三日目の投票
とんでもなく良い匂いのする鍋焼きうどんを拓也と共に作って食べ、その匂いに釣られた皆に鍋焼きうどん祭りをさせることになってしまった久司は、夕方の会議に挑んでいた。
キッチンに入って行った時、拓也が言っていた通り多くの人達が居て、それは外に居た正高、徳光、拓也、久司、光晴、そして後から来た敦以外の全員だった。
こうして見ると、外に居たのは狼ばかりで確定白と話していたことになる。
残りは村人と狐ということになるが、その狐が永宗なのか久子なのか、狼目線でもハッキリとはわかっていなかった。
狐が狼不利な発言をしている可能性もあったが、そもそも狐から狼位置は透けていないだろう。
対抗している永宗と冴子も共に居たことから、この二人が上手く議論して、狼有利に事が進んでいると思いたかった。
とはいえ、狼も少し、厳しくはなっている。
今は全員生き残っているが、狩人COした時点で、残りの縄数が多ければ拓也はあきらめねばならず、敦も生き残っているのがおかしくなって来る可能性があった。
そこの対策を、敦はどうしようと思っているのか久司は気になった。
もし、拓也と敦が居なくなるとしたら、どうあっても正高には生き残ってもらわねばならない。
狼の運命を、久司一人に背負えと言うのは酷だと自分で思っていたのだ。
徳光は、言った。
「いろいろ意見はあったが、とりあえず今夜は朝に決めた通り喜美彦、正高、聖子ちゃんで。」と、黙り込む皆を見回した。「氷雨の真贋はわからないが、その白先に狩人が出ていて、もう一人に違う占い師から白が出ている現状、オレは今夜だけは氷雨を真と置いて進めるしかないと思っている。その場合、敦さんも偽のような扱いにはなるが、情報が限られているから今夜だけはそれで行こう。明日になれば、占い師同士の相互占いが完了して対抗位置がハッキリするはずだ。その…オレは正高が白いとは思っている。だが、敦さん目線でもグレーの位置だし、狼が氷雨を真として永宗の白先の聖子ちゃんを狐かもと思って氷雨を噛んだと考えると、聖子ちゃんは呪殺されていなければおかしいが、それがなかった。となると、反対にもしかしたら聖子さんが狼、正高が狐に見えていて、聖子ちゃんに黒を打たれるのを恐れて噛んだとしても、おかしくないかと思っているんだ。つまり、だから永宗偽を狼は知って…言ってる意味がわかるか?」
ごちゃごちゃしているが、言いたいことは分かった。
久司が、言った。
「つまり、狼は聖子さんで、初日に永宗偽を知った。ということは、永宗は背徳者か狂人か狐で、もし囲われているなら正高だと狼は思った。それより、聖子さんに氷雨が黒を打ってくる可能性があって、それを避けたいからこそ氷雨を噛んだ、って徳光さんは思うってことか?聖子さんで呪殺が出ないのは知ってたけど、黒打ちされたらって。」
徳光は、頷く。
「そう。だから、オレは喜美彦よりも聖子さんか正高かって思ってて。正高は白いが、狐だったら村人のふりをして白くなって潜伏もあり得るだろう。」
敦は、言った。
「…別にそれでも良いが、久子さんが真だった場合でも、狐を吊っても白しか出ないがな。背徳者が生き残っていて、それが永宗なら道連れになるから分かるという寸法か?」
徳光は、頷く。
「むしろ、その方が村にはわかりやすいかと。久子さんが偽だったら、どちらにしろ黒を吊っても色は見えないが、狐だけは吊れば二人死ぬから、わかりやすい。」
正高が、言った。
「…ってことは、徳光からしたらオレを吊りたいってことだな?それで永宗が道連れになったらオレは狐だし、そうでなかったら永宗は生きる。それに、永宗が狐だったら、冴子ちゃんが真なら呪殺するし、可視できる情報が多くなる。」
徳光は、ため息をついたが、頷いた。
「その通りだ。申し訳ないが、もし村人だったらすまない。情報が多く欲しいんだよ。」
村人でも、今夜はそうだと証明するために吊られてくれと言うのだ。
そう言われると、久司は何も言えなかった。
真っ向から怪しいと言われたら反論もできるが、こんな言われ方をすると、むきになって庇う方が怪しく見えた。
今、グレーに残る事が確定している久司には、そんな冒険はできなかったのだ。
冴子は、言った。
「良いじゃない、そうしましょう。永宗さんが狐なら、私が呪殺できるもの。そうしましょうよ。」
永宗は、顔をしかめて言った。
「…オレを噛むんじゃないかって怖いよ。だって狼からは、オレ真が分かってるんだもんな。格好の的じゃないか。」
しかし、敦は言った。
「いや、狼にはそんな余裕はないはずだ。私は、今夜も狼は必ず占い師を噛んで来ると思う。今度は、確実に真占い師を狙ってな。氷雨の真贋は今もわからないが、狼にはもう真占い師が透けているはず。仮に永宗が本当に真なら噛むかもしれないが、もし冴子さんが偽なら、それは死活問題だ。何しろ対抗しているのだからね。それとも呪殺として処理させようと噛むのか?私にはわからないことだが。」
