夜と三日目の朝
リビングで、正高が言った。
「敦が間に合ってこれで拓也と久司を囲えるな。後はオレ。明日の指定はどうなるかわからないが、敦は全員囲う方向で考えているようだ。」
敦は、頷く。
「真占い師は呪殺を出して真証明したいと必死だろう。だからこそ、先に指定させたのだ。絶対に久司を占おうとはしないだろうと思ったからだ。初日から頑張って発言を稼いで来た効果が出ているではないか。後は、明後日からだ。今夜、恐らく聖子さんで呪殺が出るような気がするのだ。舞さんが狐で久子さんが背徳者の場合も考えたが、もしそうなら、あんなにあっさり諦めて投票したりしない。そう考えると久子さんは狂人。正高に白を打って、尚且つ占い師の相互占いを推した永宗は背徳者、白先の聖子さんが初日に囲われた狐と考えるのがしっくり来る。氷雨は聖子さん呪殺で真を勝ち取る。そう考えると、これ以上白を増やさないためにも今夜氷雨を噛むのが良いのではないかと思うのだがね。」
正高は、言った。
「氷雨の白は芽依さんと辰巳か。面倒だなーこの二人が確白になると。」
敦は、頷いた。
「明日は、背徳者は道連れになるので永宗も消える。永宗を噛み合わせても聖子さんも消えるし、聖子さんを噛み合わせても永宗も消えて同じことになるから、聖子さん一本指定している氷雨が真確するのは避けられない。レアケースとして舞さんが背徳者で、久子さんが狐であった場合は、永宗は狂人になるので生き残るだろうから、明日は氷雨だけが追放されて見つかることになるのだが…久子さんは霊能者に迷いなく出た。狐ならローラーされるかもしれないのに占い師の方に出たいだろう。護衛が入らないことに落ち込んでいるようだった。襲撃が怖いということだ。なので、それはないと思う。そうだったとしても、久子さんなら何なりと言って吊れるだろう。明日の結果を待つしかないので、こちらは明日になったら噛めないだろう氷雨を、これ以上占い結果を残さない内に噛んでおく必要があるのだ。」
どちらにしても、氷雨の呪殺が起こったら狩人の護衛が入って絶対にあと一つ結果を落とす。
まだ噛める内に噛むしかないのだ。
拓也が、言った。
「…ってことは、明日はいきなり3人追放されて見つかるよな。狼目線で、どうして分かったとならないか?」
正高は、苦笑した。
「まあ、盤面整理を敦頼みの村なんだ。徳光にはたどり着けないだろう。そこは敦がなんとでも言う。」と、久司を見た。「それより久司、お前敦が村利のあること言う度に顔つき変わるぞ。敦は真を取るためにわざと言ってるの。だからいちいち考えるのはやめろ。明日は狩人の護衛が入らなければ、確実に氷雨を落とせる。狩人からは、どう見ても敦が真だから、占い師を守るのなら敦一択だろうしな。狼は有利だ。明日11人、吊り縄は5。村目線で狐と背徳者が消えたことになるから、久子さんの結果を信じてるし人外は残り最大で4人だと思ってるだろう。明日の吊りを逃れたら、何とかなりそうだぞ。」
敦は、苦笑した。
「そう上手く行けば良いがな。それだと面白くないし…何かイレギュラーなことが起これば面白いと思っているよ。」
拓也は、息をついた。
「オレはもうこのまま勝ちたい。毎回疲れるし。」
正高は、ハッハと笑った。
「狩人騙りたいよなあ。せっかく護衛日記もつけてるんだから。どこが狩人だろうな。もう、芽依さんしか残ってないけど。喜美彦も辰巳も素村COしてるからなあ。」
そうか、芽依さんか!
