役職
「マジか。」徳光が言った。「困ったな。」
久司は、言った。
「おかしいよ。」え、と皆が久司を見る。久司は続けた。「仮に真役職だったとしても、だったらなんでしっかり議論で回避しようとしなかったんだよ?さっきだって意見が感情的でないようなものだったし、全くお粗末だったから指定先に挙げられたりしたんじゃないか!自然にかわす方法があったはずだ!本当の役職者だったら、自分がどれだけ村に重要なのか知ってるはずだし、こんな初日に明かして困らせるようなことはしないはずだよ!」
徳光は、急いで言った。
「まあそうだ。久司、落ち着け。」と、舞を見る。「舞ちゃん、議論で何とかしようと思わなかったのか?」
舞は、怯えたように答えた。
「それは…あの、だって投票されるから。私を吊ったら後悔します!」
後悔する…。
狩人でも大概後悔するだろうが、ダイレクトに吊ったら後悔、ということは、猫又ということだろうか。
それを聞いて、光晴が言った。
「…それは暗に猫又だってことか?だったら、他に猫又を募って、出たらあからさまに怪しい君を吊るけど良いのか。」
舞は、言葉に詰まる。
久司は言った。
「猫又は出したらダメだ!永遠に噛まれなくなって、村に貢献できないじゃないか!出すべきじゃない!このままじゃ真があぶり出されてしまうぞ!」
徳光が、言った。
「だから落ち着け、わかったから。」と、舞を見た。「もう、敢えて役職を聞こう。君は猫又か?」
皆が、舞に注目している。
舞は、武に助けを求めるように視線を向けてから、小さく頷いた。
…本当に猫又か?
久司は、怪訝な顔をする。
徳光が、言った。
「…とにかく、他に真猫又が居ても今日は出るんじゃない。久司が言うように、あぶり出されて狼の思うツボなんだ。ということは…真智子さんか。」と、真智子を見る。「一択はな。何より真智子さんは回避COもしなかった。こうなると考え直す必要があるようだ。本当に舞ちゃんが猫又だったら、誰が道連れになるのかわからないしな。またグレー精査になる…占い指定は、それからまた考えるしかないか。」
こうなることがあるから、後からで良かったのに。
久司は思いながらも、じっと舞を睨んでいた。
真なのか偽なのかはわからない…だが、この後対抗する可能性があるのだから、敵意を見せていても良いはずだ。
舞は、武の影に隠れようと、小さくなって下を向いていた。
とはいえ、こうなるとまた一から見直しだ。
グレーはこれで、喜美彦、久司、真智子、正高、拓也、光晴、辰巳の7人となった。
もしこの中に狩人がいたら、またCOとかなってグダグダになりそうだ。
久司は、思った。
そうなると、3票とかであっさり吊られてしまう事態もあり得るので、久司は気を引き締めた。
徳光は、言った。
「またやり直し。次は反対から行こう。辰巳、意見はあるか?」
辰巳が、言った。
「…真智子さんは白先にまで疑惑を広げて村を混乱させようとしてるのかって思ったが、舞ちゃんのCOでなんか白く見えて来た。真智子さんがもし狼なら、回避COしたはずだなとそれで思ってしまったから。それとも両方黒で、片方しか騙れなかったとかなのか?…何しろ、舞ちゃんが真猫又とは思えないんだよな。今朝武が霊能者だと知ってたって言ってたけど、ってことは武も舞ちゃんの役職を知ってたってことだろ?猫又だと知ってたからあのかばい方だったのか?…いや、なんか逆にあんなに派手に庇わなくても、切り札があるんだからもっと余裕を持って庇えたはずだ。なんか、釈然としないんだよ。だから、吊れないんだろうが舞ちゃんが止めどなく怪しく見えてる。」
徳光は、疲れたように頷いた。
「同感だが、今日は吊れない。明日以降かな。次、光晴。」
光晴は、言った。
「辰巳に完全に同意だよ。武が、余裕なく庇ってたのが、猫又だったら怪しくて仕方ない。いや、ハッキリ言おう。舞ちゃんは偽物だと思う。だから真智子さんは白く見えてる。だからって、他はどうかと言われたら黒いと思うところがない。久司はかなり村のためを思う発言をしていたし、今のところ一番白く見えてる。猫又に関する意見が全く同じだ。猫又は、きちんと発言して白くなって噛まれるのが使命だろう。それを、初日から録な発言もしないで出るなんて真感情じゃない。」
