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教えて、先輩と婚約する方法

 イリスになった事に少し慣れると、元の友人とも以前と同じように付き合えるようになってきた。


「ねえ、アレン先輩、今日も素敵だよね」

「イリスは本当にアレン先輩が好きね。確かにかっこいいけど、私はロベール先輩の硬派な感じが好き」

「私はイリスと同じ、アレン先輩がいい!」


 友達と一緒に先輩たちを見て黄色い声を上げるのは、転生前と同じだ。


 私が憧れているアレン先輩は容姿端麗なだけでなく成績も良いらしい。立ち居振る舞いも優雅でファンが大勢いる。


 イリスはアレン先輩に一目ぼれして、先輩目当てで剣術部に入っていた。


 実はハセコ時代に好きだった陸上部の浅見先輩とアレン先輩は良く似ている。今では私もイリス時代の想いを引き継いでアレン先輩に夢中だ。


 私は浅見先輩の棒高跳びの姿を見て、一目で心を奪われた。身体を反らせながら空に軽やかに飛び上がる姿の美しさは、アレン先輩が、優雅な動きでふわり、ふわりと踊るように剣で相手を制していく姿と少し重なる。


 転生しても、好みも行動も変わらないものだ、と私はつくづく思った。


(でも、今回の私は最強アバターを手に入れている)


 もしハセコ時代の私が今くらいの美少女だったなら、神社に願掛けなんかしないで、さっさと告白していた。


 今の私がアレン先輩に想いを告げたら?


 ハセコの世界の倫理観と、イリスの世界の倫理観はかなり違う。ハセコの世界では男女交際には寛容だった。交際・破局を何度か繰り返しても、評判に傷がつくようなことは無い。


 しかし、イリスの世界の倫理観では致命傷となる。気軽な交際なんてあり得ない。家同士で婚約を決め、結婚に進むのが普通だ。アレン先輩から我が家に婚約を申し入れてもらうことで交際することができる。


『ねえ、こっちの世界で婚約の申し入れをしてもらおうと思ったら、何したらいいと思う?』


 ナカムラに聞いてみた。ナカムラは驚いたような顔をして、口に入れようとしていたサンドイッチを降ろした。


『何だよ、急に』

『だって、ヴィクトー婚約者いるじゃん。どうやって婚約に持ち込んだの?』


 ナカムラのアバターであるヴィクトーには1歳年下の婚約者がいる。彼女はまだ中等部の3年生だから、私は見たことがない。去年まで同じ校舎にいたはずだけど、去年はヴィクトーに興味がなかったので、婚約者にも興味なかった。


『俺の場合、生まれる前から家同士で決まってた。お互いの家に生まれた子供同士を結婚させましょうって。典型的な政略結婚だよ』

『それじゃ参考にならないじゃん。じゃあさ、もしもだよ、ナカムラに婚約者がいなかったとして、好きな子がいたら、どうやって婚約に持ち込む?』


 ナカムラが考え込む。


『まず本人に同意をもらってから、親に相談するかな』

『そうだよね』

『イリスには婚約者いなかっただろ。⋯⋯ハセコに婚約したい相手がいるってこと?』


 記憶によるとイリスにも婚約の申し入れは何件か来ていたのだが、ナカムラが言うように、事前に私の同意を求めた人はいなかった。きっと、家柄で申し込んできた政略的なものだろう。イリスは将来好きな男性が現れるかもしれないという理由で全て断っていた。記憶が復活する前の私も、夢見がちなところは今と変わらない。


『イリスに婚約者はいないよ。今、婚約申し込んでくれたらいいのに、って思う人はいるけど』

『じゃあ、俺に聞かないで、そいつに言えよ』

『それは無理だわ』

『⋯⋯身分?』


 貴族社会は身分にうるさい。特に男性の方が格下の場合は、結婚まで持ち込むのは難しい。私は男爵家の長女でうちに男の子はいない。だから、私は養子を迎えて夫に爵位を継いでもらうことになる。


 剣術部女子の情報だと、確かアレン先輩は男爵家の次男だか三男で継ぐ爵位がなかったはず。私とはちょうど良いと思う。


『身分は、たぶん大丈夫だと思う』

『じゃあ、何で無理なの』


 ナカムラの口調が少しキツい。この話題にイライラしているようだ。私の婚約者問題になんか興味が無いから面倒なのだろう。申し訳ないと思いつつ、他にこんな相談できる人がいないので続けさせてもらう。


『話した事ないから』

『はあ?』


 ナカムラは、口をぽかんとあけて私を見ている。そんなに驚かなくてもいいのに。しばらくしてナカムラはため息をついた。


『何で、話した事もないやつのこと好きになれるんだよ。理解できねえよ』

『そうか、話してみればいいってことね』


 ナカムラは眉間にしわを寄せて、不機嫌そうな顔でサンドイッチを口にいれて、もぐもぐした。私もサンドイッチの残りを食べる。


 話しかける、簡単そうでいて実はとても難しい。アレン先輩は大人気だから、2年生、3年生の上級生のお姉さま方が、いつも取り囲んでいる。1年生の私たちが入り込む隙がない。


 偶然出会っちゃおう作戦。それも難しい。まず先輩の行動パターンを把握する事が難しいし、偶然会えるとしたら高等部の廊下や剣術の稽古場周りだろうけど、人がいるから話しかけられない。


 大体、話しかけると言っても何を話せばいいのか。浅見先輩とだって二人で話をしたことは一度もない。


(あー、スマホ欲しい。部活、先輩、話題、って調べたい)


『そうか、スマホ!』

『ん?』

『ねえ、ナカムラ。全然関係ないけど、私、魔道具で作りたいもの思いついた』

『そうなの?』


 ナカムラは良く分からん、という顔をして、またサンドイッチに戻った。

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