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三日目

 三日目は何も出来ずにただ過ぎて行った。


 土曜日の空はよく晴れて、散歩日和だったが、ずっと部屋で過ごした。


 彼女は俺のツナギを洗濯してくれて、俺はテレビを観ながら、頭の中で色々と『ああしよう、こうしよう』と戦略を立てながら、それを実行はしないまま、平凡な時はただ流れて行った。


 まぁ、これで終わりなわけじゃない。


 四日目もあるんだからな。


 その四日目で彼女の愛が変貌するかもしれないが……。


 でも、こういう平凡な、長年連れ添った夫婦みたいな時間の過ごし方、もしかしたら結構ポイント高かったりしないだろうか。そんなことも思ったが、それにしては空気が緊張しすぎてるなとも思った。


 トイレに行こうと、洗濯をしている架純ちゃんの後ろを通った時、彼女の白いセーターの肩に糸くずがついてるのを発見した。


「あ。肩に糸くずついてるよん。取ってあげるねん」


 不自然にハイテンションの声でそう言いながら、俺が肩に触れようとしたら、彼女は毛虫にでも近づかれたように肩をビクン!と震わせた。

『通報すんぞ』みたいな表情でこちらを見る。

 俺は何も言えずにテレビの前に戻った。


 まだだ。

 まだ、彼女は俺に心を開いてくれてはいない。



 そうかと思えば、彼女にもその気があるように見えたりもする。


 ちゃぶ台を挟んで紙コップのお茶を二人で飲んでいる時、ふいに架純ちゃんが言い出したのだ。


「あたしってそんなに魅力ないですか?」


 何かを求めているような視線を俺に向ける。


 これは……


 愛してくれと、求められているのか?


 気持ちのままに抱きしめて、好きにしてもいいよということなのか?


 4日目になったら後悔するかもしれないんだぞ? 行け! 俺、行っちまえ!


 そう頭では考えながら、体は動かなかった。テへ、と気持ち悪い笑い声を漏らしてしまっただけだ。


 もしかしたら罠? とも思った。

 ここで俺が求めに応じて襲いかかったら、彼女は『レイプされる! 助けて!』とアイオク運営に電話をかける。警察が来て、俺を取り押さえ、彼女は返金する義務もなく俺とバイバイできる。そんな被害に遭った落札者もいるとネットで見た。


 いや、まさかな。架純ちゃんに限ってそんなことするはずないし。


 俺はただテレテレと頭を掻いて過ごし、架純ちゃんは退屈そうにスマホを見て過ごし、そんな感じで三日目は終わった。





「じゃ、また明日……。日曜日の12時に来ますね」


 そう言いながら彼女が赤いショートブーツを履く。


 時間は夜の9時だ。


「あの……」


 俺がそう言っただけで、架純ちゃんは察してくれた。

 にっこりと笑うと、その顔が近づいて来て、俺にキスをしてくれる。


 ちょっと温度が冷たいけど、ふんわり花の香りが漂うようなキスだった。


 顔を離すと、綺麗なアーモンド型の目で俺を見つめ、笑った形の唇を動かして、その口が言った。


「愛してますよ、コータさん」


「おっ……!」


 俺も……と言いかけて、慌てて止めた。


 俺も愛してる──そう言ってしまったら、俺は強制わいせつ罪で通報されてしまうのだ。




 何も特別な展開なく、三日目が終わってしまった。

 明日、彼女はどんな顔でこの部屋に来るのだろう?

 あの優しい笑顔が消え失せて、変貌してしまうなんてことは、想像も出来ない。

 彼女は純朴で地味可愛い、笑顔のよく似合う女の子なのだ。それ以外ではあり得ない。


 何も出来なかったが、俺のことを『誠実な人』だと言ってくれた。

『アイオク!』を利用する男は皆、不純なやつだと聞いている。そんな中で、俺の純真さは貴重なはずだ。

 少なくとも不真面目でいい加減な男だとは思われなかった自信がある。恋愛に対する真剣さはアピールできたはずだ。


 あ……。


 でも、そういう『いい人』って、女の子にとっては恋愛対象外だとも聞くよな……。


 あまり考えないようにしよう。


 今はただ、明日を待つだけだ。


 

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