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架純さん

 呼び鈴が鳴った。


 小走りで俺は玄関へ向かう。


 部屋は隅々まで綺麗にしておいた。身なりも……よし大丈夫だ。



 玄関の扉を開けると、写真よりも3倍ぐらいの輝度で『ほんわり架純』さんが微笑んでいた。


 白いコートの上で、栗色のミディアムボブに縁取られた丸い顔が、可愛く前に傾いた。


「どうもこのたびはご落札いただきありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げると、綺麗なつむじが見えた。

「お邪魔してもよろしいですか?」


 目の動きがオドオドしてる。

 明らかに緊張している。

 この娘、慣れてないなと直感した。

 そしてそれは好印象だった。





 部屋に招き入れ、お茶を淹れようとした俺を、彼女が呼び止める。


「あっ……! お茶とか、わたしがやりますよ」


「いえ、ここは僕の部屋なので、お客さんは貴女なので……」


「あっ。そうですね……。でも……」


「そんな気を遣わないでいいですよ」

 にっこり笑ってみせたが、かなりカチンコチンな笑顔になってしまったように思う。




 ちゃぶ台を挟んで、畳の上に敷いたニ枚の座布団にそれぞれ正座して、向かい合った。間の悪さを埋めるように二人とも、お茶ばかり飲んだ。


 会話がゼロなので、俺のほうから口を開いた。

「き、緊張しますね」


「そ、そうですね……」


 会話が途絶えた。


 彼女も何か話さなければと思っているようで、俺の部屋をゆっくりと見回している。

 だが、俺の部屋には褒めるところが何もない。六畳一間の和室のワンルームには、取り立てて話題にするようなものはほぼ何もない。

 せいぜい『畳の部屋っていいですよね』、あるいは『カッコいいゲーム機ですね』とか『ふつうのテレビですね』とか、せいぜい『窓が南向きでいいですね』と言えるぐらいだ。


「あ……、あのっ……!」

 勇気を振り絞るように、彼女が言った。

「あっ……、あっ、愛してます!」


 しらけた空気が漂った。


「えっと……」

 俺はその空気を払拭しようと、

「どんなところを愛してくれてますか?」

 質問なんてしてしまった……。


「そのっ……!」

 架純さんを困らせてしまった。俺のバカ!

「その……。目が2つあって……鼻と口がひとつずつなのが……。あ、いえ! 誠実そうなところです! 誠実なところを愛しています!」


 わぁ……。出会ったばっかりなのに俺、誠実な人に確定されちゃったよ。

 せめて『誠実そう』で止めておいてくれたらよかったのに……。


 俺を照れ笑いさせただけで、彼女はまた黙り込んでしまった。

 うつむいて、お茶を飲む、その唇が、今にも何か喋り出しそうで喋らない。


 俺は彼女の唇に目が釘づけになっていた。


 リップクリームしか塗ってないのに唇がピンク色だ。


 キスしたくてたまらなくなった。


 いい……んだよな? 彼女の愛を、俺は落札したんだから。


 いやだめだだめだだめだ! そんなことをしようとしたら、拒否されて、結局キスは許してもらえないまま、俺はカラダ目当ての男と見られて、返金可能期間の3日が過ぎたら彼女は冷たくなってしまうに決まっている!


 この3日間が勝負なんだ。


 この3日で、俺のいいところを彼女に見せて、彼女に本物の恋人になってもらうんだ!


 是非、本気でお付き合いしてほしい。

 そう思えるほど彼女は俺の好みに完全にハマっていた。

 3日間を恋人同士として楽しんで、3日目で返金リクエストするという悪い考えもじつはないではなかったが、いやこれで返品リクエストできるやつは賢者だろ。仙人だ。人間じゃねぇ。


 こんな地味可愛い女の子が俺の部屋に存在してくれてるなんて、それだけでも落札価格83,210円の価値はあると思えた。



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