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第2話:新クラス、結構知ってる顔が……

 俺と葵は、行動時間をずらすことによって同居しているという事実を隠している。

 だが時間をずらすことによって、葵が遅刻するわけにはいかないので、俺の登校する時間は少し早い。

 そもそも感覚が違うのだ。俺としては遅刻ギリギリで良い派なんだが、葵はやっぱり余裕を持った計画を立てる人間だ。


 1年のときは、俺の教室に入るくらいの時間帯には、4分の1にも満たない人数しかいなかった。

 だが今日は2年生最初の授業。クラスも変わっているため、投降時間が早い生徒が集まっているかもしれない。


 まあ生徒が集まるまでの20分足らずの時間のことだからどうでもいいのだが。

 

 俺のクラスはFクラス。AからFの中のFクラスだ。別に成績最悪の生徒が集まってるわけでもない。

 

 とりあえず教室の戸を開けた。

 すると、俺の目に、物理的に何かが突っ込んできた。


 「イテェ! なぜ新クラスでいきなりこんな仕打ちを……!」


 まさか、拓海の言うとおり俺は嫌われていて、男子生徒による俺への攻撃なのか。


 考えていたのだが、思考は中断させられる。

 なぜか突然の無重力体験。視覚が奪われているため、何が起こっているのか理解できない。俺は情けない声を上げて、地面に叩きつけられた。


 「いってー……一体何が」


 「おはよう、永野君」


 「て、てめぇか柊……」


 柊沙羅。朝っぱらから俺に目潰しからの投げ技を叩き込んでくれた、ろくでもない女の名前だ。

 去年も同じクラスだったのだが、また同じクラスで1年過ごすと思うと目眩がする。

 とんでもなくガサツな女、というわけでもない。成績優秀で、スポーツ万能。言葉遣いも丁寧で、いちいち動作が華麗で男子からの人気がすさまじい、まさに文武両道才色兼備。


 ガサツなのにここまでパーフェクトなのが、実に腹立たしい。


 「この程度の攻撃、かわしてくれないと」


 「かわせるかっ」


 まだ腰が痛い。こいつは中学まで柔道部だったらしく、聞いた話では中学女子の部全国準優勝だとか。

 こいつに勝った奴はどんなマウンテンゴリラだったことか。想像するだけでも怖い怖い。


 「私が認めた男なのに」


 「認めてもいらねぇよ」


 視界も復活し、腰の痛みも引いてきたが、気分はそれなりに最悪だ。

 そんな俺の様子を見て、なぜか。いや、前の1年で分かったことがある、こいつはドSだ。きっと腰を抑える俺を見て喜んでいるに違いない。

 満足そうに微笑むと、腰まである長い黒髪を揺らしながら向きを変えて、自分の席に戻った。

 まさか俺への襲撃のために構えてたのか?


 「と、冬真……お前、葵ちゃんがいながら……別の女とイチャイチャしやがって!」


 「なっ! 拓海、お前いたのかよ。つーかいたなら見てただろうが! なんでそうなる」


 バカな拓海は怒っていた。つーか葵ちゃんがいながらって、あいつただの幼馴染だから。

 

 「うるせー密着しやがって!」


 「理不尽だろ! こっちは視界奪われて投げられてんだぞ!」


 俺が拓海に文句を言い終えるのと同時に、どこからか何かがすごい速さで飛んできた。

 空を切りそれは、俺の頬をかすめていった。


 「彫刻刀じゃねぇか! 洒落にならねーぞ」


 俺の頬からは、一筋血が流れていた。なんかひりひりする。


 「きっとそいつらは暗部だ」


 「なんだそれ」


 「柊様に近づく虫を暗殺する特別部隊だ」


 「こわっ」


 つまりここの連中は、好きな女子のために男友達なら容赦なく殺しちまうのか。


 「気をつけるんだね」


 「一応お前は心配してくれるのか……」


 「葵ちゃんをガサツに扱った日の夜には、戸締りをしっかりすることだね」


 こいつやる気だ、俺の寝首をとる気満々だ。

 一瞬でもやっぱりこいつは親友とか思った俺が間違っていた。


 「じゃあとりあえず柊に言ってくるよ」


 「なにを?」


 「いや俺に近づくなって」


 柊の席に向かおうとしたら、おれのわき腹に拓海の足が撃ち込まれてた。

 無駄に体鍛えやがって、めちゃくちゃ痛いじゃねえか。


 「何しやがる」


 「お前こそなんてこと言おうとしてやがる」


 命が惜しいから、柊との距離をとろうとしているだけじゃないか。


 「言ってることめちゃくちゃだろ。理不尽だ」


 「いや、お前の存在自体が罪なんだから死を受け入れろ」


 この学校に俺の友達っていないの? というか拓海は何で怒ってるんだ?


