五日目の朝
次の日の朝、久司が廊下へ出ると、残っている喜美彦、永宗、冴子、聖子、芽依、敦が出て来ているのを見た。
…やっぱり永宗は狂人だ。
久司は、生き残った永宗を見ながらそう思った。
冴子は相変わらず苦々しい顔で敦を見たが、何も言わなかった。
久司は、誰も何も言わないので、言った。
「…三階か。行こう。」
皆は黙ったまま頷き、7人は三階へと向かった。
三階では、拓也、光晴、徳光の3人がある部屋の前で扉を開こうとしている最中だった。
「…そこは誰の部屋だ?」
久司が声を掛ける。
拓也が、振り替えって答えた。
「辰巳。二階は全員居るのか?」
久司は、頷いた。
「ああ。全員無事。」
拓也は、ため息をついた。
「じゃあ、辰巳噛みだな。」
光晴が、扉を開いた。
「見てくるよ。」
そうして、光晴だけが中へ入って行く。
残った徳光が、言った。
「辰巳は白だったんだな。」
敦は、頷いた。
「そう、白だった。私が昨日占っているからね。」
久司は、言った。
「ってことは、呪殺じゃないよな?追放されてるのは一人だし。敦さんの白先を狙って来た感じ?結局グレーが狭まらないし。」
徳光は、首を振った。
「わからない。昨日の久子さんがおかしな感じだったし、人外なら狐かと思っていたんだが、仮に背徳者だったら辰巳が狐で狼の噛み合わせってのも充分あり得る。」
だが、冴子が言った。
「敦さんは真じゃないわ!敦さんは黒、人狼よ!」
だろうね。
久司が思って聞いていると、光晴が出て来た。
「やっぱり辰巳が追放されてた。」と、険悪な雰囲気の皆を見回した。「なんだ?占い結果か?」
久司は、頷いた。
「敦さんは辰巳白、冴子さんは敦さん黒。永宗は?」
永宗は答えた。
「オレは、久司白。」
それを聞いて、久司はふと、思った。
狂人の永宗に、狼位置が分かるのだろうか。
思えば永宗は、冴子の白先に黒を打ったり、正高に白を打ったりと分かりやすい動きをしてくれている。
村目線では限りなく白いはずの久司には、こうなって来ると黒を打ちたいところだと思うのに、きちんと白を打って来ている。
背徳者ならたまたまだと思う所だが、狂人だと知れると、永宗はかなり優秀な狂人だった。
徳光は、またため息をついた。
「…だろうな。久司はこれで2白もらって辰巳と同じくかなり白い。残っているのはオレと光晴を除いて喜美彦、聖子ちゃん。後は役職の中に最大3人外。少なくて2人外だ。」
つまり、占い師の中に2人か1人、狩人に1人ということだ。
光晴が言った。
「久子さんを吊った事で、昨日の様子からも人外だったんだろうと思うし、どこが狼で吊れてるのか吊れていないのかわからない。だが、絶対にどこかで1匹くらいは狼が吊れてると思うんだ。そうでないと、今10人だし、狼陣営だけで数が足りるから負け確だろ?こうして見ていると、誰も余裕そうな顔はしていないし、まだパワープレイじゃないはずだ。」
敦は、言った。
「その通りだ。私目線では冴子さんが黒なので、最悪狼4人残りなら聖子さんか芽依さんか、喜美彦にまだ狼が居る事になる。拓也は白なので、あって狂人なのだ。仮に真智子さん、正高、舞さん、久子さんの中に2狼だったとしたら、この3人の内1人しか狼は居ない事になる。今朝は辰巳しか犠牲は出なかったが、久子さんを狐だと皆思っているのかね?」
徳光は、首を傾げた。
「わからないが、もう処理されていると思うよりないだろうな。背徳者はどこかで落ちていたんだ。なので、全くわからない。仮に辰巳が背徳者だったとしても、狼が同じところを噛み合わせていたらわからないしな。」
そう、村目線では全くわからない。
冴子が、言った。
「敦さんは狼なのよ!みんな、信じて欲しい。昨日は狐かもと思ったわ。でも、占ったら黒が出たの。だから、今夜絶対敦さんを吊って欲しいの!でないと、私の白が噛まれてる状態なのに、他にどこが狼なのかわからないわ!確実なのは、敦さんなのよ!きっと、拓也さんで囲われているはずよ、だって人数が合わないもの!」
それには、久司は顔をしかめた。
「昨日は、どっちか分からなかったんだよね。だって、敦さんが狐っていう主張も通ると思ってたから。狐からしたら、狼をストレートに吊った方が勝ちに近付くと思うし。でも、黒だって言うなら違うかな。村の勝ちに貢献しても、狼には利がないしね。それに…昨日の護衛成功もあるし。」
冴子は、言った。
「そんなの、自分に護衛が入ってるから、自噛みしたのか襲撃ナシにしたんじゃないの?!狼には選択できるはずよ!」
すると意外にも、芽依が言った。
「…それは違うかな。」え、と皆が芽依を見る。芽依は続けた。「だって、敦さんを守ってるなんて、誰も知らなかったはずよ。徳光さんにも言ってないもの。占い師の中の誰かってことだと、敦さんだと思って守ったら護衛成功が出た。昨日は拓也さんに白を出してるから、敦さんが狂人なのかもって思って冴子ちゃんが真だと思ったけど、よく考えたら拓也さんが狂人でもあり得るものね。永宗さんは生き残ってるし、冴子さんは白だって言う。狐が居ないとしてそこが狂人だったらおかしいのよ、私目線。何人狂人が居るのって話。久司さんが言うように、今朝敦さんが呪殺されていたら納得できたけど…黒は違うかな。」
