表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

彼女はカノジョ

 次の日、いつものように歩いて店へ行くと、店先に桃花とうかちゃんの姿がなかった。

 いつもこの時間には店先に出て掃除をしているのに、なんだか違和感があった。


「おはようございます」


 中へ入るとおやっさんが帳簿をつけていたが、俺の顔をチラッと見ただけで、不機嫌そうに無視された。


「あれ? 今日は桃花ちゃんは?」


「てめえ……」

 圧し殺したような声で、おやっさんが言った。

「トーカになんかしたのか?」


「え……」

 なんだか不吉な予感がした。

「桃花ちゃんに何かあったんですか!?」


 おやっさんはまた黙り込んでしまった。

 わけがわからない。


「と……、とりあえず店先の箒がけして来ます」



 コンクリートの地面を箒で掃いていると、心配している当の妹の声が、背後から聞こえた。


耕兄こうにい……」


 ばっ! と振り返ると、パジャマ姿の桃花ちゃんが立っていた。パンダ柄のパジャマだった。ベリーショートについた寝癖がなんだか色っぽい。


「なんだ! 寝てたのか? 心配したぞ!」


 伏せていた顔を上げ、こっちを向いた。やたらと目が赤い。


「昨日……さ。たまたまなんだけど……夜に、耕兄のアパートの前、通りかかったんだ」


「何時頃?」


「9時過ぎだったかな……」


 ドキッ。


 架純ちゃんがアパートを出た時ぐらいだ、それ……。


「耕兄の部屋から女の人、出て来たんだけど……」


 やっぱりそれか!


 しばらく桃花ちゃんは何も言わずに、まるで泣き腫らしたようにも見える赤い目で、俺の顔をじっと見ていた。ヤバいな、ふしだらなことを俺がしていると思われているな、これは。何とか言い訳しないと……。


「もしかして……」

 唇を震わせながら、桃花ちゃんが急にぶっきらぼうな、明るく冷やかすような口調になった。

「カノジョさんか? ン?」


 これは助け舟だと思った。


「そ、そうなんだ! っていうか今はまだカノジョじゃないんだけど、結婚する意思があるんだ、俺。けっして不真面目な関係とかじゃないぞ? 勘違いすんな?」


「そっかあ!」

 なんか不自然なぐらい大袈裟に桃花ちゃんが笑い出した。

「カノジョさん、出来たんだあ!? よかったねえ! 耕兄、よかったねえ!」


 いきなり小走りで店の中へ駆け込んで行った。なんだったんだ……。






 架純ちゃんがやって来る土曜日まで、俺は色々と情報を集めた。

『アイオク!』で嫁をゲットしたとかいう話は今のところ皆無だった。

 だが『肉体的接触に我セイコウせり』みたいなエピソードはいくらか紹介されている。

 どうやら出品者との合意があればそういうことも出来るようだ。

 いや! 俺が求めてるのはそういうことじゃないからね!


 しかし、今のところ、彼女からキスしてもらうことは出来ても、俺のほうからキスすることは出来ない。

 彼女から手を繋ぐのはOKだが、俺のほうから手を繋いだら、彼女に通報されてしまう。


 こんな関係は嫌だ。


 ネットの情報によると、『アイオク!』利用者の中から逮捕されたユーザーが結構出ているようだ。

 出品者を落札者が愛したりしたら『強制わいせつ罪』になるらしい。

 ユーザーは運営に個人情報をマイカードナンバーまで登録しているので、逃げるのは不可能だそうだ。


 俺は頭の中でシミュレーションした。


俺『架純ちゃん! 君のことを愛してしまったんだ! 是非、本当のカノジョとして付き合ってほしい! そして、ゆくゆくは結婚も……』


彼女『規約違反です。通報しますね(にこっ)』


 警察が駆けつける。


ポリ『強制わいせつ罪だ! 現行犯逮捕する!』


 ガッシャーン!(←牢獄にブチ込まれる音)



 ……この惨劇を回避するにはどうすればいいか?


 彼女に本気で俺のことを好きになってもらえばいい!


 土曜日までに、計画を立てるのだ。


 俺の愛を、架純ちゃんが求めるように、何としてでも、するのだ!


 3日間で!


 出来るのか!?


 果たして!?


 出来るかどうか、ではない。するのだ!


 3日目に、俺は命をかける!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