俺の愛を見せてやる!
架純ちゃんにコーラだと偽られ、ペットボトル入りの醤油を飲まされた。
「アハハ。一気飲みしてたら死んでたとこだ。可愛いことするね!」
架純ちゃんは舌打ちしながら一瞬、ホッとしたような顔をした。
架純ちゃんにネット記事を見せられた。
『変態クソ客がしつこくてタヒねって思う。本気で愛されてるとか思ってんだろうか? 頭がおかしいのだろうか?』
なんとなく本人が書いた記事のように思えた。
俺はにっこり笑った。
「アハハ。でも、そのうち『アイオク!』を通じて結婚しちゃうカップルだって出ちゃうかもよ?」
そう言うと、「愛してます! 愛してます!」と言いながら足で膝を蹴られた。
架純ちゃんが作って来てくれた切り干し大根を食べた。
中に砂がいっぱい混じってたので、スイカの種を吐き出すようにそれを避けながら、完食してみせた。
「ご馳走さま。架純ちゃんは料理が上手な上にイタズラ好きだなぁ。アハハ」
食べてる間は気持ち悪いものを見る表情で引かれていたが、俺が完食したのを見ると、架純ちゃんはなんだか悲しそうな、申し訳なさそうな顔をした。
しつこい男だろうか?
キモい男だろうか?
これだけ気のないことを態度で示されているのに、架純ちゃんを手放さない俺は異常だろうか?
お迎えしたけど全然懐かなくて、それどころか攻撃をしてくるネコを、それでも飼い続けるなんてのとはわけが違う。
相手は人間で、嫌がっているのが明らかで、それでも規約があるために俺のことを『愛してます』と言うしかない、可哀想な女性なのだ。
俺は『愛してます』としか言えない彼女の立場を利用して、彼女を拘束する、悪いやつなのだろうか?
いや、形だけのそんな言葉は空しいだけだ。
それを口にしながら暴力をふるわれるのは、悲しいだけなはずだ。
俺にはそんな女性の姿を見て喜ぶ性癖などない。
俺は、信じてるんだ。
何を? 何を信じてるんだ?
彼女がほんとうは俺を愛してくれていることをか?
そんなわけはない。それならとっくに俺たちは和解している。
彼女の中にある、優しくて、純粋な、綺麗な心を信じているんだ。
あの、最初の3日間で彼女が見せてくれた優しさは、本物だったと信じたいのだ。
あの、彼女が作ってくれた、おからの炒り煮の味が、忘れられないのだ。
俺が、架純ちゃんのことを、愛してしまったのだ!
幻想にとりつかれてると言われてもいい。俺には彼女しかあり得ないと思えている。
俺は架純ちゃんに『愛している』と言うことが、規約上、出来ない。
だから、行動で愛を見せるしか出来ないのだ。
この試練に耐えることでしか、そんな行動でしか、俺の愛を架純ちゃんに見せることが出来ないのだ。
ならば、見せてやる!
しつこいと言われようと、変態クソ客と言われようと構うもんか!
俺はただ、俺のために、自分の気持ちに誠実に、彼女を愛して、愛して、愛を貫いてやるんだ!
この先どうなるかなんてわからない。
どんな展開を自分が期待しているかもわからない。
それでも俺は、耐えて、耐えて、耐えることで、俺の愛を見せたいんだ。
それだけなんだ!
そのために、どんなことをされても、彼女を離さないぞ!
「ハァハァ……ゼェゼェ……」
「ハァハァ……ゼェゼェ……」
「し……、しぶといですね。これほどのことをされても……手放さないなんて。愛してますけど」
「ごめんね……。こんなことでしか……自分を表現できなくて……」
「誠実な人だって表現してみせたいんですか? 意味ないですよ? あたしはふつうに変態クソ客だなって思ってます。愛してますけど」
「そんなんじゃ……」
「仕方ないですね……。わかりました」
「え?」
「一回だけ、抱かせてあげます。それでいいでしょう? コータさんが規約違反行為をしたとは通報しません。わたしも同意した証拠を録音していただいて構いません。それでわたしも規約違反になることはないので……」
彼女の言葉を聞いて、目の前が真っ暗になった。
これが、架純ちゃんの、本心からの言葉なのなら──
「好きなように抱いてくれていいですよ。ただしこれ一回きりで、わたしを解放してくださるという約束……」
「帰ってくれ!」
俺は声を荒らげ、言った。
「そんな人だとは思わなかった」
「え?」
とても意外そうに、架純ちゃんが俺を見上げた。
「返品する! 帰ってくれ!」
「こ……、コータさん……?」
「もう顔も見たくない! 出て行ってくれ!」
彼女はあたふたと立ち上がると、自分のバッグをひとつ持って、逃げるように俺の部屋から出て行った。




