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第1話:一年記念、+1

 2年目。そろそろこの蒼坂高校というものにも慣れ始め、友達もでき、まぁ楽しくやっている。

 始業式を昨日終えて、今日は新学年の2日目となる。とりあえず朝起きた俺は、洗面台で顔を洗って、リビングに向かった。


 俺の家は現在、かなり特殊な家族形態をとっている。

 家族構成は、俺と同居人のみ。ちなみにどちらも高校生で、しかも同じ蒼坂高校2年生、そして同じクラスだ。

 リビングには、エプロン姿で俺を笑顔で迎える幼馴染の同居人。杉下葵がいる。俺はこの生活を1年間続けている。最初は高校生2人のくらしには、無理があると思っていたが、葵が家事全般簡単にこなしてしまうので、今ではたいした問題も無く毎日が過ぎて行っている。


 「おはよー」


 「おはよう」


 リビングにはすでに朝食が用意されている。

 1年間で、葵は何だが立派にお嫁さんという感じになっている。というかそん所そこらの母さんよりも母さんだ。間違いなくうちの母さんよりも母さんだろう。

 料理はもともとうまかったが、今ではかなりのレベルの料理が作れるようになっている。とても1年間で上達するレベルでは無いように思うが、もともと器用なので何でもできてしまうのだろう。


 とにかく朝食をいただく、のだが。

 最近なんだか葵は俺の顔を無意味に眺めていることが多い。別に葵に見つめられている事に関して、俺は不愉快だとかは全く思わないのだが、俺なんかとの生活でこいつがおかしくなったんじゃないかと若干の不安も抱いている。


 まぁ飯はうまい。大丈夫だろう。


 「うん、うまい」


 「良かった」


 俺の一言で笑顔になる葵。本当に良い幼馴染だと思う。

 これだけのことをしてくれているのに、葵は見返りの1つも求めていなかったし、文句の1つも言っていない。俺だったらやめて家で元の生活に戻る。

 それか給料もらえるだろ。


 「ねぇ冬真」


 「なに?」


 「あの日から1年経つね」


 あの日。つまり葵が俺の家に来た日、そして俺の両親と姉がどっかに消えた日だ。正確にはまだ1年経ってはいないが、高校生活の始まりという意味では、そうかもしれない。

 ただそれでも1年と1日経っている。

 しかし重要なのはそこではないことくらいは俺でもわかる。


 「まぁ、この日は来るだろうと思ってた」


 「……? そりゃそうだよね」


 「何が望みだ?」


 「?」


 葵は頭の上に?を浮かべている。違ったのか?

 1年経つからそろそろ見返りを求められても当然とは思っていたのだが。そもそも今までそれがなかったことにも、違和感は感じていた。

 そんなことを考えていたのだが、ようやく葵の頭の中でもそこに行き着いたらしい。だがなぜか表情を曇らせてしまった。


 「……冬真。何か思うことはない?」


 「いや特には」


 別に思うことも無いような気もするが、葵はなぜか俺から目をそらしてしまった。しかも「結構がんばってたのにな」とか呟いている。もちろんがんばってくれてたことは理解してるが。

 とにかくこの状況は好ましくない。

 何か幼馴染との関係修復の気が利く技があればいいのだが、俺にはそんなスキルは無い。


 「じゃ、じゃあさ……今日別に用事もないし、学校終わったら遊びに行くか?」


 「……」


 「き、記念にさ」


 ダメかと思ったが記念という言葉で葵は一気に笑顔にも戻った。

 とりあえず一周年でパーッと遊びたかったという理解でいいのか、どうなのか。


 「じゃあダチも呼んでパーッと「いらないわよ!」


 なぜか怒られてしまった。しかも1年間でもなかなか見ることの無かったほどにお怒りの様子。どうも一周年をパーッと祝うという感じでもなかったらしい。

 幼馴染だが、女子って分からないもんだな。とりあえず、記念に、俺と2人でということらしい。


 「じゃあ2人でどっか行くか」


 「うん!」


 この一言でさっきとは真逆、この一年でもなかなか見れなかったほどの笑顔になる。表情にここまで出てるのに、イマイチ分からない。女心というやつか。


 しかし感情の起伏が激しい。やっぱ疲れてるのだろうか。

 ……だから大勢は困るということか。なるほど、ようやく理解した。


 「ね、冬真。私のこと……どう思ってる?」


 唐突にこんなことを聞く。一年の間でも何回か聞かれたが、何も、俺の気持ちは変わらねぇよ。


 「当然好きだ」


 だって幼馴染だし、もう10年以上の付き合いだしな。それに葵のことを嫌いになる男って、日本にほとんどいないんじゃないか?

