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第3話:三つ巴、悪魔と女の子とハムスター

ちょっと無理がある、気がしてならないです。

 俺の切なる願いが通じたのか、担任は教室に入ってきた。

 顔なじみのある教師だ。去年も俺のクラスの担任をしていた菅原先生。ギリギリ20代、まあ俺の予想なんだがそれくらいの歳の女性教師だ。


 教室に入るなり、俺の顔を見て肩をすくめる。そして入り口付近の席の拓海を遅れて発見し、盛大なため息をついた。自分のクラスの生徒くらい確認してから来てるだろうが、いまさらそんな反応やめろよ。


 「不本意ながら持ち上がりで、またこの学年を受け持つ菅原だ。俺の顔を見るのはもう勘弁という輩もいるだろうが、こっちのセリフだ」


 いきなり俺たちを輩扱い。しかもこの男勝りというか、男言葉。相変わらずだ、彼氏なんぞできるはずも無い。


 「時に柊。俺はこのクラスの生徒を確認したときに、できるだけ授業に近いものになるようにと考えて席順を決めたのだが、お前はその本来席の無い場所にいる。戻れ」


 「お言葉ですが先生。元の席でも授業に近いものにはならないと思います」


 今思えば、突如俺の席は1つ前に進んだのかと思ったりもしたが、柊のいる位置は不自然だ。まあはみ出していることはいいことだ。危険人物だから。


 柊の、菅原先生の決めた席順を否定する発言に、先生は少し怒り気味に聞いた。


 「なぜだ?」


 「佐山君から半径5メートルの範囲に女生徒を配置すべきではないです」


 「それどういう意味ですか!?」


 佐山が立ち上がり抗議する。確かにそれは酷い、3メートルくらいが妥当だろう。


 「バカが移るわ」


 「それ男でも一緒じゃねえか」


 「男は最初からおバカなのよ……」


 ねぇ、と俺に同意を求める柊。なぜ俺だ、俺がバカだとでも言いたげな顔だな。


 先生はこのやり取りに、納得したわけでもないが、どうもめんどくさくなったらしい。頭をかきながら、少し考えた後に、提案した。


 「席替えやるか?」


 俺としては大歓迎だ。


 「では席順は私が決めますね」


 「勝手にしろ」


 先生は教卓にもたれかかって、めんどくさそうに教員手帳を開く。きっと問題生徒、柊、と書き込んだに違いない。

 というかこれ完全に柊ペースじゃないか。


 ……私が決めますね?


