役職達
「オレ、確かに役職はない。」辰巳は、改めて言った。「だから回避とかできない。でも、間違いなく白だぞ。狩人と猫又守るためで、吊りたいなら吊ったらいいけど、高広が言うように縄大丈夫か?オレは白だから、絶対無駄になるのを知ってるからな。勝ってくれるって言うならいいけど、オレだって治療を受けたいから村には勝ってもらわなきゃならないんだけど。佐知のためにも絶対勝ってくれるんだな?」
徳光は、あからさまに顔をしかめた。
「あのな、誰が負けようと思うんだよ。みんな勝つ気で居るから頑張って話を聞いてるんじゃないか。でも、保証は誰にもできないだろうが。」
辰巳は、徳光を睨んだ。
「だったら、吊られるわけにはいかない。オレは佐知が狂人とかでなく絶対に村人だったって思うから、代わりに戦って勝ってやらないといけないんだ。そんな自信のない適当な吊りで、離脱して負けるなんて嫌だ。」
皆が、顔を見合わせる。
辰巳が言うことも、分かるのだ。
辰巳が白だったら、そう思うだろうからだ。
とはいえ、人外でも吊られたら負けに一直線なので、それは白証明にはならなかった。
徳光が、それを聞いて言った。
「…辰巳が言う事も分かるが、今の意見を聞いても特に白くも黒くも感じなかった。」と、視線を動かしたが、ふと敦を見て、言った。「…占い師にも意見を聞いてみようか。敦さんは、どう思う?」
敦は、ただ黙って聞いていたが、口を開いた。
「私は、正高が言うように縄を大切にと皆が思うのなら、黒い所を吊る事に賛成だ。それがリスクを伴うのは、どちらを選んでも同じこと。狩人と猫又がグレーに居るなら、とにかく白くなってくれとだけ先に言っておくが、私がここまで聞いて思ったのは、人外はとにかく穏やかに初日をやり過ごそうと考えているはずだということだ。」
久司は、それを聞いて少し、眉を寄せた。
…敵に塩を送るのか?
だが、敦は続けた。
「つまり、目立つ発言をした光晴は、筆頭で白いと私は思う。だからといって、そこを黒いと言った者が全員黒いとは思っていない。人外というのは回りの意見に合わせて目立たぬように立ち回り、上手く誰かの発言に乗ってどこか村人を黒く思わせることが最善の手であり、自分の意見を述べている者は反対意見であっても白く見える。その考えから、正高はそこまでの流れをぶった切る形で吊り縄の残りを案じる意見を落としたので、白く見える。そして、拓也。前の意見に合わせたらいいのにわざわざ覆すような事を言っているところが白く見えた。喜美彦と久司の意見は、皆の意見を聞くまでの私と同じだったので保留、となると、私から見て今思うのは、真智子さん。真智子さんは、先の二人が敢えて口にしなかっただろう、辰巳が白いなら光晴が怪しく見えるという事を、わざわざ言語化した初めの人だ。先の二人は、役職保護を考えて辰巳を吊ろうと思っていたので、他を黒く見るわけには行かなかったからわざとそこに言及しなかったと思われる。言ってしまえば、もし光晴が役職だった時に回避COで露出することになるかもしれないからだ。真智子さんは、先の二人に意見が同じような言い方をしながら、筆頭で怪しいのは光晴だと言った。役職を保護したいのなら、辰巳以外の者に言及するのは矛盾する。正高も光晴が怪しいと言ったが、正高は辰巳吊りに反対する意見を出していたので矛盾していない。光晴が、正高はそう怪しくないと言ったのも、その辺にあるのではないかと私は思う。それから、舞さん。同じく光晴を怪しむ、理由が理由になっていない。光晴を黒塗りしたいから適当に黒いと言っただけにも見える。なので、私は黒いと言うのなら、光晴よりも真智子さんと舞さんの方がより怪しいと思っているよ。」
結構話したなあ。
久司は、圧倒されて黙り込んで聞いていた。徳光もそうだったようだが、ハッとして言った。
「ああ…そうだな、確かに。人外は初日は絶対に生き残ろうと思っているはずだ。囲われていたとしても、数人はグレーに残るし、そこはしっかり生き残らないといけないから、発言も控えめになるのはその通りだと思う。そうか…言われてみたら、真智子ちゃんは矛盾するよな。わざわざ喜美彦と久司が言わなかったのに、同じ意見で光晴の名前を出したのはおかしいよな。舞ちゃんも、感情的で共感できなかったしなあ。」
真智子が、反論した。
「そんなの、矛盾とか考えてもなかったから、思ったことを言ってしまっただけよ!私は村人だわ!」
舞は、疑われたのがショックだったのか、震えて言葉がない。
そんな舞の肩を抱いて、武が庇った。
「まだ最初の発言なんだぞ?そこまで論理的になんて、いきなりは無理だ!舞は誰にもオレが霊能者だと言わなかったし…何でも話してくれるんだ。人外なら打ち明けてくれてるはずだ!」
拓也が、言った。
「あのな、いくら恋人同士でも、人外だって明かしたりしないっての。お前、役職者とか言ってるのに、私は人外なの、なんて言うと思うか?まだここに来てそんなに経ってないのに?お前達、付き合い出してまだ数日だろうが。逆になんでそこまで盲信できるのかって思うけど。」と、肩を竦めた。「これ、まさか佐知さんが真霊能者で、久子さんとペアで武が狂人とかないだろうな。で、狼の舞ちゃんを庇ってるとか。」
