ネット掲示板の声
架純ちゃんも桃花も帰ってしまい、部屋に一人取り残された俺はすることもなく、パソコンを開いた。ああ……本当は架純ちゃんと二人で観ようとロマンチックな映画を用意してたのに……。
いつものネット掲示板にアクセスし、いつものスレッドを開く。
『アイオク! 落札者情報交換スレ』だ。
いろんな体験談が披露されている。まぁ、本当か嘘かはわからないが。
『有村架純を落札して恋人関係になった』……これは明らかに嘘だな。
『写真とまったく違うドブスが来たので即刻返金リクエストした』……これはありそうだ。
『3日間存分に愛させておいて、ギリギリで返金リクエストした』……鬼畜め!
見ていると、四日目に変貌されて泣いているやつが大勢書き込みをしていた。
『わかってたんだけど……、実際豹変されてみるとこたえるな』
『我慢せずに四日目になったらこっちから返品したほうが賢いと思う』
『あいつら早く次の出品がしたいから、あの手この手で返品させようと酷いことするぞ』
『とにかく【愛してる】さえ口にしとけば何やってもいいと思ってるから、容赦ない』
『俺、【愛してる】って言いながら顔面にオナラ喰らわされた』
ゾッとした。
まさかあの架純ちゃんが……そんなことは……するはずがないと思ったけど、でも……いやまさか。
ふと見ると、すぐ隣に気になるスレッドを発見した。
『アイオク! 出品者専用スレ』
架純ちゃんがもしかしたら書き込みをしているかもしれない……。
そう思って、また出品者の声も覗き見てみたいと思い、俺はそのスレを開いた。
ちょっと気になる書き込みがあった。
『落札者さんの部屋に行ったら、クリームシチューを彼が作ってくれてました。規約違反だから食べれないって断ったけど、食べなくて正解ですよね?』
それについていくつかレスポンスがついていた。
『げ! それ、何が入ってたかわかんないよ! 唾とか入れられてたかも?』
『唾だったらまだいいわ! もっと怖いもの入れられてたかもしれないよ!』
もっと怖いものって何だ……。
入れるわけないじゃないか。
入れてたものがあるとしたら、俺の真心だけだ。
なんだか悲しくなって、『落札者スレ』のほうへ戻った。
同士に俺の気持ちを聞いてもらいたくて、書き込みをした。
「落札したのがすごく好みの女性だった。本当の彼女にしたいんだけど、無理かな?」
するとすぐに2件のレスポンスがついた。
『何日目?』
『やめとけ』
俺が「四日目」と返信すると、次々とレスがつく。
『四日目で変貌しなかったの?』
「したといえばしたけど、そんなにひどくはなかった」
『相変わらず優しかったってこと?』
「どうかな……。妹が一緒にいたから変貌しきれなかったのかも」
『脈がありそうなのか? 成功したら教えてくれ』
『もしかしてキスとかしたの?』
「うん。キスしてほしいってお願いしたら、してくれた」
『まじか! ふつう、そこまでせんぞ!?』
『裏山! 俺、キスしてよってお願いしたら、そこまでは出来ません愛してるけど、って断られたぞ!』
『聞いたことがない! 出品者がキスしてくれるとか!』
「そ……、そうなの?」
『それは脈ありかもしれん!』
『キスしなければいけないなんて規約はないからな』
「希望ありってこと?」
『出品者の過去の出品一覧は見た?』
「あ……、見てないな」
『見てみたらいいよ。男を騙し慣れてるような出品者は短期間で出品を繰り返してるからすぐわかる。そういうのでないなら希望ありかもな』
「み……、見てみるよ」
そういえば架純ちゃんのプロフィールは繰り返し見たけど、過去の出品履歴は見ていなかった。気づかなかったのだ。
アイオク! に飛び、自分の落札履歴を開く。もちろん『ほんわり架純』一件だけだ。
彼女の出品履歴を恐る恐る開くと──
2件だった。
1件はもちろん、俺。
その一週間前に、他の男に落札されている。
オークション期間の3日を差し引くと、そいつに落札されてからちょうど4日で次の出品を行ったことになる。
……。
どう受け止めればいいのか、ちょっとわからなかった。




