狼の夜と朝
「今残っているのは、喜美彦、久司、永宗、冴子さん、聖子さん、芽依さん、私、久子さん、拓也、光晴、徳光、辰巳の12人だ。」敦が、夜時間になり狼同士で集まった、リビングで暗い顔をしている拓也と久司に言った。「今夜、もし永宗が狐ならば呪殺される。背徳者が生き残っていたら道連れになるだろう。その場合、冴子さん真が確定するので、私は氷雨偽で冴子さんと意見を合わせて行くよりない。ま、噛める時に噛むがね。そして、私目線での狼位置が狭まることになり、冴子さんと私、両目線での狼位置は聖子さん、芽依さんぐらいだ。今夜は久子さんを襲撃しようと考えているので、もしここが狂人だったら久子さん狼は追えなくなるので、無理やり氷雨自噛みの線を追って、真智子さんか正高のどちらかで狼は1落ちているとするしかなくなる。」
久司は、え、と言った。
「久子さんを噛むんですか?残しておいて吊り位置にしたら良いんじゃ。」
敦は、首を振った。
「これは狐探しの噛みなのだ。私は噛めないことに賭けている。今話したのは最悪のケース。永宗は恐らく、狐ではない。なぜなら占われることに全く抵抗がなかったからだ。私の思惑が嵌まれば、永宗には白が出て、久子さんは生き残る。護衛成功したように村からは見える。久子さんは今夜、正高に入れていたので結果は黒と言うだろう。その方が村に受け入れられやすいと考えるだろうからだ。それとも、狐が消えたと見せ掛けようと、白を打つかも知れないが、それはもうどうでもいい。結局、まだ生き残っている違和感の方が問題なのだ。狼目線でも、狐は厄介だ。ここで、狐位置をハッキリさせておく必要があるのだよ。」
つまり、久子が狐だとは思うが、永宗狐の線も追って冴子に占わせ、結果で知ろうというのだ。
拓也が、言った。
「…オレ、明日狩人に出る。正高が吊られたけど、それでいいか?」
敦は、頷いた。
「それでいい。もし狐噛みで犠牲が出なかった場合、私で護衛成功が出ていると言え。芽依さんも、私を護衛していればいいが。そうさせるつもりで、わざと占い師が噛まれると言ったのだがね。」
全部考えて発言していたのだ。
久司は、感心して聞いていた。
拓也は、頷いた。
「分かった。護衛日記はつけてる。じゃあ、明日は最悪永宗が呪殺されて背徳者も久子さんも居なくなって冴子さん真確定、上手く行ったら…冴子さんに、黒を打つのか?」
敦は、頷いた。
「そのつもりだ。私目線ではまだ、氷雨真もあるにはあるが、冴子さんと対抗している永宗は限りなく真に近くなる。あとは村次第だ。私を信じて冴子さんを吊るか、狩人COしている二人のうち、私から白が出ている君を残して芽依さんを吊るか、それとも久子さんを吊るか。久子さんが黒を出してくれていたら、久子さん目線で縄に余裕があることになるので、吊り誘導しやすいのだがね。とりあえず、生き残っていたら君達は久子さんにヘイトを集める発言をしてくれ。光晴が良い具合にこちらの味方になってくれるので、やりやすいよ。久司が初日にやっとことが生きてるな。これからも上手くやってくれ。」
久司は、褒められて少し顔を赤くした。
「頑張るよ。」
三人は頷き合って、今夜は拓也が腕輪から、久子の番号を入力して、夜時間を終えた。
襲撃が通らないで欲しいと思ったのは、初めてだった。
結局、久司はあまり眠れなかった。
朝になって、7時になるのを待ちかねて外へと出ると、隣りの喜美彦と目が合った。
昨日投票しているのでお互いに微妙な空気だったが、廊下の向こうへと目をやると、生き残った人達の姿が目に入る。
ここに居るのは、二人の他に永宗、冴子、聖子、芽依、敦だった。
…永宗は無事。
久司は、思った。
つまり、永宗は狐ではなかったのだ。
しかし、背徳者の可能性は捨てきれない。
久子が狐で、永宗が背徳者ならば、とりあえずおかしくはなかった。
「…三階か。」久司は、言った。「行こう。」
喜美彦は、黙って頷く。
7人は、三階へと上がって行った。
三階では、生き残っている拓也、光晴、徳光、辰巳、そして久子が廊下で立って話しているところだった。
…やっぱり久子が狐だ…!