 「ちょっと待て、お前どうするつもりだ」


 「……私が信用できない?」


 「できな……」


 言い終わる前にカッターナイフが俺の目の前を通過して行った。

 朝一の彫刻刀といい、暗部の連中の沸点がイマイチ掴めねえ。


 「……永野君、私のことなんだと思ってるの?」


 鬼か悪魔の類、下手をすれば死神とかいう設定が隠れてるんじゃないかと思ったりもしているが、これを口にすると日本刀くらいなら飛んできそうなので笑ってごまかす。


 「別に心配しなくても、ちゃんとみんなが納得できるようにするわよ」


 異様な説得力、しかし騙されてはいけない、のだがこれ以上下手に動くと死にかねない。


 「ちょっと沙羅ちゃん」


 身動きの取れない俺に代わって、さっきまで下を向いていた葵が動き出した。

 いいぞいいぞ葵。がんばれ葵。


 「私も手伝うよ」


 「……」


 無言でなぜか俺を見る柊。せめて葵を見ろ。


 「まぁ、いいわ」


 俺を見たまま葵に返事をする柊。別にいいけど、話すときは話す相手の目を見るもんだ。


 「あ、あの……」


 ここで新たなる生徒か介入してくる。どうも皆さん席順が気になってしょうがないようだ。

 まあ新学年スタートから、なじむまでの高校生活、席順はかなり重要といえるな。


 「私も、お手伝いします」


 そういって俺の隣、というよりは柊と向き合える位置まで歩いてきたのは、またまた俺の元クラスメイトだ。まあ今年も一緒なんだが、去年も一緒だったってことだ。


 彼女の名前は岬優那。ショートヘアで赤っぽい髪の色。去年で俺が持った印象は、おとなしいということに尽きる。

 目が若干たれ目で、余計にそう感じさせる。去年もクラスが違い、今年も違うようだが、こいつには双子の姉が同じ学校にいる。性格と髪型と目の形以外はそっくりな姉妹だ。


 俺の顔を見ると、軽く頭を下げて挨拶してくる。和むねえ、こういう子は。


 その様子を見て何を感じ取ったか、柊の口角がいつも以上に上がっているように見える。

 笑顔という表現でいいだろうけど、邪悪だ。


 「いいわよ」


 柊は簡単に了承した。

 何か企んでいるわけでもないのか。


 「まず永野君はここね」


 柊は俺の席に教室の真ん中を指定した。何でまたそんな場所に。


 俺の不満を感じ取ったのか、柊が釘を刺す。


 「バカに拒否権は無いわ」


 拒否しないと俺がバカみたいだから、拒否したいところだけど、どのみち俺の意見がとおりそうも無い。


 「俺の席は?」


 拓海がニコニコ笑顔でやってきた。とりあえずこぶしをぶち込みたくなったが、ここは抑えておこう。 拓海の顔を見て、柊は笑顔で天井を指差した。


 「逝ってきなさい」


 どうやら天井じゃなくて天国だったようだ。

 拓海は不服そうだ。そりゃそうだよな。ほぼ直球で死ねって言われただけだし。


 「私はここがいい」 


 葵が指定したのは、俺の席の隣だ。まあ葵なら横にいてくれると、結構助かることもあるかもしれない。俺としては大歓迎なんだが……


 「いいわよ、それで」


 柊は予想外にも1つ返事でOKだった。

 しかし、ここでおとなしかったはずの優那ちゃんが一歩出た。


 「わ、わたしもそこがいいですっ」


 なんとも予想外の発言だ。

 このやり取りを柊は楽しそうに、拓海は恨めしそうに見ていたが、これだったら俺が退いたらいいんじゃねえか?


 思い立ったらすぐ言ってみることとしよう。


 「じゃあ俺別の場所でいいから、2人で並べばいいじゃん」


 「「え?」」


 なぜか2人は目をパチクリさせて、俺のほうを見ている。そして柊は珍しく声を上げて笑っている。

 これってナイスな提案じゃなかった?


 「い、いや……別にそこまでこの場所じゃなくてもいいかな」


 と、優那ちゃん。でも指定した場所を俺のためにあきらめてもらうなんて悪い。だって俺この場所に執着無いどころか、どっちかというと嫌だし。


 「いいって、気にするな。2人で座ってたらいいから」


 「いや、だからさあ」


 葵まで。2人がその場所がいいなら俺は全然そんな席に執着無いというのに。

 というかさっきからずっと、声は収まっているが笑顔でいる柊は、何が面白いんだろう。


 拓海はさっきからなぜか動きが無い。

 騒がしいの代名詞、佐山拓海らしくもない。


 「なあ、どうすればいいと思う」


 そんな拓海に現状打開策を求めてみた。


 「お前が死ねばいいよ」


 「なっ、今日お前酷くねえか?」


 やはり俺は嫌われているのか。去年もなぜかどさくさにまぎれて闇討ちされそうになったり、周りの男どもがおかしくなったりすることはあったが、ここまでストレートなのは無かったぞ。


 なんか気づかないうちに、葵と優那ちゃんの間にも不穏な空気が流れ始めている。

 譲り合いから喧嘩にでもなったのか。全く親切というか良い子過ぎるだろ。俺が譲るといっているのに。


 「葵も優那ちゃんもさ、俺どっちかというとそこ嫌だから。2人で座ってよ」


 「えっ? ……そうなの」


 「……永野君、嫌……ですか」


 余計に空気が悪くなったような、これはどうもまずい状況だと、俺の第6感が教えてくる。

 この際柊でもいいから笑っていないで助けてほしい。


 「彼もきっと本心ではないわ」


 そんな俺に助け舟を出してくれたのは、やはり柊。いや柊様。

 鬼? 悪魔? 死神? そうではなく間違いなく彼女は天使だ。今だけな。


 「まあ、冬真だしね」


 「そうです……永野君ですしね」


 空気が軽くなった。それはいいんだが、その理解はどうかと思う。

 あと、教室の真ん中だなんて位置は、心のそこから好ましくないと思っているんだが。


 「期待通りに面白かったわ。私は満足したし、席替えしましょうか」


 柊は、クラス全体に呼びかけた。その手には、即席で作ったと見られるくじがあった。

 ずっと笑いながらせっせと作っていたのか? なんか気持ち悪いな。まあ仕事が速いのは認めるところだけど。


 しかし流石は柊というのが、その一言でクラスの生徒全員が、指示通りに動いて席替えが進むのだ。


 「永野君。席、どこですか?」


 優那ちゃんが俺に聞く。俺の席は、一番廊下側の列の、真ん中の位置。まあ悪くない位置だ。

 ただそのことを伝えると、優那ちゃんは肩を落として「そうですか……」と、なんだか落ち込んでしまった。


 「冬真の席そこ?」


 葵が俺の座ろうとしている席を指差して聞く。うなずくと、ちょっと微妙な顔になって、教室の真ん中の、先ほどまで座りたがっていた席に着いた。

 いいじゃないか、座りたかった席に座れて。何がいけないんだろう。


 柊の席は俺の席とは真逆。一番窓側の列だ。

 とりあえず俺の落ち着いた高校生活2年目は保障――


 「あ。冬真そこ? へへ、俺となりじゃん」


 ――されなかった。

 とりあえず言っておく。最悪だ。

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