拓也が、言った。
「なんだよ、対抗と意見が合うなんて気持ち悪いな。もしかしたら、呪殺が出せないから、もう冴子さんを切って生き残ろうとしてるのか?だが、まあオレも敦さん黒は納得できない。昨日守ってるんだからな。オレ目線でも、冴子さんは人外だ。」
皆の視線が、冴子に突き刺さる。
冴子は、叫ぶように言った。
「だから!私は真占い師なの!みんな騙されてるわ!」
「ストップ。」徳光が、言った。「立ち話だと落ち着かない。いつも通り、8時にリビングだ。落ち着いて話し合おう。こうなると、今夜は占い師の決め打ちになるかな。」
狩人じゃなくて占い師か。
久司は、恐れていたことが起こるのではと、気になって仕方がなかった。
冴子は一人、逃げるように走って行ってしまい、久司はとぼとぼと後ろを歩いて部屋へと向かった。
敦が、そんな久司に小さく言った。
「…永宗と話して来る。」
久司は、え、と顔を上げた。
「え、オレも!オレも行きます。」
敦は、頷いた。
「なら来るといい。永宗が村騙りでない限り、狂人確定だ。そろそろ孤独な戦いから解放してやらねばな。」
久司は、頷く。
そして、わざと最後尾をノロノロと歩いて、皆が部屋に入るのを待って、永宗の部屋へと向かった。
いきなり扉を開いて中へと入ると、永宗は驚いた顔をした。
永宗は、部屋へ入ってすぐにベッドに飛び込んだらしく、うつ伏せに倒れていたのだが、二人が入って来るのを見て、慌てて飛び上がった。
「え、何?!」
久司は、言った。
「いきなりごめん、というか、ここ防音だからノックしても聴こえないし。」
敦も、言った。
「今まで孤独に戦わせてすまなかったな、永宗。背徳者の線があったから、昨夜までは声を掛けることはできなかったんだ。君は何もわからないながらよくやってくれた。」
永宗は、それを聞いて固まっていたが、呟くように言った。
「え…狼?敦さんと久司が、狼なのか?」
その答えが、永宗が狂人だと言っていると久司は思った。
久司は、頷いた。
「そう。拓也もだ。まだ狼は3人残ってる。協力しよう、勝てるはずだ。」
永宗は、それを聞いてポロポロと涙を流した。
驚いた敦と久司は顔を見合わせたが、久司は急いでベッド脇のティッシュを手にして永宗に渡した。
「落ち着け。ごめんって、不安にさせて。」
永宗は、それを受け取って盛大に鼻をかんだ。
そして、言った。
「オレ、間違ってたのかと思って。敦さんとはあんまり話す機会がなかったけど、冴子さんとは話す機会が多くてね、あの人ってめっちゃ考えてて、きっと真の一人だと思ったんだ。だから白先に黒を打ってみたのに、狼は何も言って来ないし。冴子さんが狼だったのかもって思ったけど、もう引っ込みつかないし。もうこうなったらないと思うけど敦さん狼で言う通りにするしかないって思って…真でも、オレは生き残れば何かの役に立つだろって思って。だから今朝もつらかった。ギリギリまで久司に黒打って偽を追わせて縄を消費するために吊られようとか、考えてたんだ。結局、勇気が出なくて白にしたけど。良かった…マジで。」
そうだったのか。
久司は、思った。
他の人達が誰と同席して誰と話して何を考えているのか、久司達には分かっていなかった。
永宗は、冴子と話す機会が多くて真だと確信し、狼にアピールするためにその白先に黒を打っていたのだ。
結果的に、それが間違っていなかった。
久司は、説明した。
「敦さんGJの時は、久子さんを噛んでたんだ。狐なのか確かめるためにね。そしたら噛めなかったから、狼目線じゃ久子さんが狐で確定していた。昨日吊って、その結果永宗が生き残ったから、やっと狂人だって分かった。オレ達目線じゃ、まだ背徳者の線があったからね。」
永宗は、言った。
「ってことは、もう一人の狼ってどこだったんだ?久子さんの結果は違ったんだろう。」
久司は、答えた。
「正高だったんだ。狐だとか言われて吊られたけど、正高は狼。だから、狼目線じゃ真智子さんに黒を打った久子さんは、早くから偽だったし、正高に白を打った永宗も同じくそうだった。後は、その中身だったんだ。それを確かめるのに時間がかかって。今になった。」
永宗は、涙と鼻水を拭いながら何度も頷いた。
「良かった。これで悩まなくて済むよね。だったら、どうしたらいい?今夜は冴子さん吊りだよね。」
敦が、言った。
「狼としては狩人吊りにしたかったが、村が占い師を吊りたいと言うのならそれでも仕方ないと思っている。その場合、君が真を追わせるために君を襲撃することになるかもしれない。護衛指定によってそれはわからないが、その場合は寝て待っていてくれ。必ず勝つ。勝ち筋はもう描いてあるんだ。とにかく、村に逆らわずに、私に合わせていたらいい。今朝冴子さんが疑われたことで、冴子さんと対抗していた君は白くなっている。大丈夫、おかしな事にはならないから。」
永宗は、やっと落ち着いて来て、頷いた。
「信じて待ってる。ホントに良かった…オレ、もう負けて死ぬしかないかなって落ち込んでたから。ホントに…ありがとう。」
こちらこそよく一人で頑張ってくれたよ。
久司は思ったが、また永宗が泣き出したので、落ち着くまでそこにいた。
敦は、先に部屋を出て行ったのだった。




