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第9話:私立紅里工業高等学校

 「……この、エロ大魔王……」


 「いや、あれは過失だ。つーか事故だ、俺は悪くねえ」


 俺は寝巻きに着替えを終えた葵と、椅子に座って向き合っている。その顔は、どうも怒りで真っ赤になってしまっているようだ。

 確かに結果として申し訳ないことをしたわけだが、それはあくまで事故で、葵が100パーセント被害者というわけでもない。


 ちなみに脱衣所からは、10分くらいたってから出た。

 2時災害を防ぐためにはしょうがなかった。


 「何であんな場所に……」


 「だから心配だったんだって……」


 俺にはそれしか理由がない。

 普通に葵が、溺死しないか心配だったのだが、どうも葵はさっきよりも顔を赤くしてうつむいてしまった。もしや、噴火数秒前だったりするのか?


 「……もう寝るね」


 「分かった、俺はまだ起きてるわ」


 以前顔は真っ赤のままだが、それが噴火することはなく、葵は階段を登って2階の部屋に向かった。


 ……暇になっちまったな。

 とりあえず、コンビニでも行こう。


 



 もうすでに外は真っ暗。

 女子が一人歩きするには心配があるが、俺みたいなのがうろうろしていても別に問題はない。


 歩いている人は少ない。しかし、大きな道路のほうに来ると、やはり人はいる。

 それも、ものすごく見知った顔がいる。


 「拓海、こんな時間に何してんだ?」


 「……その言葉、そっくりそのままお前に返すよ。葵ちゃんはどうしてるんだよ」


 「寝た」


 「まだ8時だよ?」


 「俺に言われてもな……。どこ行くんだ?」


 「コンビニだよ……」


 そう答える拓海の表情は、なぜだか疲れきっている。

 

 「俺もだ、一緒に行こうぜ」


 拓海と一緒にコンビニまで歩いていった。

 

 コンビニは24時間営業。すごく便利なものだと思う。

 そして便利で、使い勝手がいいここは、夜は不良の溜まり場となっていたりする。やはりバイクが数台止まっていて、入り口の前に不良がたむろしている。


 それを無視して店内に入る。


 「冬真殿、それに拓海殿も」


 「あ? 武蔵か。何してんだ?」


 「ちょっと使いを頼まれたもので」


 店内には、ファミ通を立ち読みする、パシられ武士の宮木武蔵がいた。こんな時間にコンビニに来て、まさかクラスメイト2人と出会うとは思ってなかった。


 拓海が武蔵を見て、つっこんだ。


 「お前ほんとにお使いかよ、思いっきり立ち読みしてんじゃん」


 「ははは、まさかコンビニにファミ通があるとは」


 「答えになってねぇよ」


 拓海の言葉を、武蔵は笑ってごまかしていたが、突然表情を変えた。

 その目線は俺や拓海の後ろ。たむろしている不良たちに向けられていた。


 「あいつら、紅里の者にござる」


 「紅工か……あいつら俺たちのこと見てなかったみたいだけど、あいつがいたらヤバイな……」


 拓海の言う紅工。正式名称は私立紅里工業高等学校。ここら辺ではそれなりに名前が知れた、不良校だ。

 俺や拓海、もちろん武蔵も不良というわけではない。まぁ真面目な生徒ともいえないと思うが、喧嘩ばっかりしたりはしないし、当然だが勢力争いだなんて物騒なものには興味はない。