久司は、驚いて言った。
「じゃあ、敦さんは自分が噛まれるって?」
敦は、苦笑した。
「どうだろうな。あくまでも私が狼ならと思うだけ。あとは狩人の手腕次第だろう。」
どこを噛むつもりなんだろう。
久司は、それを聞いて思った。
まだ自噛みなんて言わないでくれよ、と、正高が吊られるかもしれない今、久司は心底思っていたのだった。
モニターが付いて、投票の案内音声が流れて来ているのだが、喜美彦と聖子が、ホッとしたような余裕の表情になっている。
恐らく、もう徳光が正高を吊りたいと言って正高がそれを飲んでいることで、皆の投票が正高に入るものだと思っているのだろう。
だが、光晴が言った。
「…正高が、村人だった時久子さんが真でなかったらこの村は終わりだな。」皆が、ぎょっとした顔をする。光晴は続けた。「オレは噛まれる事はない。だから狼を道連れにはできない。氷雨が偽だったら、一人は人外が落ちている事になるが、白人外合わせてまだ、6人外が生きていたら、今13人、明日は普通に考えて11人になるだろう。その上もし狐呪殺が起こったら、背徳者合わせて持って行かれる事になるからあと2人、つまり残りは9人になって、吊り縄は4本、狼と狂人が残っていたらパワープレイで終わりだ。仮に正高が狐ではなかった場合の話だけどな。もし正高が狐だったとして永宗が背徳者で、明日永宗が持って行かれたとしても、10人で結局狼4人と狂人残りだったらランダムパワープレイだ。めっちゃ恐ろしい事をしようとしてるってオレは思う。少なくとも正高は盤面だけで吊られるわけで、個人でみたら喜美彦や聖子さんの方がよっぽど怪しいもんな。」
《投票5分前です。》
モニターの声が容赦なく時を告げた。
拓也が、言った。
「ほんとにな。そこのところの計算が、出来てないような気がして怖いんだよ。狐だったらってオレも思うけど、だったら敦さんに占わせたら良いんじゃないかって思うけど。まあ、オレは元々、正高に入れるつもりはなかったけど。黒を打たれてるんだから、喜美彦が順当な吊り位置だと思ってるから。いくらパン屋でも、ここまで襲撃されずに生き残ってるんだから、間違っていて狼有利に事が運ぶからなのだとしたらって、考えてしまうしな。」
久司が言う。
「そもそも、氷雨が真で永宗偽だと気付いて氷雨を噛むってことは、残りの占い師の真贋が狼目線でついてたことになるだろ?」
《投票1分前です。》
そこで、声が割り込む。久司は急いで続けた。
「ってことは、冴子さんと敦さんのどちらかが狼だからだろ。敦さんが狼なんて想像もつかない。だとしたら冴子さんが狼なんだから、喜美彦が誰より黒く見えると思うけどな。あくまでも、氷雨真ならだけどね。」
皆が顔を見合わせている。
そうなのだ、そう見えてもおかしくはないのに、正高を吊ろうと言っているのだ。
《投票してください。》
声が告げる。
全員が、戸惑いながら腕輪に向き合った。
1 喜美彦→7
2 久司→1
3 永宗→1
4 冴子→7
7 正高→1
8 聖子→7
9 芽依→7
10敦→1
13久子→7
14拓也→1
15光晴→1
16徳光→7
18辰巳→7
…割れた!
久司は、必死に数を数えた。
ギリギリ間に合ったか、ギリギリダメだったかのどちらかだ。
しかし、声は無情に言った。
《No.7は、追放されます。》
ダメだったか…!!
久司は、険しい顔をした。
が、当の正高は、特に気にする感じでもなく、言った。
「あー、まあ人外票があるからなあ。」と、徳光を見た。「徳光、お前は間違ってるが、それでも票洗いな。そしたら明日からの進行は間違えねぇよ。真っ二つだろ?人外とお前がオレに入れてるってわけだ。じゃ、ま、寝て待ってるわ。」
正高は、自分からソファにもたれて、目を閉じた。
それと同時に、スッと力が抜けて、正高の意識が失くなったのをそれで悟った。
《No.7は追放されました。夜時間に備えてください。》
声が告げる。
光晴は、立ち上がった。
「…勝てるなら良いが、これで負けたらマジでキレるぞ、徳光。もう寝る。」
光晴は、そのままさっさとリビングを出て行ってしまった。
久司も正高を救えなかったことで脱力していたが、敦が言った。
「…まあ、間違っていたかどうかは今の時点ではわからないんだ。とにかく、役職行動だ。私は冴子さん、冴子さんは永宗、永宗は私で占おう。護衛先は?」
徳光は、自分で吊っておきながら正高が吊られたことにショックを受けたように正高を見つめていたが、ハッとして言った。
「ああ…オレか、占い師の中の誰か。芽依ちゃんと、もし真狩人が居るならその狩人にも言っておく。護衛成功を出してくれ、頼む。」
間違ったと思っているのだろうか。
久司は、徳光の様子にそう思った。
だが、村は間違ってはいない。
今の吊りで、村勝ちに一歩進んだのだ。
そんなことは、そこに居る狼以外には、誰にもわかっていなかった。