夕方の議論
残されたのは、奇しくも狼ばかりだった。
久司は、言った。
「…こうなるとやっぱり真智子さん?徳光さんがそっちへ持って行きそうな気がする。」
拓也が、頷いた。
「そうなると良いなと思って言ったことだったが、正高が言うようにホントに扱いやすいな、徳光さんは。村が気の毒になって来る。じゃあ今夜は真智子さんかな。」
正高は、言った。
「オレは一応喜美彦に入れるけどな。霊能者が生きてる限り、明日の色は必ず落ちる。それで白だったら、入れたもの達が疑われる方向になるだろうし。」
久司は、言った。
「じゃあオレも喜美彦かな。」
拓也は、言った。
「でもさ、みんなが入れるなら別に良いよな。むしろその方が疑われないぞ?」
正高は、頷いた。
「そうだな。流れを見て決めよう。確白のパン屋が推す所に入れても、そこまで怪しまれないだろうし。議論の流れを見てから決めよう。久司も、流れで真智子さんが良かったらそっちにしろよ。全員入れたら白黒関係なくなる。それに、もし霊能者の片方が狂人だったりしたら、黒が出る可能性もあるんだ。そうなったら、入れてない方がヤバいことになるし。」
久司は、言った。
「あのさ、内訳どう思う?占い師と霊能者。狂人、どっかに出てるかな。」
拓也が、顔をしかめた。
「今のところわからないよ。もしかしたら敦さんが何か分かってるかもだけど、敦さんは情報収集にリビングに行ってる。そこで一人で座ってたら誰か話し掛けて来るだろうから、そこから情報を集めて対策考えるって言ってた。」
正高は、頷く。
「そうだよな。だからオレも、敦と離れて放置してるんだ。多分、一人の方が話し掛けやすいだろうからって。ちょっと降りてみるか?」
久司は、頷く。
「夕飯早く済まさないといけないしね。そろそろ降りよう。」
三人は頷き合って、そうして部屋を出て一階へと降りて行ったのだった。
時刻は、17時を過ぎて18時に近付いていた。
あれから、三人でキッチンに降りて夕飯を食べていると、リビングに居た敦やその他女子達、男性達がバラバラとやって来て、同じように食事を済ませた。
みんなの空気は何やらピリピリとしていて、和やかに語りながらご飯、という雰囲気ではなかった。
というのも、徳光がやたらとさっきの意見…二人が人外だから回避するのはそれしかなかったのではという…を論じていて、空気が悪かったのだ。
敦がそれに対して、その可能性はある、と発言してからは、それこそ水を得た魚のようにそればかりで、真智子がいたたまれなくなって場を外したほどだった。
そのままの状態で、18時となりリビングへなだれ込んで、皆で会議となったのだが、まだ徳光は論じていた。
そして、長々と何度も聞いた理由をまた、改めて聞かされてから、徳光は言った。
「…だから、舞ちゃんを吊らないなら、真智子さんを吊ってみてはと思うんだ。霊能者は二人共生きてるし、明日は必ずどっちかは生き残っても結果が見れる。それがおかしいというのなら、特に話も聞けてない喜美彦に入れてくれ。つまり、喜美彦と真智子さんのランダム投票で行きたい。」
それを聞いた喜美彦が、言った。
「待ってくれ、オレ?なんでオレなんだよ。おかしくないか、一番最初に発言したんだからあんまり発言伸びなかったのは仕方ないだろ。」
徳光は、喜美彦を見て言った。
「それは久司も同じだが、それでも間に割り込んで白稼ぎしてるだろ。分かってるのに、話を振られないと話さないのはボロを出したくないからなのかって感じる。光晴だって拓也だって正高だって割り込んで話してるし、黙ってるのはお前だけじゃないか。色がわからないんだから、吊るしかないだろ。」
敦が、言った。
「…喜美彦は、役職じゃないんだな?」
喜美彦は、渋い顔をして答えた。
「役職だったら良かったが、そうじゃない。でも、同じ立場の真智子さんだってオレには白く見えてる。何しろ、回避COしなかった。舞ちゃんの方が、よっぽど黒く見えるじゃないか。それなのに役職だからと残されて、オレには真智子さんの気持ちがわかるよ。村人だからどうしようもないんだからな。」
光晴が、言った。
「舞ちゃんが黒いのは分かってる。それでもとにかく、グレーを吊ると決めたんだから仕方ないだろうが。オレだってできたら舞ちゃんを吊りたいが、初日だし仕方がないだろう。」
敦が、ため息をついた。
「…これで、辰巳、真智子さん、喜美彦の三人の素村が確定してしまった。これ以上疑い位置を広げて、役職者の位置が狭まるのは避けたい。徳光が言うように、今夜は真智子さんか喜美彦から選ぼう。もし真猫又が居ても、舞さんに入れたりするんじゃないぞ。それこそ透けて狼の思うツボだ。ここは、決めた位置を動かさず、村人は必ずどちらかに入れるのだ。」
久司は、うんうんと頷く。
自分は微妙な立場なので、舞にわざと入れて位置アピールなんかするなと敦は言っているのだろう。
つまり、久司に向けた言葉だと受け取ったのだ。
徳光は、言った。
「…ま、敦さんの言う通りだ。今夜はどっちかに入れて欲しい。」
二人に発言の時間を与えなかったけどね。
久司は、徳光が言うのに頷きながらも、思った。
徳光が長いことどうして真智子なのかを何度も話していたので、時間はもう残り少ない。
それを誰も止めなかったし、一番止めそうな敦すら、恐らく時間を潰して間違った考えを村に垂れ流し続ける徳光を、泳がせていたのだと思われた。
時間が18時50分になった時、モニターがパッと着いた。
《投票10分前です。》
途端に、真っ青な画面に白く10:00から、9:59と減り始めた。
あれが0:00になったら、投票なのだろう。
皆が、一気に緊張した顔になった。
「…オレは村人なんだ!」慌てて、喜美彦が言う。「縄が無駄になるぞ!誰か占ってくれ、そしたら分かる!」
真智子も言った。
「私だってそうよ!村人だからCOできなかっただけなのに!真猫又が他に居るはずよ、回避COした舞ちゃんは絶対怪しい!それなのに、どうして私なのよ!」
そうだろうな。
久司は、思った。
分かっているが、狼が勝つためには吊られてもらうしかないのだ。
《投票、5分前です。》
飛ぶように時間が過ぎて行く。
正高が、言った。
「腕輪を開いて準備しろ。投票できなかったら追放だぞ?村人なら必ず誰かに投票するんだ。めんどくせぇことになる。」
皆が、それに従って腕輪を開いた。
…今の議論だと、正高はどっちに入れるのかな。
久司は、腕輪の小さなテンキーを見つめながら眉を寄せた。
徳光がかなりの真智子推しだったし、喜美彦は録に話ができていない。
普通なら、話を聞いてもいない色が全くわからない喜美彦に入れるのは、村人としておかしな行動だった。
こうなったら、徳光のせいにしてとりあえず真智子に入れておくのが、無難な選択だろう。
《投票1分前です。》
時間がどんどんと減って行く。
まだ喜美彦と真智子が何か言っていて、それは意味を成さない懇願のように聴こえていたが、それは久司だけでなく皆同じのようで、誰もがもう、聞いていなかった。
…真智子さんに入れよう。
顔を上げてホワイトボードを見ると、真智子は5号室だった。
《…投票してください。》
皆が、一斉に腕輪に向かって、番号を打ち込み始めた。
久司も、5、000、と、腕輪に打ち込んだのだった。




