五日目の会議
朝食には、やはり皆焼き立てパンを食べていたが、しかし話すことはなかった。
というのも、皆避けているのか、キッチンに留まる人数がとても少なかったのだ。
冴子は、朝一発目に皆に疑われたせいか、姿を見なかった。
それでも、朝の会議の時間はすぐにやって来た。
何しろ、久司は永宗と話していたので、時間ギリギリにキッチンへと降りて行ったからだ。
必死にパンを口に詰め込んでペットボトルのお茶を手にリビングへと出て行ったが、そこに揃っているのは徳光、光晴、永宗、敦、拓也だけで、芽依と喜美彦、冴子はまだ来ていなかった。
そういえば、芽依と喜美彦はパンを手にしてすぐに出て行ったなと思っていたので、まだ部屋で食事をしているのかもしれない。
徳光は、言った。
「ああ久司。まだ三人来てないが、喜美彦と芽依ちゃんは冴子さんを呼びに行ったんだ。久司がキッチンに居るのは知ってたし、冴子さんだけ見てないからな。」
拓也は、言った。
「来るのか?多分、疑われてるからもう、議論に出るのなんか面倒だと思ってるのかもしれないぞ。」
光晴が、言った。
「それでも、自分が真だと主張するなら率先して来て弁明しなきゃならないはずだ。何しろ、そうしないと冴子さん目線では敦さんが偽なんだから、その白先に黒が居たら村は絶望だぞ?拗ねて籠ってる場合じゃない。真の行動じゃない。」
久司は、ソファに座りながら、一応言ってみた。
「…それで、やっぱり今日は占い師吊り?狩人からでもいいかなって思ってたんだけど。」
徳光は、久司を見た。
「それはどうして?」
久司は、答えた。
「だって、冴子さんが狼だったら吊ってしまったら明日は敦さんが襲撃されてしまうかもしれないと思って。それが怖いんだよね。」
徳光は、言った。
「だが、狩人を両方残してたら、昨日は他の所を守ってるんだから明日だけでも敦さんは守れる。もう一つ結果を見ることができるから、安心して大丈夫だ。」
拓也は、頷く。
「そうだ、芽依ちゃんに護衛を任せたりしなかったら、オレが守れる。だから問題ない。」
久司は、顔をしかめた。
「それだよ。だってさ、オレ達から見たら、多分冴子さんが偽なら拓也が真だろうなって思うけど、仮に拓也が狂人だったりしたら、芽依さんが真って事もあり得るわけだろ?今夜の指定護衛を間違えたら、どっちかが狂人だったら狼は狂人を捨ててでも噛んで来ると思うんだ。拓也を信じてないわけじゃないけど、もしかしたらっていう気持ちがあるんだ。」
徳光は、ため息をついた。
「オレもそれは考えた。」皆が徳光を見るのに、徳光は続けた。「今夜冴子さんを吊るなら、敦さん真進行になるだろう。ということは、一個でも敦さんの結果を残してもらいたいと考えるから、明後日襲撃されることを飲んで今夜、二人に守らせようと思ってるんだ。そうしたら、敦さんの事は絶対に噛めない。結果が一つ落ちる。」
拓也は、言った。
「でも、それだと徳光さんが襲撃されるんじゃ。芽依ちゃんにオレも敦さんを守ってる事にして、密かに徳光さんを守ろうか?」
徳光は、首を振った。
「それを信じたい気持ちはあるが、万が一って事もある。どうしても、敦さんだけは守らないと。もちろん、みんなが冴子さんを真だと思うなら敦さん吊りだが、冴子さんのこの様子だと真には見えないしな。まだ来ない。」
久司は、チラとリビングの扉を見た。
確かに、まだ冴子は来なかった。
が、そう思ったのも束の間、リビングの扉が勢いよく開いて、芽依と喜美彦に連れられた、冴子が入って来た。
その目は鬼気迫るものがあり、さすがの久司もドン引きした。
徳光も、呆気に取られていたが、慌てて持ち直して言った。
「ああ…冴子さん。じゃあ、朝の会議を始めようか。」
冴子は頷いて、ソファに座った。
徳光は、咳払いをしてから、言った。
「昨日は、辰巳が襲撃された。辰巳は白だったということだ。辰巳が自噛みするメリットはないからな。今生き残ってるのは10人で、吊り縄は後4本。今夜は、占い師の決め打ちにしようと思っている。それぞれ、偽だと思う占い師に入れて欲しい。見たところ、冴子さんと敦さん、冴子さんと永宗という構図なので、今夜はお互いに黒を打ち合っている冴子さんと敦さんで選びたいと思う。」
