二日目の投票
結局、久司は何も食べなかった。
全く食欲が湧かなかったのだ。
女子達には睨まれているような気もしたが、しかし全員ではなかった。
恐らく、拓也の言葉が利いているのだろうと思われた。
皆が集まる中で、徳光が言った。
「…今夜は、舞ちゃんと久司のランダム投票だ。投票先で、明日からの吊り先もまた決まるから、心して投票してくれ。それから…今夜は、狩人はオレを護衛してくれ。オレを昨日守っていたら、占い師の誰か。霊能者は守らなくていい。」
つまり、噛み放題か。
久司は、驚いた。
久子が、言った。
「そんなのおかしい!私は唯一残った真霊能者なのに!」
徳光は、答えた。
「そもそも昨日守っていて今夜は守れない可能性もあるしな。久子さんの反応を見てると、真智子さん黒も怪しく見えて来たんだよ。君が真霊能者なら明日噛まれるだろうし、それで真証明できるだろう。人狼ゲームはチームプレーなんだ。協力して欲しい。」
…ここで久子を襲撃するのか、今夜の襲撃は考えないといけないってことだな。
久司は、それを聴きながら思った。
黙り込む久子に、構わず徳光は続けた。
「…で、占い指定なんだが、今夜は占っていないところを順に選んで欲しいんだ。それぞれ呪殺を目指して、占いたいところを決めてくれないか。敦さんから、誰を占う?」
敦は、考える顔をした。
「…私は、村に信じてもらえているように思うから、もう一人の真占い師にチャンスを与えたいんだ。なので、最後に残りを選ぶ。うーん、そうだな、氷雨。どこを占いたい?まずは一人。」
氷雨は、皆の顔を見回した。
「呪殺を目指してか…だったら、今の発言でもやっぱり相方に見える敦さんの白先は選ばないかな。そうだな…じゃあ、一人は聖子さんで。」
聖子は、驚いた顔をする。
敦は、頷いて永宗を見た。
「永宗は?」
永宗は、顔をしかめた。
「オレも敦さんの白先は無駄占いになりそうだし…じゃあ喜美彦で。」
さっきキッチンで占えと言われていたものな。
久司が思っていると、敦は冴子を見た。
「冴子さんは?」
冴子は、むっつりと皆を見回す。
そして、言った。
「辰巳さんにするわ。」
敦は、息をついた。
「そうか、皆久司と舞ちゃんは選ばないのだな。では、私は今夜吊られなかった方のグレーを占おう。では、次にまた氷雨。二人目は誰がいい?」
氷雨は、迷う顔をした。
「ええっと…誰が残ってる?もう居ないんじゃ。」
敦は、答えた。
「役職者以外になるので、生き残っているのは喜美彦、久司、正高、聖子さん、芽依さん、舞さん、拓也、辰巳。君は芽依さんと辰巳を占っていて、喜美彦、久司と舞さん、辰巳は他の占い師に取られた。今聖子さんを指定したので残りは正高、拓也しかないな。」と、徳光を見た。「徳光、どうする?全員に二人指定は難しいぞ?一人は単独で占うことになるが。」
徳光は、頷いた。
「だったら、とりあえず今指定した人でいいかな。誰に二人とか面倒になるから、それぞれ今自分が指定した人達を占って色をつけてくれ。呪殺が出たらいいし、そうでなければ仕方ない。つまり今夜は、氷雨は聖子さん、冴子さんは辰巳、永宗は喜美彦、敦さんは久司か舞ちゃんの残った方で頼む。」
占い師達は、頷いた。
こうして見ると、狼目線で敦はわかっていて皆に先に選ばせたようにも見える。
久司は白く見られているので、呪殺を出したい真占い師達はまず、選ばないと見たのだ。
狐は目立ちたくないので、仮に選んだとしても白い久司に黒打ちは避けようとするだろう。
とにかく真占い師の指定さえ免れたら良かったので、久司はホッとした。
これで、自分も敦の保護先に入れるのだ。
恐らく、今夜は狼目線で狐の可能性が高い、聖子が真占い師の氷雨に占われることになる。
