表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

第7話:難しい2択。デリカシー、とかじゃない。

 注文して、少しすると料理が運ばれてくる。

 俺と拓海と、なぜか玲那の3人で、全員分のドリンクバーを取りに行くこととなった。かわいそうに完全に男扱いとなっている玲那は、やはり納得がいっていないようで、ぶつぶつと何か言っている。


 そこを拓海が不用意に励ます。


 「まーまー、ボーイッシュも良いって」


 「うるせえ!」


 やはり玲那はキレる。

 俺はそのやり取りから一線引いて、というか前に出て、さっさとドリンクをコップに入れる。

 コーラとオレンジジュース。俺は炭酸が好きだが、葵は好きじゃなかったはずだ。


 俺はとっとと席に戻ろうと思ってたのだが、拓海ではなく玲那に呼び止められた。拓海なら無視したのにな。


 「私は、男っぽいのか?」


 落ち込んでいるというよりは、マジな疑問っぽい様子だ。

 正直なところ、男に見えなくもない。化粧が薄くて格好も男っぽいから。ただこれで男なら拓海より女顔、そして破格の美形となる。


 ただこれを言うと肯定することになるので、とりあえずは別の答えを言っておく。


 「まさか、お前は間違いなく女の子だ」


 「女の子言うなっ!」


 ……え? 予想外だ……

 こいつ男になりたかったのか。新発見をしてしまった……


 ショックを隠せるか不安だが、とりあえず席に戻ることにする。





 「葵、オレンジジュースで良かったか?」


 「うん、ありがと」


 オレンジジュースを葵の前に置くと、満足そうに微笑んでくれた。俺の記憶は間違いじゃなかったらしい。


 俺が注文したのは、ハンバーグ。それにチーズが乗っているもの。葵も同じものだ。ただ量が少ないのは、やっぱり女子ということだろう。

 弁当箱もすごく小さいからな。


 全員揃うのを待ってから食べ始める。

 のだが、食べ初めて数秒。俺のポテトが消失した。


 「……拓海……」


 仕返しに俺は、拓海の皿を奪った。


 「ちょっと! それちょっとした悪戯じゃねぇよ!」


 皿を取り返される。

 なんか静かだ。どうもふざけているのは俺と拓海だけで、皆さんせっせと食べているようだ。


 「よし、食うか」


 「そうだな」


 とりあえずファミレスだし、食べ始めることにした。


 少しすると、横から腕をつかれる。横に座っているのは玲那だ。


 「冬真、口開けて」


 「……もうちょっとそれっぽく頼……」


 ちょっと無茶を言ってみようと思って思い出した。こいつは、確か男に憧れているとかいないとか、あまりそういうことをさすべきじゃないな。


 「あ、ああ……何かくれるなら俺が自分で……」


 「何に気使ってるのか知らんが、いいから口開けろ。はいあ~ん」


 やる気なさげだが、とりあえず言われたとおり口を開けると、でかいステーキを掘り込まれた。

 殺す気か! のどに詰まる!


 「んん!」


 「おいしい?」


 「う、うまいがでかい……お前、男っぽい料理だな」

 

 玲那の前には誰もが満足といった、ボリュームのあるステーキが置かれていた。


 「そうなんだよね……ちょっと食べきれない」


 「あぁ、そうか。ただ俺もそれなりにボリュームが……」


 俺だってフードファイターじゃないさ。


 「玲那、俺も手伝おうか?」


 「マジ? じゃあ佐山、はい、取って」


 「え? あ~んっていうのは?」


 「は? 私がそんなことあんたにするわけないじゃん」


 「冬真にはしてたじゃないか……」


 「だってめっちゃしてほしそうな顔してたし」


 「マジかよ!」


 これは俺が叫んだ。あ~んしてほしい顔ってどんなんだ?


