夕方に
そのまま、占い師の話は平行線で、結局誰が騙りなのか、村は結論を出せなかった。
しかし、皆が皆敦を真だという意見は変わらないようで、人は分かりやすいものを信じるものなのだなと久司は思った。
自分の派手な立ち回りも然り、分かりやすく白アピールをすると、村はあっさり白置きしてくれる。
ここは、やはりこれまで通りに熱い男と思われて、発言していった方が良さそうだった。
昼の会議が終わって夕方までの間、一応部屋で籠っていたのだが、その間正高も誰も、久司を訪ねては来なかった。
徳光も、もう舞を吊ることで納得しているのか、久司にわざわざ話を聞きに来る事もなかった。
もし、少しでも久司を吊ろうと迷っているのなら、徳光の性格なら黙っていることなどできないだろうからだ。
後は、誰が自分を占う事になるかだった。
今夜は、自分だけでなく各占い師の白先を、別の占い師が占う事になるはずだ。
その振り分けが、どうなるのか気になった。
狼目線、氷雨と冴子が真占い師だと透けている。
なので、できたら永宗に占って欲しかったが、しかし永宗は恐らく背徳者なので、何を言い出すか分かったものではなかった。
偽の占い師の結果で殺されるのは、割に合わなかった。
久司が悶々と考えていると、誰かが不意に、扉を開いて驚いた。
廊下から、拓也がこちらを覗いていた。
「久司、飯食わないか?6時から会議だろ。さっさと食っとかないと、投票の後になるぞ。」
久司は、金時計を見た。
もう、5時を過ぎていた。
「…もうこんな時間か。全然お腹空いてないんだけど。」
久司が、ブツブツ言いながら扉へと歩いて行くと、拓也は苦笑した。
「オレはずっと病院生活だったし、この時間になったら腹が減って来るんだよな。病院ってだいたい5時から飯だろ?朝は7時で昼は0時。飯の時間がきっちりしてたから、もう習慣になっててさ。」
久司は、それを聞きながら廊下へと出て、一緒に歩きながら言った。
「そういえば、オレってもう食べる意欲もなくてさ。毎回食事を持って来てくれたけど、碌に食べてなかったよ。だから、胃が小さくなってるのか、調子乗って食べてたらもう、腹いっぱいって感じ。昼間にラーメンとチャーハン食べたから、腹がなんか重くって。」
拓也は、ハハハと笑った。
「そんな脂っこいもん食べるからだろ。じゃあ投票後にするか?お前は吊られないだろ。舞ちゃんが怪し過ぎる。」
久司は、肩をすくめた。
「何があるか分からないしね。一応何か食べとく。」
二人が、階段を降りてリビングへと入って行くと、敦と正高、そして徳光が窓の側のソファに座って何やら話していた。
拓也は、そんな三人に声を掛けた。
「あれ、もう食べたのか?そんな所で集まって。」
正高が、答えた。
「ああ、オレ達は終わってから食べようかって。今日は吊られる予定もないしな。久司は万が一もあるから、食べといた方がいいんじゃねぇか。」
言われて、久司は複雑な気持ちになりながら答えた。
「…わかってる。そのつもりで降りて来たから。」
拓也は、苦笑した。
「容赦ないな。ま、オレも食事に行って来るわ。行こう、久司。」
久司は頷いて、拓也についてキッチンへと向かった。
だが、正高がそう言うからには、もしかしたら徳光はオレが怪しいと言っているのだろうか。
久司は、そう思うと俄かに不安になって来て、元々食欲がなかったのが更に何も食べる気持ちにならなくなってしまったのだった。
キッチンに入って行くと、残っている女子達5人、冴子、聖子、芽依、舞、久子が集まって話していた。
どうも、舞を囲んでいるようにも見える。
その女子達と離れて、居心地悪そうにこちら側で、喜美彦、永宗、氷雨、光晴、辰巳の5人が座ってボソボソと話している最中だった。
入ってきた拓也と久司に気付いて、永宗が言った。
「あ、二人共、夕飯?」
拓也が、さすがに空気を読んで声を落として言った。
「そう。」と、女子の方を顎で軽く示した。「なんだ?何かあったのか。」
辰巳が、同じく小声で答えた。
「…なんかさ、気持ちは分かるとか言って。」何の話だと久司が思っていると、永宗は続けた。「ほら、村人なのに猫又騙ったやつ。オレ達はもう舞ちゃん吊りで明日の話をしてたんだけどね、久子さんがさ。そんなのおかしい、怖かっただけなんじゃないかって言い出して。舞ちゃんを庇ってね。そしたら、他の女子達も、自分だって村人なのに吊られるなんて理不尽に思うから、きっと同じ事を考えた、とか言って。武のせいでこうなったのに、武は無責任だとかさ…襲撃されたんだから仕方ないよね。」