すると、冴子は言った。
「最初に聞きたいわ。村は、私を吊ると決めているわけではないわね?まだ私の話も聞こうと思っていると解釈していいかしら?」
徳光は、頷いた。
「まだ決めてない。もちろん、護衛成功が出ている敦さんに黒を打った君には難しい局面かもしれないが、まだ完全に決めているわけじゃない。」
冴子は、頷いた。
「なら、話すわ。」と、皆を睨むように見回した。「まず、私は嘘を言っていない。黒が見えたから黒と言ったの。そもそも私が狼だったら、昨日は疑われようと敦さんを噛んだわ。だって、その方が呪殺も追えるし、真占い師の強敵を一人処理できるもの。明日からまた敦さんに護衛が入るのに、絶好の機会よ。呪殺という言い訳ができるんだもの。なのに、私はわざわざ黒を打って、疑われるように持って行った狼だと言うの?おかしいじゃない、敦さんが吊れるなんて思わないもの。それなら噛んで呪殺が最良手のはずよ。まして、護衛成功が出たって前日聞いてるのに、どうしてこの選択肢を取るのよ。よく考えて、私は黒を見た真占い師だから、そう言うよりなかった。一昨日の護衛成功は、狐噛みなんじゃないかと思うわ。」
そうなんだよな、冴子さんが狼だと、あまりにもおかしなことをしていることになるんだ。
久司は、思って聞いていた。
徳光が、言った。
「狐噛みって…それはつまり、君は狐はまだ生きてると思うのか?」
冴子は、首を振った。
「今は居ないと思う。昨日、敦さんが私より吊り推したのは久子さんだったわ。だから、久子さんを噛んで狐だと確認してから、吊り誘導したと私は思ってる。光晴さんだって言ってたじゃない、久子さんが狐だったのかって。私もそう思うわ。一昨日の護衛成功は、絶対狐噛みだったと思う。たまたま狩人が、その時に敦さんを護衛していたから、そう見えてるだけなのよ!私はそう思う。」
冴子は、シッカリ考えて来ていた。
それがドンピシャなのだから、久司は内心穏やかではなかった。
光晴が、顔をしかめて徳光を見た。
「…困ったな、利に叶ってる。確かにそれはあり得たよな。狼が試しに噛むのもある。狼目線で、久子さんの結果が違っていて、偽だと知っていたが中身がわからないから、一応噛んで見て狐ではないか確かめたっての。何しろ偶数進行だったし、縄数に影響しないんだ。敦さんが偽だと言ってるわけじゃなく、たまたま護衛が入ってた時に狐噛みも発生していた、っていうこともある。」
徳光は、頷いた。
「確かに…おかしいことは言っていない。」
だが、久司は言った。
「…それ、冴子さんが狼で、本当に一昨日の夜噛んだのは久子さんで、たまたま狩人が両方共に敦さん守りとか言ったから、焦ってるんじゃ。敦さんで護衛成功したことになってて困るから、本当のことを言ってるようにも見えるよな。だって、初日のお告げは久子さんで、少なくとも狼ではないのを知ってるはずなのに、黒を見ている敦さんより、久子さんを吊る事に同意したわけだろ?敦さん目線じゃ、狐なのか狼なのかわからないし、生き残ってるから怪しいって吊り推しただけだった。それを利用しようとしてるように見える。」
冴子は、首を振った。
「私は真占い師なのよ!だから考えて出した結論よ!私が狼だったらおかしな噛みをしてると思って欲しいの!久子さんが本当に狐だったのかなんて、村目線じゃわからないじゃない!昨夜は絶対に敦さんを噛めたんだから、噛んで呪殺を主張する方が絶対に楽な道筋のはずよ!結局吊られたとしても、真占い師を消せるんだもの、狼に利があるわ!そもそもこうして残したら、護衛成功してると思ってる村人達にこうやって怪しまれるのが目に見えてるのに!私は偽です、って言ってるような噛みじゃないの!私は狼じゃない、狼に陥れられようとしてる真占い師なのよ!」
村人達が、困惑した顔を見合わせている。
…そうなんだよ、噛みがあからさま過ぎて確かに怪しいんだよな。
久司は、冴子がタダでは吊れないのだと顔を険しくしていた。