 ブス専かホモだろ。俺としては変な男に引っ掛けられないかが不安でしょうがない。美人だしな。


 「私も」


 この新婚ほやほやなやり取りもなんだかなぁ、とは思ったりするが、葵はそれで満足らしいし問題ないのだろう。


 「ごちそうさま」


 ちょこちょこと話しながらだったが、朝食を俺は食べ終わった。葵の朝食はまだ結構残っているが無理も無い、というかこれで計算が合う。


 何の話かというと、まず俺はキングオブ平均値。つまり特徴が無い男と自他共に認めている。ちなみに男からの意見以外は参考としていない。しかし女子に聞いても同じだろう。

 そんな俺に残された長所というのが、2.0という良い視力と、飯を食うのが早いということだ。どちらも学校の昼休みに行われる行事に役立っているが、それは今はどうでもいい。


 大事なのは計算のほう。蒼坂高校で俺たち幼馴染と関係を持つ生徒はかなり多いが、俺と葵の同居関係を知っているのはごくごく少数の生徒だけ、というか2人だ。

 ここまでごまかせたのは、葵の家が近所というほどでもないが遠くないことと、こうやって行動時間を微妙にずらすという工夫があったからだ。


 葵は俺と一緒にいるところを学校で見られることに関しては、むしろ積極的だったが、同居していることはばれないようにしようというのは、俺も葵も最初に共通で思ったことだ。

 

 1年前に葵の親父に電話で言ったとおりに、俺と葵にはなにも起こらなかった。というか起こるはずもなかったのだが、同居しているという事実が知れればこの考えには誰だって至る。

 やはりそれはよろしくないのだ。


 「じゃあ俺先に行くわ」


 「いってらっしゃ~い」


 葵に笑顔で見送られ家をでる。俺の家は住宅地の中でも、大きな道路からは離れた位置にあるので、この辺までやってくる生徒はいない。

 不便な位置と思ったりもしていたが、何かを隠すには最適だった。


 「お弁当持ったー?」


 玄関から顔を出して葵が俺に確認する。もちろん弁当はしっかりかばんの中に入っている。俺は笑顔で持っていることを伝えた。


 「やっ! 元気にしとるかね」


 不意に後ろから声をかけられた。地声が高い男が、無理に年寄りみたいな声を出そうとした感じの声だ。俺に声をかけるのだから、まさか学校の奴か?


 「……拓海かよ。脅かすな、一体何してんだよ」


 「あぁ、高校生らしい、節度ある健全なお付き合いについて考えていたら、ここにやってきていた」


 「俺に言ってるのかそれ?」


 残念だが的外れだ。

 そう伝えるとこの男は盛大なため息をついた。何か意味ありげな行動だが、こいつはバカだから仕方が無い。きっと深い意味は無いか、拓海だけが分かる何かだろう。

 

 先ほどこの同居という事実は、学校の人間には隠しているといったが、この男、佐山拓海にならば見られても問題は無い。

 なぜならすでに知られているからだ。この事実を知っている人物のうちの1人は、この佐山拓海だ。

 背が低く、声が高い。日本人離れした金髪が、日本人の顔となぜか絶妙にマッチしているという希少といえば希少な男だ。自称蒼坂ナンバーワンベビーフェイス。まぁ童顔という意味ではあってると思う。

 まぁ本当ならば知られたくは無かったが、ばれてしまったものは仕方が無い。隠すことは無意味だ。


 「はあー、まさか葵がストーキングされるとは思っても見なかったしなぁー」


 こいつは葵の後をつけて来て、玄関から顔を出した俺に出会ってしまったのだ。


 「昔のことは言いっこなしでしょ」


 よく蒼坂のベビーフェイスと言えたものだ。俺と出会うなり大慌てで去っていったくせに。誤解を解くのに骨が折れたというものだ。


 「まぁ昔のことは確かにいいや。せっかくだし一緒に学校行こうぜ」


 「えぇー? 男と?」


 「お前女子と通学したことあるのかよ」


 「っ! ちぇっ、これだから幸せな奴は……」


 どうも無いらしい。幸せなやつというが、俺は今はそりゃ不幸だなんて思わないが、1年前家族に捨てられたようなものなんだぞ。


 「なあ、冬真」


 「なんだよ」


 なぜか拓海の表情はいつもとは違い、真顔だった。これはきっと、ろくでもないことを言い出す前兆だ。


 「葵ちゃんとキスとかした?」


 「……」


 こいつの中で誤解は結局解けていなかった。やはりあの時の「はいはい、分かりました」は嘘偽りだったらしい。なんで分かんないかな。


 「あのな、俺が葵とそんなことするわけ無いだろ」


 「お前さー、それ本気?」


 佐山拓海の持論。若い男女が同じ屋根の下2人でいれば、キスくらいは当然で、それはそれは淫らなことになる。否、ならなければおかしい。

 そんなわけねぇだろ。幼馴染ってのは、もはや家族みたいなもんなんだよ。


 「じゃあ聞くが、お前の母親がそりゃあもうやばく綺麗だったら襲うか?」


 「襲う」


 聞く相手を間違えたらしい。


 「……悪いが、お前と分かり合える日は一生来ない」


 「ていうか何で母親が出てくるわけ?」


 「そういうものなんだよ葵は」


 「うわぁー、お前絶対女泣かすタイプだ。正直俺、お前のこと嫌いかも知れねーわ」


 久しぶりに会って、その言い草は酷いんじゃないだろうか。

 

 「俺はミスター平均値。そして紳士だからな、泣かされても絶対泣かせねぇよ」


 「無理」


 「なんでお前に否定されなきゃならないんだよ」


 「セリフの最後のフレーズはちょっとカッコいいのがはら立つ。もう、全校生徒の男子の望みだから、お前死んでくれ」


 「ちょっとそれは酷いだろ……」


 「酷くねぇ!」


 なぜか怒り出した拓海は、1人で学校までの道を走り出してしまった。

 めんどくさいから追いかけないけど、結局1人で登校かよ。まぁいつもこうだし別にいいけど。


 というか……

 俺って嫌われてるのか?

 なんか心の中に1つ、大きな不安が生まれてしまった。

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