そして俺は彼女の愛を手に入れた
結婚式は小規模で、あまりお金をかけずにやった。
楓子もそれが望みだと言ったので。
「耕太、いい嫁さんを見つけたな!」
似合わない黒スーツに派手なネクタイをしたおやっさんに背中をばん!と叩かれた。
「このひとなら桃花がフラれたって仕方ねぇや。ハッハッハ!」
「耕兄、おめでとっ!」
かわいい薄青のワンピースに身を包んだ桃花がにっこりと笑う。
「架純さん……じゃなくて楓子さんもおめでとう!」
桃花の後ろで福士蒼汰にはあまり似ていないそこそこのイケメンが黙って立っている。
桃花は俺に失恋したあと、コイツにさんざん慰めてもらってから仲良くなったようで、今はコイツと付き合っているらしい。
友達として一緒に結婚式にやって来たが、噂には聞いていたが俺は初対面だ。
ボケーッと立っているソイツを見ながら、俺はおやっさんと声を揃えて、顔を歪めて桃花に言った。
「あの男はダメだ」
「あいつとはステディな関係なのか? ゆくゆくは結婚するつもりなのか? それなら俺が許さん」
それを聞いて、俺達の後ろから、
「アホですか?」
楓子がケラケラと笑いながら、口を挟んだ。
「恋愛は自由ですよ。恋する心は誰にも止められない。ね? トーカちゃん」
桃花はそれには答えず、うっとりと楓子を眺め、言った。
「綺麗……、楓子さん。あたしも楓子さんみたいなお嫁さんになりたいな」
ほんとうに、桃花の言う通り、なんて綺麗な花嫁だ。
地味顔だと思ってたけど、普段化粧っ気のない楓子がプロのメイクさんにかかったら女優のような美人に化けた。
こんな素敵な女性と俺、結婚するのか。
夢じゃないのか、これ。
「これからは桃花ちゃん、あたしの妹にもなるんだね」
楓子が桃花と手を取り合い、笑い合う。
「嬉しいな。ブーケは桃花ちゃんを狙って投げるから、しっかり受け取ってね?」
「それはいかーんっ!」
俺とおやっさんがまた声を揃えた。
「桃花の婿は俺が選ーぶっ!」
「もーっ! さっきの楓子さんの言葉、聞いてた?」
桃花がほっぺたを膨らませ、楓子がケラケラとまた笑い、福士蒼汰に似てないチャラ男は話題にされていることにも気づかずにボケーッと立っていた。
かくして俺と楓子は『アイオク!』から産まれた初の夫婦となった。
でもひとつだけ、世間に対して言っておきたいことがある。
俺たちはきっと、『アイオク!』ではなく、普通に出会っていたほうが、もっと早く、もっと素直に愛し合えていた。
出会いのきっかけにはなったが、やはり『アイオク!』で買える愛はニセモノだ。
俺たちみたいになれる可能性はほぼないと思っていい。
ただ──
俺たちは『アイオク!』を通じてゴールインしたが、それは記事にならない。俺たちが誰にも言いふらさないからだ。
だから、もしかしたら、俺たちと同じように、どこかに他に『アイオク!』を通じて愛し合えたカップルはいるのかもしれない。
まぁ、でも、そんなことはわからないし、そんなのはきっかけに過ぎない。
俺が言いたいことは、ただ、愛し合えるのって最高に幸せだってこと。
愛されるだけでもなく、愛するだけでもなく、愛し合うのがやっぱり一番だってこと。
俺、今が人生で一番幸せだ。
みんな、ありがとう!
みんなも是非、愛し合ってくれな!