 「俺だってしてほしいぞ!」


 お前プライドはないのかよ。そう思ったが、俺はしてほしそうな顔をして、突っ込まれたことになってるので、言える立場じゃない。


 「佐山は露骨に顔がエロいんだよ……」


 「露骨に傷つきましたよ……」


 さすがに哀れと思ったのか、玲那が食べさせてやると、拓海は一気にテンションを持ち直した。


 とりあえず、うるさいのに挟まれてるので、前を向くと、真正面に座っている葵と目が合った。

 

 「と、冬真。あ、あ~ん」


 「俺、お前と同じの食ってんだけど?」


 「あっ、いや……いいの! 私のは、味が違うと、思うから……」


 どういう理屈で味が変わるのか知らんが、突き出してくれたハンバーグを下ろさせるのは気がひける。

 まあそれでいいのなら、食べるくらいはいいけど……


 口を開けると、ハンバーグがはいってきた。


 「おいしい?」


 「ああ、うまい」


 俺のと同じでな。


 意味があったのか知らないけど、「良かった~」と、葵は満足そうだ。


 そしてすぐ横の拓海、柊ペアでも妙なことが行われていた。


 「目を閉じて、口をあけて……」


 「はいはいはい!」


 やたらといい返事をして、拓海が言うとおりにすると、その口の中に、赤いレタスが入れられた。

 ……赤いレタス?


 「ぐあああああ! 口がァ!」


 「おいしい?」


 「う、う、うま……い……よ」


 「そうでしょう、スパイシーで」


 サラダにそこまで強烈なスパイシーは必要か? 


 「優那、あなたもやってあげたら……」


 「へっ? 誰に?」


 「玲那に」


 「そんなの、やってもしょうがないんじゃない?」


 「食べさせてもらって、嬉しくない男はないわよ。ほら、佐山君も嬉しさで言葉も出ない状態だもの」


 「待て! それ以前に私は女だ!」


 玲那の演技をさらっと無視すると、柊は何かを優那に耳打ちしていた。

 すると、分かりやすいほど一気に顔が赤くなり、しばらく考え込んでいたが、決心したように顔を上げた。

 そしてチキンにフォークを指して、優那ちゃんは玲那の口元に突き出した。


 「あ、あ~ん。お姉ちゃ……お兄ちゃ「沙羅! うちの妹に何を吹き込んだ!」


 玲那の抗議を、柊は無視する。というか聞こえていないようにも感じる。

 何かに夢中であるかのような……


 「は、早くっ」


 「あ、あの、恥ずかしいんだが」


 「私もだよ……お兄ちゃん」


 「……その呼び方はやめろ」


 ほんとに柊は何を吹き込んだんだ?


 「な、なんか……興奮するな……」


 「な、なんだろうな……」


 しかし、俺も多少変なものは感じていた。

 この、なんというか禁断というのか……。


 「……はむっ」


 「お、おいしい……?」


 「う、うん……」


 「――ぷふっ」


 玲那の口からフォークが離れた。

 直後、柊が立ち上がりトイレにかけていったが、何があったんだ?


 「お前、ほんとに兄でいいんじゃねえか?」


 「なっ! 佐山まで何を言いやがる!」


 玲那が立ち上がり、フォークを佐山に突き刺そうとした。

 正直そういうところが女子っぽくないのだが、こいつはどっちかというと、男子に近づこうとしているようだしな。


 「でも、お兄ちゃんっぽいよね」


 「葵まで……」


 「うん。こんなお兄ちゃんなら私もほしい」


 「……冬真、もう一度聞きたいんだけど。私は男っぽいか?」


 「当然。お前は男の子でも、問題ない」


 「うるせえーっ!」


 玲那は、トイレのほうに走っていってしまった。店内を走り回るのは、迷惑だぞ?

 しかし、俺何か悪いこといったか? 結局分からないのだが、あいつは女の子らしくいたいのか? まぁ普通はそうなんだけどな。


 女だけど、女の子扱いされたくない。うーん、女心って分からないな。


 俺が考えていると、柊が帰ってきた。


 「玲那とすれ違ったんだけど」


 「ああ、よく分からねえけど走っていった」


 「そう、じゃあ私はもう一度お手洗いに……」


 「待て、何するつもりだ?」


 「女性にそんなこと聞くの? デリカシーがないわね」


 ……そう言われてみれば、その通りだ。

 確かにデリカシーの欠片もない発言だったかもしれない。


 「襲いに行くのよ」


 「だから待て! そんなやつにデリカシー云々言われてたまるか! さっきは何しに行ったんだよ」


 「鼻血を止めに」


 「お前やっぱ危険人物だ!」


 何かの衝動に駆られて、危険な行為に走りそうな柊を止めつつ、玲那が帰ってくるのを待つことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