つまり、女子達は久司に入れようと思ってるのか。
久司は、嫌な予感が的中した、と内心気が気でなかった。
しかし、光晴は言った。
「だが、舞ちゃんがCOしていなかったらオレだってもっと潜伏できたかもしれない。こうなると、昨日回避COしなかった真智子さんが白く見えて来て、久子さんが怪しく思うなって、今話してたんだよ。見るからに怪しい舞ちゃんを庇うのって、なんか狂人っぽくないか?それとも狼なのか。とすると、冴子ちゃんは偽だよな。」
辰巳が、ため息をついた。
「ただ同情しただけかもしれないけどね。だから、もうぐちゃぐちゃ。さっきまで徳光さんも敦さんも、正高も居てね。敦さんと正高は黙ってたけど、徳光さんは反論してた。ちょっとした修羅場でさ、正高が、一旦頭を冷やした方が良いって、リビングへ徳光さんを連れ出したから、静かになったけど。」
そうだったのか。
喜美彦が、言った。
「でも、複雑なんだよ。怪しい位置だったオレに白を打った冴子ちゃんはオレ目線白く見えてるし、久子さんを囲ってるようには見えない。そうなると久子さんは真だろうし、真智子さんは黒。舞ちゃんは、騙ることで真智子さん吊りを促した立役者ってことになるし、そうなるとホントに怖かったから吊られないように騙った村人って線も捨てきれないだろ?いくら縄に余裕があるからって、舞ちゃんに使って良いのかなって。」
男性からも、そんな意見があるのか。
久司は、眉を寄せて言った。
「…それって、つまり喜美彦はオレを吊るってこと?舞さんより、オレの方が黒く見えるってことか。」
喜美彦は、え、と慌てて首を振った。
「あ、いやそういうワケじゃない。オレは思った事を言っただけで。」
しかし、拓也が言った。
「そういうことだろう。今夜は完全グレーの二択なんだから、舞ちゃんでなければ久司じゃないか。それ…もしかしたら、冴子さんに囲われて庇ってるのか…?」
皆の視線が喜美彦に向く。
喜美彦は、急いで言った。
「違う!なんでだよ、オレは白だ。回避COしなかっただろうが。他の占い師に占ってもらってもいい。なんなら永宗、今夜オレを占ったらどうだ?とにかく違う!思った事を言っただけで、別に庇ってるとかない。」
光晴が、言った。
「…どう考えてもしっかり考えて発言してる久司吊りはない。この二択なら吊るのは舞ちゃんで、久司は占い位置だ。久司を吊る考えが出る時点で、もう黒く見えるぞ、喜美彦。久司を吊ることがあるなら、確定占い師から黒が出た時ぐらいのもんだ。」
辰巳が、頷く。
「…だよな。一気に喜美彦が黒く見えたよ。もしかしたら、冴子さんとまとめて人外なんじゃないか?」
白貯金が多くて良かった。
久司は、ホッと胸を撫で下ろした。
仮に女子達全員と喜美彦が久司に投票しても6票、残り9票は恐らく確保できる。
今夜、何の益もなく吊られることだけは回避できそうだった。
拓也は、息をついて弁当を冷蔵庫から出し、それを電子レンジに放り込んで言った。
「…ま、村の利益になる吊りを冷静に考えられるかどうかで明日からの吊り先が決まって来るんじゃないのか?明日全員に色がついた時点でまた、全員グレーみたいなもんだからな。どの占い師の真を切るかで、吊り先は決まる。その占い師精査は、その白先の動向で決まる。黒い動きをしていたら、占い師にまで迷惑が掛かるってことだ。人狼ゲームはチームプレーだし、村は自分のためじゃなくチームのために考えて行動しなきゃならないって敦さんが言ってたよ。村の思考を乱すような動きは、仮に村人でも最終日利用されて人外勝ちに導くことになるから、縄に余裕がある内に吊るべきなんだって。それも村のためなんだってさ。」
電子レンジの音に負けまいと大きな声を出して言ったので、それは女子達にも聴こえていたようだ。
拓也の話に、皆が黙ってバツが悪そうに顔を見合わせていたので、それが分かった。
拓也はそれに気付かないふりをして、温め終わった弁当を引っ張り出すと、それを皆が黙り込む中で掻き込み始めた。
久司はそれを見ながら、やっぱり拓也はできる男だと思っていたのだった。