 しかし、俺たち3人は紅工の生徒と少しばかり面識がある。一度揉めたことがあるからだ。


 そして「あいつ」というのが現在紅工を仕切っている人物で、去年俺たちと揉めたときの紅工の中心人物だ。


 「確かに、こんなところで乱闘騒ぎなんて笑えねえ」


 「だからお前はファミ通読んでたのか?」


 「まぁそれはあまり関係なかったでござるが、一番目立つ拓海殿が来てしまったおかげで、今は立ち読みでもして時間を潰すのが得策、となってしまっているでござる」


 確かに、ここまで純粋な金髪は少ない。日本ではめちゃくちゃ目立つことだろう。


 「8人はいるな……」


 「そもそもここは、紅工の連中なんていなかっただろ。あいつら何してやがんだ?」


 「分からないでござる。しかし、ただ事ではなさそうでござるよ」


 どうしたものか。家にはすでに寝ている葵が1人。

 すぐに帰れる距離だから、大丈夫だと踏んでいたが、こんな場所で足止め食うとは思っていなかった。というか、こんなところでのんびりしてられねぇ。


 スナック菓子を適当につかみ、俺はレジに置いた。

 金を払い、出口に向かう。


 「おぉ~? やっぱりお前じゃねーか、蒼坂の色男君」


 ……最悪だ。よりによって「あいつ」に出会ってしまった。後ろから、拓海と武蔵も出てくる。紅工の全員がこっちに注目していた。その中の1人が拓海のほうに歩み寄ってくる。


 「おい、金髪。俺の顔、憶えてるだろ」


 「は? 知らねーけど?」


 「……死にてえのか? 状況見えてる?」


 挑発に乗って、前に出かける拓海を、右手で制する。こんな場所で乱闘になったらまずい、それに数でも不利だ。


 その様子を見ていた「あいつ」が笑みを浮かべ俺の顔を見る。

 私立紅里工業高等学校2年。馳河類。去年、拓海に喧嘩をふっかけてきて、最終乱闘にまでなった危険な男だ。

 

 「大人だな、まぁ。こっちはやるけど」


 頬に痛みが走る。馳河が、俺の顔面を殴り飛ばした。

 後ろに倒れて、ゴミ箱に頭を打ちつけた。スナック菓子が袋ごと飛び、馳河にぶつかる。それを踏み潰して馳河が、俺のほうへと近づく。

 そして俺の胸倉をつかみ上げようとしたところで、馳河は後ろに飛んだ。


 「てめぇ! ふざけんなよ!」


 拓海が馳河を殴り飛ばしていた。人が我慢しているのに、お前がふざけるな。


 「おい! やめろ」


 「うっせぇ、ダチが殴られてて見てられるか! ……一発は返した。逃げるぞ」


 無言で頷いた武蔵が、背中から木刀を抜き出し、構えた。この状況だから何でもいいが、お前そんなもん日常的に持ち歩いてるのか?

 下手したら警察来るぞ?


 そしてその木刀を、連中に投げつけた。じゃあ構えるなよ、とつっこんでいる暇はない。

 木刀をよけて、開けた道を3人で走りぬけた。


 「……逃がすかァ!」

 

 後ろから追ってくる紅工の連中を振り切るために、俺は住宅地のほうへと全速力で走った。





 住宅地は結構複雑だ。俺は土地勘をフルに活用して、人の家の庭とかを使ってどうにか振り切った。

 俺は今、知らん人の家の庭に飛び込んでいるわけだが、どういうわけか金髪の、しかし拓海ではない人物と向き合っている。そいつは明らかに不自然だ。

 なぜか真っ黒なコートを着ているという時点でおかしいのだが、マスク、サングラス、ヘッドホンのフル装備は、むしろ俺は不審者とアピールしている。


 「あっ……いや。俺は不審者ではないからな」


 「そうなのか? でも俺がこの家の人間だったら、迷わず警察呼ぶ」


 「だったら? お前はここの人じゃ……」


 「ねえよ。俺の家はこの辺だが」


 「なるほど、俺はこの辺のことはよく知らなくてな。まぁ人探しで来てるんだが、道が分からなくて困ってんだ」


 「……道案内してるほど暇じゃねぇぞ?」


 「あーいや。一般人巻き込む気はねぇよ」


 「そいじゃ、アデュー」と、妙にかっこつけて不審者は俺の前から消えた。

 とりあえず、あまり長く葵1人で家で寝させているのも問題なので、俺は家に帰ることとした。






 途中、完全にのびている紅工の連中が転がっていた。理由は知らんが助かった。






 「ただいまー」


 誰も起きていない家に帰ってきた。当然返事は返ってこない。

 ちょっと全力で走って疲れた。俺は風呂に入って、すぐに今日は寝ることにした。

男ばっかだ……

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