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またまた侯爵家にお呼ばれしたぞ

 冬のミミズ捕りは少し辛い。外ではミミズが冬眠したような状態になってしまうので、トイプードルのようなふわふわした頭の教授が研究院の一角で作るたい肥の量を増やし、そこのミミズを捕らせてくれるようになったのだ。


「ほら、野菜のくずや枯れ葉が発酵する時に熱を発するから少しだけ温かいでしょう。ここは屋内ではないけど囲いも屋根もあるから雪も入らない。冬でもミミズがたくさん採れるわよ」


 実は、辛いと思っている理由は寒さではない。他にも虫がわいていることだ。生き物は好きだけど、虫とヘビは好きになれない。ミミズはポグちゃんのご飯だと思えば我慢できるけど、他の虫を見るとぞっとする。


 ミミズ捕りに行く腰が重くなった私を救ってくれたのはレオナードだった。充電池のポグーを見に来た時に、私が以前のように喜んでミミズを捕りに行かない事に気づき、笑いながら一緒に来てくれたのだ。


「僕は他の虫も平気だよ。イリスも、少しは女の子らしいところがあるんだね」


(少し?)


 レオナードの前では割とイリスの化けの皮がはがれてしまっている。それでも、何ごとも気にしない性質なのか、嫌な顔をしたりしないから助かる。


「あの子は、ちょっと移した方がいいかもね」


 レオナードは土のなかのポグちゃんたちの中から、少し様子がおかしい子を見つけ出すことが出来る。魔力計から推測する糞の量と、ポグちゃんが作る土の塚から読み取れるのだそうだ。私が教えた箸を使って、器用に土からポグちゃんを掘り出して確認する。


 様子がおかしい子を魔獣研究部に連れて帰って休ませ、代わりの子を連れてきてくれる。最近のレオナードを私はちょっと尊敬している。


 そんなわけで、フォーラム本体と蓄電池がある部屋にはレオナードも頻繁に出入りするようになっていた。レオナードがいるときには、私たちは前の世界の話をしないようにしている。


 一度だけ、レオナードもいるときにヴィクトーのことを『ナカムラ』と呼んでしまった事があった。ナカムラに『馬鹿!』という顔をされてあせったけど、レオナードは気づかなかったのか熱心に魔力計を覗き込んでいた。 



 冬休みに入る前に、ヴィクトーの母から意外な形での招待を受けた。王都の屋敷ではなく領地の方に、私とマノン、ハロルドを招待するという内容だった。


「困窮者への支援について、ぜひ実際のところを見て欲しいということだったよ」


 そういえばカメラで撮影しに来てほしい、とおっしゃっていた。マノンは侯爵夫人のフォーラム・バージョン3への投稿にとても興味を持っていた。私が聞いた内容はマノンに伝えたけど、質問が色々あるようだ。絶対に行きたい!と喜んでいた。


 招待されたのは、侯爵家のいくつかある領地のうち比較的王都に近い場所だった。とはいえ移動だけでも1日かかる距離なので、冬休みを使って数日間の滞在を勧められている。


 さすがに、独断では決められず両親に相談したところ、予想通りの反応が返ってきた。


「侯爵家からのご招待なんて! 断れないものなの?」


 父も母も、私が格式高い家で礼儀正しく振る舞えるとは思っていない。実際、私もあまり自信がない。でも侯爵夫人に教えて頂いた取り組みを、私も実際に見てみたかった。マノンとハロルドの両親は快諾しているということを伝え、なんとか許可をもらうことが出来た。


「あのイリスが、勉学に励んだり福祉に興味を持つなんて、素晴らしいお友達が出来たのね」


 そう、最近の私の成績は両親が驚くほど上がってきている。生物学者になりたいという目標が出来たし、分からないところはヴィクトー先生が教えてくれる。レオナードだって教えてくれる。


「レオナードは一緒に行かないの?」


 両親はレオナードのことが好きだ。先日、両親が屋敷にいるときにレオナードが大量の魔獣や生物学関係の本を届けてくれた。私に生物学者という目標を持たせ、今まで目もくれなかったような本に興味を持たせてくれた事に感激し、無理やり食事まで付き合わせていた。


「ごめんね、うちの食事はジャガイモばっかりでしょう?」


 父男爵は、とにかくジャガイモが好きなのだ。だからうちの料理人はジャガイモ料理しか作らない。家族はみな飽き飽きしているのに、父がそれだけは絶対に譲ってくれない。


「僕もジャガイモは好きだよ。それに、君の家族がみな温かいから、居心地よくてとても楽しめた。ありがとう」


 絶対にあんなにジャガイモばかり食べたくないはずだ。レオナードは優しい。


「今回は魔術道具の実習の仲間をご招待頂いているの。レオナードは同じクラスだけど、その仲間ではないの」


 両親はとても残念そうだ。


 今年の夏休みは魔道具に取り組んでいたので旅行には行っていない。しかも招待して頂いた土地には行ったことがない。わたしはウキウキと支度を整えた。



 冬休みも半ば終わり、年が明けてしばらく経った晴れの日。私たちは馬車に乗り合わせてヴィクトーの両親が待つ領地に向かった。


「ポグちゃんとこんなに離れるのは寂しい」


 さすがに、冬休みの間は学園からの予算を使ってポグーの世話人を雇った。雪が積もる王都では、毎日学校に行くだけでも大変だ。学園内も雪かきされていない所が多いので一人でうろうろするのは危険だと、生徒は立ち入りを出来るだけ控えるように指導されている。


 寂しいので1匹くらい家に連れて帰ろうかと思ったのに、妹に激しく拒否された。


「お姉さまお願い、家の中に魔獣とミミズを入れるなんて、絶対に嫌なの」


 使用人も気味悪がって嫌がった。図鑑を見せて可愛さを訴えてみたものの、妹が『ひいっ』と嫌がるのが可哀そうなのであきらめた。


「お世話してみたら可愛さが分かるのにね。姿は見えないけど」


 残念ながら、ナカムラも、マノンも、ハロルドも同意してくれない。レオナードならきっと分かってくれるはずだ。休みが終わったら言ってみようと思う。

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