内訳は
「なぜなら、霊能者に出ている武がやたらと庇うからだ。」敦は、息をついて目の前で、手を合わせてその指先を見つめると、続けた。「背徳者が、霊能者に出ている時は恐らく狐は占い師に出ているだろう。なぜなら、占い師に出ている狐と結果を合わせて真をとらせねばならないからだ。もし狐がグレーに居るとしたら、背徳者は占い師に出なければならない。占われるのを少しでも遅らせるため、囲わねばならないからだ。狐は霊能者に出ない。霊能者は占い師に比べて重要ではないと思われているので、騙りが出ているのが分かると真っ先に吊られる可能性があるからだ。よって、霊能者COの武は狐ではないし、その武に庇われる舞さんは狐ではないと思われる。なので、狐陣営ではないと私は思っているのだ。」
拓也が、言った。
「だとしたら、武は真か。狂人ではないってさっき敦さん言ってたもんな。何に出なきゃいけないか分からないのに、前日から明かさないって。」
敦は、頷く。
久司は言った。
「じゃあ、同じ理由で永宗も狂人じゃないのかな。前日に何人もの前でCOしてたし。」
それには、敦は首を振った。
「状況が違う。永宗の場合、他に知って欲しいCOだった。あの場合、狂人でもおかしくはないと考える。自分が出るから、狼は出るなと牽制のようなものだろうな。それとも、占い師だから生き残りたくて守って欲しいという真感情か、占い師だから他を怪しめと言っている狐陣営か。いずれにしろ、まだわからない。性格もあるのでな。役職内訳は、明日の結果と議論次第だと私は思っている。」
正高が、ため息をついた。
「だったら、真猫又はいったいどこだろうな。舞ちゃん吊りを推していた中に居るのは確かだろうが、素村の辰巳は違うだろうし、喜美彦も素村。となると、光晴?」
敦は、それに頷いた。
「私もそのように。今日は白先には話が聞けなかったのだが、芽依さんと聖子さんも、終始だんまりで話に入って来る様子もなかったことから、この辺りに猫又、狩人、狐陣営が居てもおかしくはないと考えている。そうなると芽依さんは氷雨に、聖子さんは永宗に囲われていることになるので、占い結果以外の繋がりを見ていく必要がある。万が一佐知さんが真霊能者だった場合には、冴子さんが背徳者の久子さんを囲った線まである。よくよく見て精査せねばならない。」
その辺りの意見は全く聞けていない。
何しろ、今日はグレーの話に終始していたのだ。
久司は、言った。
「呪殺が出たらわかりやすいのに。狩人は連続護衛できないから、その占い師を噛めるでしょう?」
敦は、答えた。
「そうなれば手っ取り早いが、どうだろうな。何しろ情報が少ない中でのことなので、まだ私にも狐位置は分かっていないのだ。狼目線でそうなのだから、村人ならばもっとだろう。武を噛んで、明日からの動きを見よう。仮に護衛成功が出たら、そこを噛んで来ると私達と同じように判断できる頭の切れる狩人だということになるから、また位置が割り出しやすい。明日の朝が楽しみだよ。」
敦は、そう言って笑う。
が、久司は笑えなかった。
冴子が偽でも、黒を打ってくる可能性はあるからだ。
冴子は喜美彦を占っている、と思いたい。
久司は息をついて、皆に促されて部屋へと戻って行ったのだった。
次の日の朝、7時きっかりに鍵が開き、久司は落ち着いて外へと足を踏み出した。
斜め前の部屋からは、正高が無言で出て来ているのが見える。
ちなみに向かいは、聖子だった。
隣りの3号室は永宗で、同じく出て来ている。
反対側の隣りの喜美彦が、言った。
「…ここらは全員居る。」と、向こうを遠く見た。「みんな居るか?!」
見たところ、昨日吊られた真智子以外は全員居るようだった。
「三階に行ってみよう。」
敦が言う。
皆は頷いて、そして階段をぐるりと回って上がって行った。
三階では、一番端の部屋に皆が集まっていた。
最後尾の、拓也が振り返って言った。
「…武が、出てこなくて。」と、開いた扉を見た。「舞ちゃんと久子さんが中に入って確認してるよ。」
すると、久子が一人出て来て、言った。
「…武さんよ。襲撃されましたって札がかかってた。護衛は外れたみたい。」
襲撃が通った…!