武は、目を見開いた。
「違う!なんで分かってくれないんだよ!オレは真霊能者だ!」
じっと黙っていた、氷雨が言った。
「…だったらなんでそこまで舞ちゃんを仲間だと分かるんだ?狼だったら分かる。仲間が透けてるからな。お前、舞ちゃんに狂人だと言って、舞ちゃんから狼だと打ち明けられたとかじゃないだろうな。」
確かにそう見えてもおかしくはない。
間違ってはいるが、いくら彼女でもあまりにも頑な過ぎるのだ。
徳光は、言った。
「まあ待て。とにかく今はグレー精査だ。じゃあ氷雨、お前も舞ちゃんが怪しいと思うのか?」
氷雨は、答えた。
「わからない。今のは反応を確かめただけ。でも、武の反応があまりにもあからさまだし…ホントに狼だからまずいと庇っているのか、それとも舞ちゃんにのぼせてるから心底信じててアレなのか、全く。でも、武が白くなっても、舞ちゃんは白くはならないな。武が知らないだけかもしれないし。舞ちゃんの意見がお粗末だったのは確かだ。でも、敦さんの意見はいちいちもっともだし、オレはやっぱり真智子さんを一番疑っている。村の意見に合わせようとして失敗しているんじゃないかと思うんだ。そうなると、辰巳は白くなるよな。みんなに最初に吊ってもいいかと言われてるんだし。光晴さんも、人外ならとりあえず様子見して目立つ意見は出さなかっただろう。だから白い。同じ理由で正高、拓也、オレは白くなる。喜美彦と久司は今日じゃない。そんな印象だな。」
氷雨も、どちらかと言うと感情より論理派だ。
久司は、間違ったことを言ったら拾われるな、と慎重に発言しようと思った。
徳光は、頷いた。
「じゃあ、次は冴子さん。」
冴子は、答えた。
「…私には、舞ちゃんの黒さは分からなかったわ。女子ならあんな風に考えるのも分かるのよね。特に、舞ちゃんは佐知ちゃんと仲良くしていたし、狼だったとしても初日に噛むかな?とは思う。後は、真智子さんだけど…もう少し話を聞いてからでもいいんじゃない?思ったことを言ってしまったと言うのは分かるし。」
徳光は、眉を寄せた。
「じゃあ、君はどこが怪しいと思うんだ?」
冴子は、皆を見回して唸った。
「うーん、ホントにわからないの。よくみんな一回発言聞いただけであんなに考えられるなって思うぐらい。ただ、舞ちゃんのことは怪しんでないけど、武さんの必死さってちょっと異常に感じるのは皆と同じよ。狂人で、誰が狼なのか分かってないから、とりあえず舞ちゃんだけは守ろうって思ってるようにも見えなくはないわ。」
冴子さんも感情派か。
久司は、胸に刻んだ。
とはいえ冴子が狂人なのか背徳者なのか狐なのか、はたまた真なのかは人狼目線でも全く分からなかった。
徳光は、ため息をついた。
「しっかりしてくれ、占い師なんだろ?オレ達より情報が多いんだからな。今夜はグレー吊り、グレーを精査しないと。霊能者のことなんか聞いてない。」と、辛辣に言うと、目に見えてイライラした様子で、永宗を見た。「永宗は?」
永宗は、イライラしている徳光にびくびくしながら答えた。
「オレは、いくら占い師でも占ってないとこまで色はわからないから。まして昨日はお告げだったし。頭が切れないのに占い師になりやがってと思うかもしれないが、白先以外はオレだって村人達と同じだ。話してることを聞いた限りだと、他を黒塗りして吊ろうとしてるのが怪しいわけだろ?としたら、それをしたのは今のところ光晴、真智子さん、それから今武に黒塗りした拓也かな。だから、その中からだと真智子さんなのかな、って思うかな。」
徳光は、びくびくしている永宗に、さすがに感情的になるのはまずいと思ったのか、雰囲気を和らげて言った。
「それはなぜ?」
永宗は、答えた。
「みんなが怪しいと言うから。光晴は目立ってるし、拓也もその前の発言はみんなと違う意見でもハッキリ言ってた。真智子さんだけが、なんかちょっと適当に合わせとけって感じに見えた。隠れたい感じに思えたんだ。」
永宗なりに考えたようだ。
間違ってはいるが。
久司は、黙って聞いていた。
正高が、言った。
「まあ、今日は占い師は吊らないし、霊能者もだ。グレーなんだよ、グレーの中から怪しいところを吊るしかない。皆の意見を総合すると、なら真智子ちゃんと舞ちゃんのランダム投票ってことにするのか?だったらこの二人にもっと発言時間を与えなきゃならないし、他を精査するのなら他のグレーも話さないと。もう10時だぞ、みんな本調子じゃないんだから、さっさと決めろ。」
徳光は、正高にせっつかれて慌てて言った。
「そうだな、だったらとにかく今夜はその二人から投票しよう。休憩を挟んで、二人の意見を聞く。それでいいか?」
敦が、頷いた。
「良いだろう。ではそれで。時間を決めよう。次は、昼食後の13時にこちらで。真智子さんと舞さんは、その間に話すことをまとめて来るといい。」
二人は頷いたが、憤慨しているような真智子に比べて、舞の方は真っ青だ。
…狐かな?
久司は、なんとなくそう思ったのだった。