 わけが分からない。何で俺は朝から目潰し、投げ技。そして彫刻等による攻撃、最後には拓海の中段蹴り。俺の高校生活は苦痛に満ちている。なぜ?


 もしかして本当に俺が悪いのだろうか。


 「おはよーっ」


 殺伐としていた空気をまとめて吹っ飛ばして教室にやってきたのは、幼馴染の葵だ。朝も普通に会っているが、そのことは基本的に秘密だから、今日初めて会った感じで挨拶しておく。


 葵がやってくる時間は、登校してくる丁度良い時間帯だ。ここから教室にはぞろぞろと生徒が集まってくる。

 何人か固まって入ってきた生徒の中に、ものすごく目立っている生徒が1人。去年もクラスが同じだった男だ。


 「おっ。武蔵じゃん」


 拓海もすぐにその存在に気づき声をかけた。その生徒の名前は宮木武蔵。何か足りない男だ。

 初めて名前を見たときに、おしいっと心の中で思ってしまった。

 会ってみるとさらに惜しいのだ、なぜなら。


 「拓海殿、冬真殿。お久しぶりにござる」


 しゃべり方がそれっぽいのだ。しかも長い髪を後ろで1つにくくって、その髪型もなんかそれっぽい。

 顔つきも声もそれっぽく。10人に9人が高校生だと見抜けないだろう。


 銃刀法違反という法律の廃止と、今一度侍の世を、と常々言っている。絶対にどっちも無理だと思うが聞きゃしない。

 つまりただの歴史オタクだ。

 好きなものを聞いてみれば剣と妹とメイドさん。つまりただのオタクだ。


 「お前、その侍語で話すのやめろよ」


 「良いではないか、これが自然なのだ」


 むちゃくちゃめんどくさい男だ。


 「むっ、そろそろ始業時間にござるな」


 武蔵に言われて時計を見ると、確かに始業の時間が近い。席に着くとしよう、と思うのだが俺の席はどこにある?


 「そうだねー。あと、お前の席ならあれ」


 拓海が指差した席は、窓側の一番後ろ。授業をサボるにはもってこいの場所だ。

 静かで快適で言うことなしだな。

 

 席に座って、とりあえずせっかくの窓際。眺めを楽しんでみることにした。


 ……中庭だ。そして向こう側の校舎が見える。


 「あっ、冬真。席となりだね」


 となりは葵だった。とりあえず拓海じゃなくてほっとした。

 

 「となりが葵かー」


 「えっ? 嫌かな……」


 「いや全然」


 嫌なはずが無い。むしろ俺としては葵でよかったとさえ思っているのに。


 「後ろは私よ永野君」


 後ろには柊がいた。なぜかシャーペンをまるでダーツの矢のように構えて不敵な笑みを浮かべているが、あんたはシャーペンで何をする気だ。

 あとあんたが後ろなのは結構嫌だ。何されるか分かったもんじゃない。


 「楽しい1年になりそうね」


 「そうだねっ」


 柊にしてはまともな発言。そしてそれに笑顔で同意する葵。葵は普段からこうだが、柊もこんな風に普通の高校生っぽい会話をしてればいいのに。


 「存分にいじめてあげる……」


 なんか背筋がゾクッとした。

 とりあえず、最初のホームルームは席替えで決定だな。


 「担任の先生だれかなあ」


 「さあ? 担任なんか別に誰でもいいけどな」


 葵の何気ない質問に俺の思うことを言う。もちろんこのときも背後への注意は怠らない。

 そんな俺の様子に気づいているようで、柊は相変わらずの綺麗な笑顔で「なにもしないわよ」と言っている。あんたの笑顔には騙されないぞ。

 その笑顔は楽しんでいる顔だ。


 「でも恐い先生とかだったら嫌じゃない?」


 「そんな恐い先生なんていたっけ?」


 もちろん背後は注意する。

 柊は相変わらずの笑顔で俺を見ながら「そんなに私が気になる?」などと言っている。

 

 「冬真……沙羅ちゃんがそんなに気になる?」


 「え? まあ気になるといえば気になるが」


 だって気にしてないと、何がおきるか分からない。

 

 「冬真……」


 「なんだ? ってどうした? なんか元気なくなってねえか?」


 なんか分からないけどうつむいてしまっている。これって俺のせいなのか?

 それとも俺の後ろで相変わらず余裕の笑顔の柊のせいなのか?


 「あまり、エッチな目で見ないでほしいわ」


 恥らう、フリをしている。

 というかセリフだけで相変わらず笑っているだけだ。手で胸を隠すようなことはしてるけど。


 「見てねえ。……どうした葵」


 「なんでもない……」


 なんでそんな元気がなくなってんだ?

 ほんともう先生来てくれないかな。

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