久司は、ここまで二日確実に村人を減らせているので、内心安堵した。
だが、見たところ武以外は全員居るので、呪殺は出なかったようだ。
徳光が、言った。
「…仕方ない。狼との三択争いに負けたんだ。先に気になるから結果を聞いていいか。」
敦が、すぐに言った。
「私は拓也を占って白。」
氷雨が、息をついた。
「オレは辰巳を占って白。」
永宗は、おずおずと言った。
「オレは、正高を占って白。」
永宗が偽か…!
久司は、それで一気に背筋がピリピリと緊張した。
つまり、冴子と氷雨が真占い師で、自分は冴子の指定先だったのだ。
冴子は、大きくため息をついた。
「私は、喜美彦さんを占って白よ。」
久司は、それを聞いて力が抜けた。
良かった…とりあえず今日は切り抜けた。
徳光は、目に見えて残念そうな顔をした。
「黒結果ナシか。霊能結果は?」
久子は、落ち着いて答えた。
「黒。真智子さんは、狼だったわ。」
久子さんは偽物だ…!!
久司は、それはそれでまた胸がドキドキとして来て、頭が混乱した。
ということは、やはり武は真霊能者で、佐知がその相方だったことになる。
…え…永宗が偽、久子さんが偽で…だったら、内訳は?
頭の中は大混乱だったが、久司は表面上なんでもないように表情を引き締めていた。
徳光は、頷いた。
「だったら、狼は吊れたな。初日に襲撃された佐知さんが偶然霊能者なんか低い確率はこの際追わない。それだったら、辰巳に明かしていてもおかしくなかっただろ?だから、久子さんは真で追って行く。じゃあ、とりあえず今日はまた、8時に下に降りて来てくれ。この結果を元に話し合おう。」
今日の占いで、グレー位置は一気に狭まった。
喜美彦は冴子の白となり、正高は永宗の白になったし、辰巳は氷雨の、拓也は敦の白になったからだ。
残った完全グレーは、光晴と久司の二人だけ。
狼の中で、囲われていないのは自分だけ…。
まさかグレー吊りになるとは思えないが、しかしこれだけ白結果ばかりだと可能性はあった。
その光晴が、もし猫又だったら対抗しなければ吊られてしまう。
久司は、気を引き締めて、部屋へと戻って行ったのだった。
だからといって、どこを吊るのが正着なのか。
久司は、眉を寄せた。
どう考えても、他が白結果である以上、完全グレーを吊ろうということになりそうだった。
何しろ、久子は真智子に黒を打ち、縄に余裕があるように見えてしまっているからだ。
昨日17人だった人数も、二人減って15人、残りの吊り縄は7。
残り人外は6人と村には見えているので、依然として1本、縄に余裕があった。
どうしたものかと久司が思っていると、例によっていきなりに、正高が飛び込んで来て扉を閉じた。
「…お前、もしグレー吊りになっても猫又COするなよ。敦からの伝言だ。」
え、と久司は目を丸くした。
「え、でも今夜吊られるかもしれないのに。」
正高は、言った。
「それでも、霊能者が抜けてるから問題ない。吊られたら吊られた時だ。お前は寝て待ってろ、勝ってやるから。とにかく、もし指定されても回避するな。昨日のは、村のためだからとか理由つけてすっとぼけろ。分かったな?」
久司は、納得が行かなかった。
猫又を騙れと言っておいて、今日は騙るなという。
だが、従わないわけには行かなかった。
何しろ、人狼はチームプレーなのだ。
勝手な動きはできなかった。
「…分かった。黙って吊られることにする。でも、久子さんがまた黒出したらどうするんだよ?」
正高は、ニッと笑った。
「今夜噛む。狩人は後手後手になってるからイライラしてるはずだ。武が噛めた時点で、こっちは噛み筋確定したようなもんさ。とにかく、回避するなよ!」
正高は、そう言いおくと、また扉に、くっついて外の音を聞いて、サッと出て行った。
…どうせ聴こえないのに。それとも聴こえるのか?
久司は、少し納行かない気持ちでそれを見送ったのだった。