拓也が隣りから言った。
「そうだよなあ、オレもそう思った。実際、久司が出すなと言うまでは、絶対騙りだから真を出して決め打ちしたら人外が一人吊れるんじゃないかって、めちゃラッキーだと思ってたのに、よく考えたら猫又って狼を一人道連れにしてくれるんだったよな。それが誰か分かったら、噛まれないから結局役に立てないのに。でもさ、オレも確かに吊っても別に誰も道連れにならないと、変な自信があるんだよなあ。それまでしっかり発言してた人なら、ああ役職だったかって納得もしただろうけど…光晴が言う通り、お粗末だからどうしても信じられないんだよなあ。」
徳光が、盛大に息をついた。
「…もう、ここまで三人ともそんな意見だな。みんなはどう思う?」
皆が顔を見合わせるのに、武が言った。
「お前ら、おかしいぞ!舞は猫又だって言ってるじゃないか!少なくとも今日吊る対象じゃないはずだ!気になるなら占えばいいだろうが!そしたら結果が出る!」
氷雨が、言った。
「分かった、じゃあ徳光が指定した占い師が占えばいいじゃないか。お前は霊能者であって占い師じゃないのに、色も見えてない癖に決めつけすぎだぞ。」
敦も、頷く。
「そうだな、これだけ疑われているんだから、占っても良いかもしれない。ただ、万が一の事を考えても、今夜は猫又だと言っている舞さんの事を吊れない。残りの中から、怪しい所を吊って色を見て、そうしてどこに投票したかと、明日の占い結果で明日の吊り先を決めて行く。明日には、真役職も出して行かねばならないだろう。徳光、私から提案があるが、それは明日になってから言おう。舞さんの心象がこれだけ悪いと、真猫又がどこかに居てもおかしくはないなと私は感じている。なので、明日も私が生き残ったら進行を提案しよう。」
徳光は、気になったようで敦を見つめた。
「いったい、それは何だ?もし君が襲撃されたら聞けないだろう。」
敦は、苦笑した。
「狼はまだ私を噛めないよ。占い師が四人も出ていて、この中には恐らく、狐陣営と狼陣営が出ているはずだ。情報が少ない中、誰がどの役職なのか判断する材料がまだ狼には少ない。自陣営のことは分かるだろうが、もう一人の人外は狐なのか狂人なのかも分かっていないだろう。偶然囲いが発生していたら分かっているかもしれないがね。それでも、占い師が犠牲になると狐が始末しにくくなるし、残りの占い師はローラーされてしまう可能性がある。ゆえ、今夜はまだ大丈夫だろうと私は思うがね。君だって、狩人に自分か霊能者を守るように言っていたではないか。」
確かにそうだが。
徳光は、渋い顔をする。
だが、冴子が言った。
「…でも、怖いわ。狼からしたら、一人だけ真占い師が残ったらいいわけだもの…とりあえず噛んでおけ、とかならないかな。」
それには、正高が答えた。
「狼だって、狐噛みで襲撃無しになったら面倒だろう。敦も今言ったように、狼にも狂人なのか背徳者なのか、狐なのか分かっていないはずだ。狂人を噛んだら無駄だし、背徳者だったら別にいいだろうけどそれでその占い師が真置きされたら、もし狐が囲われていたりしたら永久に吊れないし、狐だったら噛めない。だから、普通なら今夜はパン屋か霊能者かってのが順当かとオレも思う。徳光の護衛指定は間違ってはいない。」
そう言われて、徳光は少し得意げな顔になった。
が、そこには言及せず、少し作ったような険しい顔をした。
「…じゃあ、やっぱりグレーから吊る事になる。指定はオレには出来ないな…黒い所が見当たらなくなってしまってる。みんなの勘に託そう。今はここで休憩して、次は投票の一時間前、6時にここで。オレもちょっとしっかり考えて来る。また、みんなの意見を聞きに回るかもしれない。その時は意見を聞かせてくれ。以上だ。」
昼の会議は短かった。
久司は、思いながら立ち上がってあちこちへとぶらぶらと歩き出す、皆を眺めた。
…自分は少しはアピールできたんだろうか?
久司は、そんな事を考えていた。




