四日目朝の会議
皆は、焼き立てパンを黙々と食べた。
対抗している同士は、目を合わせる気持ちにも、まして話す気持ちにもなれないらしく、食べるだけ食べて、そこを離れて行く。
久司は表立って誰かと対抗していることはなかったので、ここへ来て迷っているふりをすることにして、終始皆に対しては普通に接することにしていた。
光晴があからさまに敦寄りなので、そこまで極端に敦の味方をしなくても良いと思っていたのだ。
むしろ、こんな時は迷っている村人のふりをする方が、中立位置に入れて良いと考えていた。
会議となったが、そんなわけで皆の雰囲気は最悪だった。
徳光が、言った。
「…じゃあ、会議を始めよう。今朝になっていろいろ分かった事がある。まず、今朝は犠牲者は出ず襲撃は失敗したようだ。12人で奇数進行から偶数進行に変わったが、縄は相変わらず残り5本。後一度の狩人GJで、縄が増える状況だ。狩人は拓也と芽依ちゃんで、昨夜は両方共が敦さんを守っていた。今朝の結果、冴子さんが永宗白、永宗が敦さん白、敦さんが冴子さん黒。霊能結果、久子さんから正高白。では、意見を聞こう。敦さんから、何かありますか?」
敦は、答えた。
「今夜の吊りはどこから入れるのか、村目線でまず決める必要がある。私からその事について意見を落としておくと、まず冴子さん黒が私目線では確定しているが、ここを吊ると明日は必ず私が襲撃されるだろうから、ワンチャンスに賭けて今夜は吊らずにおくことを勧める。その上で、狩人だがどちらかに必ず人外が居て、私目線では芽依さんが濃厚だ。何故なら氷雨か永宗に必ず人外が居て、自噛みでない以上ここは白人外だろうと思われるから。白人外の数を考えると、拓也が白と知っている私から見て芽依さんが狼で出ていると考えるのが自然だからだ。とはいえ、狩人を吊ると必ず残った方の狩人は、その夜襲撃されるだろう。後1GJで縄が増えることを考えても、ここは指定護衛を入れて様子を見るのが良いだろうと考える。なので、私は自分のグレー吊り、もしくは昨夜も襲撃されずに生き残った久子さんから吊りを入れることを提案する。」
また相変わらず理路整然と。
久司は、感心して聞いていた。
徳光は、頷いた。
「冴子さんは?」
冴子は、敦を睨みながら答えた。
「…私は明らかに偽物だと分かった永宗さんか敦さんから吊って欲しいと思ってるわ。狩人は、どちらが真なのかまだわからない。でも、敦さんが庇うんだから拓也さんが偽で、芽依ちゃんが真なんでしょう。私目線じゃ、永宗さんが白だったから背徳者か狂人、だから敦さんは狐か狼なのよ。村のために進めて行けるということは、どちらが勝っても生き残っていれば勝利できる狐なのかもって思ってるわ。今夜は私に敦さんを占わせてくれたら、呪殺が出たらみんなにも分かると思う。狼が敦さんを噛んだって言うなら、多分敦さんが狐かどうか調べたんじゃないかって思うの。そうなると、狐と背徳者が同じ役職に出るなんてないだろうから、永宗さんは狂人なのかと思うわ。久子さんの真贋はわからないけど、敦さんが吊り推してる事から背徳者ではないし、真なのかもって思う。」
光晴が、言った。
「だが、君目線じゃ拓也を敦さんが囲っているってことなんだろう?拓也が背徳者ってことか?」
冴子は、頷いた。
「そう考えるとそうね。だから私目線では、永宗さん狂人、敦さん狐、久子さん真で、拓也さんが背徳者よ。氷雨さんが私の相方で、襲撃された。だから狩人から吊る必要はないわ。狐さえ処理したら一緒に消えるもの。私は永宗さんと敦さんから吊って欲しいと思ってる。」
敦さんが狐に見えるのか。
久司は、良い傾向だと思った。
だったら狼が敦を今夜襲撃しなくても、おかしくはない。
敦目線で狼の冴子が、敦を狐と思っているから噛まれなかったと言い訳できるからだ。
徳光は、息をついた。
「…じゃあ、次は永宗。」
永宗は、答えた。
「オレ目線では冴子さんは偽だから…でも、敦さんのことも分からなくなってる。オレは真だけど、敦さんが狂人か背徳者だったらオレにすり寄ることも考えられるなって。でも、氷雨の白先の芽依ちゃんと敦さんの白先の拓也を比べたら、どう見ても拓也の方が真っぽい。何故なら冴子ちゃんが芽依ちゃんを庇ってるから。狼が氷雨を漂白噛みして、芽依ちゃんを囲っているとしたらしっくり来るしな。だから、敦さんを相方だと今は思ってる。」
永宗は、狂人か…?