久司は、それを見て思った。
昨日、芽依が久子を守っていたとは思えないからだ。
拓也が、言った。
「…そっちも全員か?」と、徳光を見た。「ほら!オレが言った通り、敦さんで護衛成功が出たんだよ!敦さんは生きてる!オレが守った!」
え、と芽依が前に出た。
「待って、私が守ったのよ!敦さんを護衛していたのは私よ!」
拓也は、芽依を睨んだ。
「襲撃先を知ってるってことは、やっぱり君は狼なんだな?氷雨は偽だったんだ、自噛みなのか狂人なのか背徳者なのか知らないけど、漂白噛みがこれで確定した!オレはこれを見越して、一昨日徳光を守ってたんだもんな。絶対敦さんを狙って来ると思ったんだ!」
徳光が、まあまあと場を収めようと、言った。
「待て、分かった。つまり両方共が敦さん守りで、今朝は犠牲者が出なかった。つまり敦さん真確定だな。拓也は敦さんの白先だぞ。芽依ちゃんはだったら狼か?」
芽依は、ブンブンと首を振った。
「違うわ!きっと狂人なのよ!狼と狂人が繋がってるんじゃないの?!だから襲撃先を知ってたんだわ!だから護衛成功が出ていたから、敦さん守りだって言ったのよ!」
光晴が、言った。
「まだ敦さんが上がって来てない時から言ってたぞ?なのに騙ったっていうのか?おかしくないか。」
徳光は、手を振った。
「ああ、それは後で。とにかく結果を聞く。冴子ちゃんは?」
冴子は、苦々しい顔で言った。
「…白。永宗さんは白よ。私目線じゃ、狂人か背徳者だわ。」
永宗は、言った。
「オレは敦さん白。だから、敦さんが相方で、氷雨は偽だった。中身はわからないけど。」
徳光は、頷く。
「敦さんは?」
敦は、答えた。
「私は、冴子さん黒。冴子さんは狼だ。」
それを聞いて、全員が冴子に目を向ける。
冴子は、目を大きく見開いて叫んだ。
「そんな!敦さんが偽なの?!だったら氷雨さんが真だったんだわ!だから噛まれたのよ、と言うことは拓也さんは狼なのよ!だから先に護衛先を言えたんだわ!狼は、噛まなかったんじゃないの?!」
皆が、混乱しているのが分かる。
徳光は、ため息をついて久子を見た。
「それで。久子さんは?正高の結果はどうだった。」
久子は、答えた。
「…正高さんは、白。だから狐だったんじゃないの?背徳者は、どこかで落ちてるんだわ。舞ちゃんとか。」
拓也が、顔をしかめた。
「え、全然庇う様子もなかったのに?庇ってたのは、久子さんの方なんじゃないのか。」
久子は、首を振った。
「わからないわよ!私は見た色を言ってるだけ。村人だったのかも知れない。だったら、後5縄なんでしょ?もうダメってことになるわ。」
徳光が、渋い顔をする。
しかし、敦が言った。
「…まだわからない。私はあれだけ怪しい位置を吊って来たのに、全部が村人だったとは思っていない。狂人か、背徳者は既に落ちていることに賭けている。久子さんが真結果を言っているとして、真智子さんは落ちていることになるからな。今朝は情報が多かったし、今夜どこから吊るのかだな。私を生き残らせたいなら、冴子さんは吊らない方が良いと思うが。冴子さんは私を偽だと主張しているし、ということは私を噛むわけにはいかないが、吊られたら噛み放題だからね。」
冴子は、言った。
「私は噛めないわよ!真なんだもの!」
徳光は、うんざりしたようにまた手を振った。
「もう良い、とにかく8時にリビングで。話し合おう。今はこれで解散だ。全部後から話そう。」
徳光がそう言って皆を黙らせたので、話はそこで終わった。
しかし久司は、これで昨日正高を吊られた借りは返したと思っていた。
狼が想定していた、一番いい状況に持って行けたからだ。
とはいえ、こうして狼が久司以外露出してしまった今、遅かれ早かれ久司の正念場となるのは目に見えていた。