久司は、いろいろ見えて来ている狼目線で、何か急に村人達がかわいそうに思えて来た。
あまりにも盤面が詰まって来ている…真占い師も一人消える。
狼の敦を盲信している。
冴子は、敦相手に勝たねばならないのだ。
そんな余裕を感じさせる狼だったが、次の日になるまで何が起こるのかは、誰にも分からなかった。
その夜、襲撃先の入力は、正高がやったのだった。
朝、毎朝の儀式のように全員が廊下へ出て、そして皆の無事を確認した。
…襲撃は通った。
久司は、氷雨が廊下に出て来ていないのを見て、そう確信した。
が、昨日氷雨に占われているはずの、聖子はそこに居た。
そして、永宗も不安そうな顔でそこに立っていたのだ。
「…まさか、氷雨…?え、どうして?」
久司は、氷雨が追放されていたことではなく、聖子と永宗が生きてそこに居る事実に混乱していたのだが、三階から降りて来た徳光が、その肩に手を置いて、言った。
「落ち着け。狼は狩人の護衛が入ってなさそうな所を噛んだんだろう。」
敦と正高が、氷雨の部屋へ入って行って、確認しているようだ。
三階から降りて来ている面々は、全員が無事なようで、追放されたのはどうやら氷雨だけのようだった。
呪殺は、起こらなかった。
久司は、やっと頭の整理が追い付いて、思った。
そう、つまり聖子は、狐ではないのだ。
となると、狐の位置がわからない。
永宗は、昨日占い師相互占いを推していたので狐ではない。
だが偽だ。
久子は、霊能者を乗っ取った偽の白人外だが、その正体は分からなかった。
…まさか、久子が狐…?
しかし、そんな大博打を打つだろうか。
霊能者は常にローラーされるのがセオリーで、危険なので狐本体は普通、出ないと考える。
背徳者だとしても、それだと狐をサポートするには弱いCOだし、無駄になる可能性があるのであり得ないと思う。
久司の頭の中で、狐位置のことで混乱している中で、敦と正高が、氷雨の部屋から出て来て、言った。
「…襲撃は氷雨だった。占い師を噛んで来るとは思わなかった。氷雨が真だったのか背徳者だったのか、狂人だったのかは誰にもわからない。もしかしたら、狼には分かったのかも知れないがね。」
徳光は、言った。
「まずは占い師結果を聞こう。敦は?」
敦は、答えた。
「もう分かっているだろうが、久司は白。呪殺されていないので狐でもなかったな。」
冴子は、後ろから言った。
「…辰巳さんは白よ。」
永宗が、じっと黙っていたのだが、思いきったように言った。
「…喜美彦は、黒だった。人狼だよ。」
皆が、息を飲んで喜美彦を見る。
喜美彦は、眉を寄せた。
「お前が偽か。そうか、やっと分かって来たぞ。」
徳光が、言い合いになりそうなのを手を振って制止した。
「それは後で。久子ちゃん、霊能結果は?」
久子は、答えた。
「…白。舞ちゃんは、人狼ではなかったわ。」
その結果は正しい。
久司は、思って睨むように久子を見ていた。
正高が、言った。
「…久子ちゃんには護衛が入ってなかったのに、人狼はわざわざ護衛成功のリスクを冒して占い師を噛んで来た。これは…もう一回精査した方が良いかも知れないな。」
徳光は、頷く。
「考えたくなかったが、佐知ちゃんが初日に襲撃されているからな…もしかしたら、真智子ちゃんが白だった可能性まで見えて来たぞ。ヤバいんじゃないのか。縄は足りるのか?」
敦を見ると、敦は答えた。
「昨日15人だった人数も、今朝は13人になった。吊り縄はあと6本。もし、人外が一人も落ちていないとなれば、7人外全てを今日から間違えずに吊りきらねばならないが、縄が足りない。その上、背徳者は狐を吊れば道連れになるので、それをどうするかだな。今奇数進行なのでそれにより偶数進行になって、縄が一本減るのだ。だが、あくまでも、一人も犠牲になっていなかったらの話で、どこかで狂人、もしくは背徳者が消えていたらまだ可能性はあるだろう。狩人は露出していないのだから、護衛成功で縄が減るリスクもなくなる。狼だって、狐を残していては勝てないのだから、考えているはずだ。村に、どこが狐なのか分かるような噛みをしているはず。今朝、氷雨が襲撃されたのに、何か意味があるのかと私は考えている。」
徳光は、険しい顔で頷いた。
「久子ちゃん襲撃がなかった時点で、悠長にしていられなくなった。とにかくまだ何とかなるのだと信じて、しっかり話し合おう。氷雨が襲撃されたのだって…もしかしたら占われたくない狼が、結果を出させまいとやったのかもしれないし。」
聖子が、え、と顔を上げる。
そう見えてもおかしくはないが、しかし冤罪なのは狼目線で分かっていた。
だが、そんなことはどうでも良かった。
とにかく今は、狐なのだ。
宛が外れた狼は、狐位置を探すための噛みをしなければならなくなりそうだった。