これで霊能者騙りの久子が、どの陣営なのかハッキリしてくるので、明日の結果が今から待ち遠しかった。
それから、特にもう久司と舞の話を聞こうとも徳光は言わず、ひたすらに明日以降の進行の話に終始して、投票の時間を迎えた。
久子は、自分から護衛を外されたのが余程ショックだったのか、あれから特に舞を庇うこともなく、そんな久子に呼応するように他の女子達も舞とは目を合わせなくなって、投票の時間を迎えることになった。
…案外、女子の中でも投票は分かれるかもな。
久司は、そう思って、モニターからの声に従って舞に投票したのだった。
1 喜美彦→12
2 久司→12
3 永宗→12
4 冴子→12
6 氷雨→12
7 正高→12
8 聖子→12
9 芽依→12
10敦→12
12舞→2
13久子→12
14拓也→12
15光晴→12
16徳光→12
18辰巳→12
「え…全員、舞さん?」
久司は、思わず呟いた。
いくらなんでも、あれだけ庇っていたのだから、一人ぐらい久司に入れると思ったのだ。
それなのに、蓋を開けてみたら全員が舞に投票している。
その声が聴こえたらしい、女子達は目を合わせずに黙っていた。
《No.12が追放されます。》
モニターの声が言う。
舞は、涙ぐんで言った。
「そんな…!みんな私なの?」と、隣りに座る久子を見る。「どうして?」
久子は、答えない。
…保身のためか。
久司は、眉を寄せてそれを見ていた。
そして、フッと舞は気を失うように背もたれに倒れて、動かなくなった。
声は、言った。
《No.12は追放されました。夜時間に備えてください。追放者はこちらで処理しますので、そのままにしておいてください。》
そして、声は終わった。
徳光が、むっつりと言った。
「…これは、どういうことか聞かなきゃならないな。女子はみんな、舞ちゃん吊りに反対だったんじゃないのか?結局みんな舞ちゃん投票。怪しまれたくないからなのか?」
久子は、言った。
「違うの。私は舞ちゃんを吊るのはかわいそうだと思っていたけど、久司さんに投票するのは違うと思ったの。他の人を指定してくれたら、そこと比べて黒い方に投票しようと思ってた。だけど、結局完全グレーの二人から指定は覆らなかったわ。だったら、久司さんには入れられない。だって、どう考えても他と比べて白いんだもの。だから…舞ちゃんにしたわ。」
芽依も、頷く。
「そう。これが、辰巳さんとか喜美彦さんとか昨日疑われた位置だったらそっちに入れたかもだけど…久司さんだったから。仕方なかったの。」
言い訳にしか聴こえない。
が、しかし仕方がなかった。
舞に入れたこと自体は、皆が入れているのだから黒くはないのだ。
問題は、意見を覆えしたことだった。
怪しまれたくない、という思惑が透けて見えて仕方がないのだ。
敦は、息をついた。
「まあ、終わったことだ。夜時間は各々やらねばならないことに集中しよう。狼もだが、狐も処理しなければならない。みんな、間違えたりしないように。狩人も、守れる所を守るのだ。全て指定通りにな。私達は、チームなのだ。」
みんなが足並みを揃えて行かねばならない。
久司は、思って敦に頷いた。
みんなでやりきらねばならない…狼は、まだ全員無事なのだから。
菓子パンを手に部屋へ戻った久司は、今夜の襲撃先を考えていた。
久子が良いのだろうが、狂人だったら残しても良いかも知れない。
ただ、あちらは人狼がどこなのか分かってはおらず、おかしな動きをしているようなので、残すメリットもあまり考えつかなかった。
敦に聞こう、と、ひたすらまんじりともせずに扉の前で待っていると、例によって閂が音を立てて開いた。
久司は、もう慣れたように廊下へと足を踏み出したのだった。