久司は、その言い方で思った。
どうも、敦が偽の可能性も残しておいて、狼を守ろうと考えているように見えたのだ。
狂人目線でも、敦GJが出た事で、かなり敦が真に見えているだろう。
だとしたら冴子が狼なのだし、狂人からしたら何とかできないかと発言しているように、狼目線からは見えた。
しかし、背徳者で狐から意識を反らそうと考えているようにも見える。
何しろ、永宗は久子のことには何も言及しなかったのだ。
できたらこのまま占い師吊りに持って行きたい背徳者にも、見えなくはなかった。
何しろ狼目線では、久子狐が確定しているのだ。
徳光は、また息をついた。
「じゃあ、次、久子さん。」
久子は、口を開いた。
「私は、わからない。でも、昨日の正高さんは狐だと思っていたから、冴子さんの意見はどうなんだろうと思ったけど…でも、確かにね。そもそも正高さんが狐だったら、永宗さんは偽物なんだからそれと対抗している冴子さんは限りなく真だと思うの。そこに黒を出した敦さんは、私目線ではどんな形であれ人外なのかなと思うわ。真の私を吊り推しているしね。吊って色を見たいなと思ってる。ここまで噛まずに縄消費に使おうと思っていたんだって、今ので確信したし。だから占い師から吊ろうと言う意見には賛成よ。」
狐は、狼の方に付こうと考えたんだな。
久司は、思った。
だが残念だな、冴子さんは真占い師なんだよ。
久司が内心暗い笑みを浮かべていると、拓也が言った。
「昨日狼が噛んで来てる敦さんを吊ろうなんて、真占い師を消したい人外にしか見えない。これ、久子さんが狼とかあるのか?それとも…狐?」
久司は、言った。
「でも、霊能者だぞ?狐が霊能者に出るとかあるか?オレは…まだ迷ってて。冴子さん真もあるんじゃないかと思うし、真占い師のお告げ先がそんなにピンポイントに狐に当たるとかあるのかって疑問だ。自分に黒打ちされたら分かるけど、まだハッキリ決まってない。オレ達目線じゃ、まだわからないんだ。拓也からしたら、対抗の芽依さんを庇う冴子さんが黒く見えるとは思うけど。」
光晴が、驚いた顔をした。
「え、久司は迷ってるのか?」
久司は、わざと困ったような顔をした。
「うん。だって、敦さん真を盲信してたけど、わからないじゃないか。両方の狩人から護衛されてGJ出てるのは分かってるけど、狐とか狂人とか背徳者もあり得るわけだからね。もちろん、敦さんの白先はみんな白いし、オレだって白だけど、慎重になるよ。まだ占い師の決め打ちは早いと思う。だったら狩人か、早々に武が噛まれたのにまだ生き残ってる久子さんの方が吊りたい対象だよ。」
それには、辰巳も同意した。
「久司だけは白く見えるな。そうだよ、まだ敦さんが真とは限らないんだ。呪殺も出してないんだし。行動は真っ白だけど、狐ならあり得るもんな。だから明日まで待っても良いかと思ってる。冴子さんが占いたいというなら、一度敦さんを占わせてみたら良いんじゃないか?占い師の決め打ちはまだ早い。オレも狩人か久子さんから吊ることに同意だよ。」
光晴は、顔をしかめた。
「…確かに…早計だったかもな。占い師の決め打ちは、明日以降で良いかも知れない。とはいえ、後縄は5本だし、確実に人外を吊らなきゃならない。縄を増やしたいのは確かだが、二分の一で人外の狩人から吊るのも良いんじゃないかなと思うが。」
徳光は、そこまで聞いて言った。
「…そうだな、占い師はまだ早い。だから冴子さんの希望は飲めない。となると狩人か久子さんだが…久子さんが狐という線も、あるかもと思って来たんだ。」
光晴が、眉を上げた。
「それはなぜ?」
徳光は、答えた。
「正高が言ってたなって。思えば霊能者って、占われないんだ。だから、ワンチャン賭けて騙りに出てる可能性もある。狼は噛まないんじゃなくて、噛めないんじゃないかなとか。」
光晴は、うーんと唸った。
「…言われてみたら確かに…でも、だったら狼は、何かの結果を見て久子さんが噛めないって初日から分かってたってことか?」
徳光は、渋い顔をした。
「まあ、わからないけど。とにかく、久子さんが生き残ってるのは怪しい。武が初日に噛まれてるのに、ここまで護衛がないのを公言してるのに噛まれてないんだ。もう、吊っておかないと最後に迷うことになる。正高を狐推ししてるのも、敦さんを狐推しする冴子ちゃんに肩入れするのも、なんか自分が狐だからじゃないかって見えて来るもんな。もう、村に狐は居ないと思わせたいって思ってるのかなって。」
…案外鋭い。
久司は、徳光にしてはかなり鋭いところを突いて来るなと思って聞いていた。
徳光を残しているのは、とりあえず他に噛むところがあるというのもだが、こちらに具合の良いことを話して進めてくれるからだ。
しかしこれ以上突っ込んで来るようなら、そのうちに噛まなければならなくなるな、と久司は思った。
しかし今は、久子狐を追って吊ってくれそうなので、久司は残しておいて良かったと思っていた。
久子は、顔を赤くしている。
どう反論するのか、見ものだなと久司は思って見ていた。