二日目朝の会議
皆が集まった中で、徳光が言った。
「分かったことはホワイトボードに書いておいた。冴子さんが喜美彦白、氷雨が辰巳白、敦さんが拓也白、永宗が正高白。で、真智子さんは黒だ。まだ縄に余裕がある。完全グレーは?」
久司は、自分から答えた。
「オレと光晴さんだよ。でもオレ、光晴さんが狼には見えないんだ。だから、絶対狼は囲われてるんだと思うんだけどね。」
もし光晴が猫又でも、もう対抗しないのだから仲間に引き入れても良いだろう。
光晴も、頷いた。
「オレもそう思う。昨日の立ち回りから見ても、久司が狼には見えない。役職騙りと、白先に全部紛れているんじゃないのか。仮に狐だとしても、初日に囲っていなくても、いくらなんでも今日は囲っているだろうしな。」
徳光は、戸惑う顔をした。
「えーっと…じゃあどうなるんだ?」
敦が、ため息をついた。
「…状況を整理しよう。」
結局敦頼みか。
皆は、敦を見る。
敦は続けた。
「今朝武が襲撃されて現在15人、吊り縄は残り7つだ。久子さんを真と置くのなら、狼が一人吊れて残りは佐知さん狂人、背徳者を追わないならば人外は残り6人。その内訳は、占い師に2人と、舞さん、久子さん、徳光、真占い師2人を除いた8人の中に4人居ることになるが、現在白先になっているのは拓也、喜美彦、正高、聖子さん、芽依さん、辰巳の6人。仮に、残った完全グレー2人共が人外だったとしても、必ず白先の中に最低2人は人外が混じっていないとおかしい計算になる。つまり、確実に囲いは発生していることになる。」
めっちゃ分かりやすい。
久司は思ったが、他の人達もそうだったようで、うんうんと頷いていた。
正高が、言った。
「そうなって来ると、初日に久子さんに白を打ってる冴子さんと、佐知さんに白を打ってる敦は少なくとも初日は囲ってないわけだから、白く見えて来るよな。かといって、他の白先…芽依さん、聖子さん、辰巳の色は見えないんだよなあ。オレは白だから、永宗に囲われてないのはオレ自身には分かってるけど。冴子さんの喜美彦白も、敦の拓也白も違和感ない。」
氷雨が、言った。
「オレは自分が真占い師だと知ってるから、芽依さんと辰巳が白だってことだけは分かってるが、他の白先の事は分からないからな。とはいえ、敦さんはどう考えても村のために情報整理をしてくれてるし、敦さんのお蔭で大きな混乱もなくこうして初日から議論できてる感じもあるから、相方位置としては敦さんが筆頭だと思ってる。だから、囲われているとしたら、冴子さんと永宗の白先かなと思ってて、できたらそこの辺りから話を聞きたいと思っているけどな。」
永宗は、言った。
「オレだってオレの白先が白だって分かってるから、他の白先の人達から話を聞きたいよ!完全グレーの二人はどう見ても白いし、初日から連続で囲ってる事も考えられると思うけどな。久子さんだって、もし佐知さんが真霊能者だったら狂人かもしれないだろ。」
徳光が、顔をしかめた。
「だから、それを追うのはもっと盤面が詰まって来てそれしか考えられなくなったらでいいんじゃないか。今は、そんなレアケースは追わないんだ。最初に言ったじゃないか。」と、聖子を見た。「じゃあ、永宗の白先の、聖子ちゃんから話を聞いて行こうか。昨日は、白先からは話が聞けてないしな。ちょうどいい機会だ。思ってる事を話してくれないか。」
聖子が、名前を呼ばれてビクと驚いたように体を震わせたが、言った。
「…私は、このゲームに詳しく無くて。でも、私は村人だから、永宗さんに囲われてないのは分かってる。正高さんのことまではわからないけど。敦さんも、こんな私にでもわかりやすいように説明してくれるから助かってるし、真かなと思うわ。でも他は…昨日は、辰巳さんが怪しいなって思っていたの。でも、みんなが白いって言うから、そんなものかなと思って。徳光さんの話を聞いていたら、真智子さんがとても怪しく思えたから投票した。そしたら、狼だったと分かってホッとしているところよ。」
村の印象とは、そんなものかもしれない。
とはいえ、何やら傍観者のような意見だなと久司は思った。
徳光は、頷いた。
「難しいよな、このゲームは。でも、しっかり考えて行かないとあっさり負けるぞ。」と、ハッとした顔をした。「そういえば、昨日の投票結果だ。オレ、メモしてるんだが、真智子さんは狼だったわけだろう。だが、そこに入れていない人も居たはずだぞ。投票結果からも、推理できるんじゃないのか。」
