから入るようだ。
久司が、どう決定するのだろうと徳光を固唾を飲んで見ていると、徳光は言った。
「…まだ、占い師を決め打たないなら狩人からだが、基本的に次の日吊られなかった真狩人は襲撃されて居なくなるだろう。だが、仮に残ったら、その狩人は吊る。決め打たないということは、まだ冴子さんの真も追うということだ。冴子さんが真の時は、氷雨真が確定しているので、氷雨の白である芽依さんは白。つまり、冴子さんのグレー位置は久司、聖子さん、拓也の3人。拓也は役職なので、グレーではないが、占っていないのでわからないから数に入れる。敦さんが真の場合、氷雨真も一応あり得るがわからないので芽依さん、喜美彦、聖子さんだ。お互いがお互いのグレーに狼が居るかもと考えたら、聖子さんが完全グレーの位置になるな。」
え、と光晴が驚いた顔をした。
「待て、グレー吊りか?ヤバくないか、あと4縄だぞ。久子さんの結果はあてにならないから、もし聖子ちゃんが村人だったら吊られた真智子ちゃん、舞ちゃん、正高、久子さんの中に狼が一匹居たとしても間に合わなくなるぞ。今夜は必ず人外を吊らなきゃならない。この際狂人でもいいから、吊るしかないんだ。」
徳光は、頷く。
「分かってる。分かってるが、占い師も狩人も、こっちが絶対真だと思える決め手があるか?ないだろう。狼がたくさん残っているとしたら、この二人のグレーである喜美彦、久司、聖子ちゃん、芽依ちゃん、拓也の五人の中に居るんだ。狼なんだから囲ってるだろう。当たる確率は、この中の方が高いのは確かじゃないか?正高は白かったし、久子さんは恐らく狐だろう。舞ちゃんはワケがわからないし、真智子さんは黒かったが初日だからわからない。多くが囲われていると考えるのが順当なんだ。」
喜美彦が、言った。
「その中からだと、オレ目線じゃ永宗が偽だから、聖子ちゃんに白を打って囲ったと考えて聖子ちゃんに入れるかな。でも、拓也と芽依ちゃんは狩人だし、結局グレー詰めみたいなものなんだから、狩人から吊るのが良いんじゃないか?」
敦が、言った。
「とはいえ…私目線では、確かに拓也は白だが、狂人の可能性は残っているのだ。今も言っていたように、まだ氷雨真の可能性がある。芽依さんも白だとしたら、私から見て狩人の真贋は安易には決められない。話を聞くべきだ。」
それを聞いた冴子が、眉を寄せた。
「…待って、なんか出た当初から、敦さんはやたらと拓也さんが狂人の線を追うわよね。これ、もしかしたら拓也さんが真で、芽依ちゃんが狂人なんじゃないの?さっきも私が偽みたいな言い方してたし、狩人に白人外が出てて、狼目線で狐の久子さんが吊れても残ってるから、背徳者ではなく狂人だって分かって、繋がって庇ってるんじゃ。だって、昨日は私が真だって言ってたのよ?おかしいじゃない。今朝になって手の平を返してるのよ。だったら私は、芽依ちゃんに入れる。」
分かったのは永宗狂人ってことだけどね。
だが、敦が言った。
「君はおかしなことを言っているぞ?」え、と皆が何のことだろうと思っていると、敦は続けた。「芽依さんが狂人なら、仮に拓也でも、だったら君目線永宗は何なのだ。君は結果で対抗している永宗は偽だが、占って白なのだろう?呪殺もされていない。久子さんが狐なら、永宗が背徳者ならば今朝は一緒に追放されていたはずだ。なのに、今になって拓也が真で芽依さんが狂人?君こそ、今朝の結果で拓也が背徳者ではなかったと知った、狼なのではないのかね?狂人だから、庇っているように私には見える。やはり、この様子なら氷雨が背徳者で先に落ちていて、久子さんが狐、拓也が狂人で永宗が真なのでは。つまり、喜美彦は狼で、冴子さんとあと二人…は、わからないが、正高、真智子さんか舞さんで何人か落ちているのだと考えると妥当か。パワープレイが発生していないからな。」
冴子は、叫んだ。
「違うわ!私は真よ、それなら芽依ちゃんは真だわ!やっぱり拓也さんが狼なのかもしれない!」
敦は、フフンと笑った。
「今庇ったのではないのかね?疑われるなら狂人は排除しようと思ったのか?まあどちらでもいい。狼は狂人を一時的にでも庇わなければいけないところまで追い詰められているのだと今ので分かった。もう自噛みをしている暇もないだろう。それとも、喜美彦に賭けて真を取るために君が自噛みするか?村人は襲撃されたとして、君が真で置いて喜美彦は白として進行するかもしれないぞ?」
煽るなあ。
久司は思ったが、黙って聞いていた。
徳光が、言った。
「ストップ。」と、頭を抱えた。「もうわからない。が、今夜は狩人で。敦さん目線で追い詰められていると言うのなら、今夜は敦さんの白先から吊っても良いかと思う。どうせ、どちらが真でも吊られなかった方は噛まれるだろう。芽依ちゃんは冴子さん目線で白だし、拓也は敦さん目線白なんだ。それを証明するために、狼は噛む。自噛みだろうとなんだろうとな。」
拓也は、言った。
「待ってくれ、それはつまりオレ吊りってことか?真なのに?」
徳光は、頷いた。
「仕方ない。生き残っても今夜襲撃される。ちょっと早まるだけで、狩人は両方共に明日まで残らない。真でも、すまないが吊られてくれ。なぜなら、敦さん目線では氷雨真もあり得るから、芽依ちゃん白は追えるが、冴子さん目線じゃ拓也は狼の可能性もあるんだよ。ちょっとでも黒の可能性がある方から吊る。そこは、飲んでくれ。」
そうなるのか。
久司は、内心焦っていた。
拓也は、残ると思っていたのだ。
だが、徳光が言いきったということは、拓也に多くの票が入る。
疑われないためには、久司もそれに従うしかない。
案外に、徳光がゲームに慣れて上手く村を回すようになっている…。
久司は、徳光を侮っていた、と後悔していた。