そうだった、投票結果。
久司は、思った。
昨日、人狼陣営は全員真智子に入れていた。
本来なら、白の真智子に入れているのだから疑われるかもしれないが、徳光があれだけ推している先なので、大丈夫だろうと吊りに行った結果だった。
だが、案外に喜美彦に入れている人も居たのだ。
両方共白なのだから、どちらに入れても怪しいなどという事はないのだが、久司はそっちで怪しんでくれるのからやすいかもと、内心ほくそ笑みながら徳光がメモを出すのを見守った。
徳光は、言った。
「…昨日、真智子さんに入れていない、つまり喜美彦に入れているのは6人だ。氷雨、芽依ちゃん、武、舞ちゃん、光晴、辰巳。これって、残りの人外の数と一致しないか。」
徳光は、まるで我が意を得たりと言った風に、大袈裟にメモを開いて皆に見せた。
だが、敦が言った。
「人外と言っても、そこには背徳者、狐、それに狂人も混じっている。全てが誰が人狼なのか、把握していたわけではない。よって、私は全てが村人だとは言わないが、村人も混じっていると思っている。それに氷雨と舞さんは役職COしているし、武は襲撃されているので、6人の枠ではない。短絡的に考えてはいけない。」
そうなんだよなー徳光さんってあれこれちょっと合うと、まるでそれが真実みたいにロックするから。
久司は思ったが、ちょいちょい村人に忠告のような事をする敦に、内心少し憤った。
迷走するなら、静観していたらいいのだ。
だが、敦は一々訂正して皆の思考を正そうとするのだ。
余計な事をして、と思っていたが、徳光はムッとしたような顔をした。
「全員が人外だとは思っていないし、オレにだってそれぐらい分かってる。」と、皆を見回した。「分かってるが、この6人は人狼に入れていないんだから、話は聞きたいと思ってる。」
しかし、正高が言った。
「待て、それより先に方針を決めよう。時間は有限だぞ?今日はどこから吊るんでぇ。その様子だと、完全グレー二人は放置でまた占い待ちってことだよな?となると、誰かの白先まで吊る事になるかもしれないぞ。そうなった時、その占い師の真を切る進行になるが良いのか。」
徳光は、ぐ、と黙った。
まだ、占い師の精査は全く進んでいない。
敦が飛び抜けて真に見えているようだったが、他の三人の内訳が全く皆の目線で意見が出ていなかった。
敦が、息をついた。
「今、徳光が言った6人の、内訳で辰巳、芽依さんは氷雨の白先でこの3人が入るなら氷雨は真切り進行、武は襲撃されている。舞さんは猫又CO、完全グレーは光晴だけだ。氷雨の真贋は私にはまだ分からないし、今の状態では徳光がこの中からと指定するなら、私はどうしても光晴に入れる事になるが、良いのか。」
徳光は、ぐぬぬと声に出して困っているようだったが、言った。
「…そうだ!完全グレーで昨日真智子さんに入れていないのが光晴なんだから、光晴から吊ろう!間違ったとしても縄に余裕はあるはずだ!」
久司が、ここは光晴を庇って心象を良くしなければと、言った。
「待ってくれよ、光晴は白いと思う!昨日あれだけ目立つ意見を出していたのに、だったらオレとのランダムでもいい!」
さすがに、拓也も正高も、驚いた顔をする。
他の村人も、びっくりした顔をしていた。
だが、その矢面に立っている、光晴がフッと肩で息をつくと、手を上げて言った。
「いい。久司、お前、オレを庇ってるな?もしかしたら、分かってたのか。分からないようにしていたつもりだったのに。」
…どういうことだ。
久司は、思ったが昨夜狼同士でも話していたことだ。
猫又か、狩人だとしたら、光晴の位置のはずなのだ。
久司は、内心ドキドキと胸が騒いでいたが、顔をしかめて博打のつもりで言った。
「…オレと意見が同じだったし。でも、やめろって、出ない方がいい!」
だが、光晴はクックと笑った。
「やっぱり。だからお前は白いって思って昨日から見てたんだよな。」と、顔を険しくすると、徳光を睨んだ。「オレが猫又だ。舞ちゃんは騙り。オレを吊ったら、誰かが道連れになるぞ?」
やっぱり…!
久司は、敦に騙るなと言われた意味が分かった気がした。
こうなった時に、騙っていない方が吊り縄から遠ざかるからだ。
そして、恐らく光晴の方が真猫又だと久司の勘は言っていた。
全員が、息を飲んで光晴と徳光、そして舞を交互に見ていた。